あの名店による直伝。ハズさない焼鳥の店と頼み方

【連載】肉の兵法 第三回  肉に向かうときに雑になってはならぬ。どこでどんな肉を食べるのか、組み立てるのが大人のたしなみであり、男の作法。「大人の肉ドリル」著者である松浦達也氏が旨い店の肉をさらに旨く食べるための作法を解説する。

Summary
・焼鳥はどういう注文がいいのか?
・この3本を頼めば、その店がわかる!
・どんな酒に合わせたらいいのか?

"焼き"の求道者、ミシュランガイド東京 一つ星掲載焼鳥店店主が説く、「ハズさない焼鳥」

前回の(東中野の焼肉店「慶州」の極厚タンの記事)が好評だったようで、まずは御礼を申し上げます。

ちょっと不自然な書き出しとなった理由は、実は前回が(書いた時は、そんなつもりもなかったのに)今回の伏線になってしまったからだ。慶州の回をお読みいただいた方には重複して恐縮だが、前回、厚切りタンの焼き方をこんなふうに説明した。

――― 以前、某『dancyu』誌の焼肉特集の取材時に、焼きの名手として知られる銀座バードランドのご店主、和田利弘さんに厚切りタンの焼き方を教わったことがある。―――

詳細は『dancyu』2013年8月号の「ときめきの肉2013」特集をご覧いただくとして、その考え方が、焼肉店における僕の厚切りタンの焼き方のベースになっている。という話を書いたところ、Facebook上で和田さんに早々に反応していただいた。しかもそのことに僕が気づいた日には、和田さんはもう東中野の慶州を訪れていた(数日遅れで気づく体たらく)。

というご縁もあり、連載3回めで早くもやってきました。ミシュランガイド東京 一つ星掲載の焼鳥店、『銀座バードランド』。しかも、せっかくなので和田さんに「焼鳥店でのハズさない注文の兵法」も聞いてしまおうという図々しさも携えて。

ちなみに、久しぶりにおとずれた銀座バードランドは、ずいぶんと外国人客が増えていた(余談)。


■バードランドのコースに見る、注文の組み立て方
まず、銀座バードランドのおまかせコースの基本的な流れを見てみよう。
1.前菜
2.レバーのパテ
3.串焼き8本
4.山椒焼き
5.親子丼

となる。そしてすでにこの組み立てに、焼鳥の注文における鉄則が隠されている。

串焼きだけでなく、親子丼も絶品。

【焼鳥の兵法その1】 焼鳥のみを注文するべからず

「焼鳥を食べに行く」。となれば、もちろん焼鳥を注文するに決まっている。が、和田さんは「最初から、焼鳥のみという注文は避けたほうがいい」と言う。どういうことか。

「焼鳥の焼き台って、同時にそう多くの本数を焼けるわけじゃない。特に熱源が炭の場合は、火力のコンディションは常に変わるし、注文状況に応じて焼き台の上の混雑状況も変わる。すぐ焼きに取りかかれないタイミングでご注文いただくこともあるんです」

まず大前提として! 焼鳥店の厨房はいつでもよく焼ける状態とは限らない。いきなり串焼きだけ注文すると、お通しだけで延々酒を飲み続けることになるかもしれないし、あるいは『何も出さないわけにはいかない』と焦って焼きの甘い串が出てくるリスクもある。うまい焼鳥を食べるために、串もの以外のつまみの注文が必要なのだ。なんだか哲学的ですらあるけれど。

「単品の注文が多いと、焼き台上のマネジメントが複雑になる。銀座バードランドはコース中心なので前菜やレバーのパテで調整できるんですが、串しか注文が入っていない場合は炭の状態に関わらず、焼き台に乗せなきゃいけないし、そういう状態だと焼き手にプレッシャーもかかる。やっぱりおいしいものが出てくる確率は下がりますよね」

【焼鳥の兵法その2】 まず正肉より始めよ

初めて足を踏み入れる店では、とりわけ注文をどう組み立てるかが難しい。「焼鳥以外」を注文しつつ、焼鳥は何を注文するかというと……。

「やっぱり、ネギ間、ツクネ、正肉でしょう。この3本で肉、焼き、仕込みの具合や、自分に合う店かどうかがわかります」

ナンコツなどは素材や焼きの違いがわかりにくい。レバーやハツなどは当たり外れが大きく、骨つき肉は火入れが難しい。サラダやお新香にプラス3本程度の焼鳥なら、仮に失敗しても次の店へと退却して作戦を練り直せる。先に挙げた3本なら、万一の場合のダメージも最小限に抑え、必要な情報は手に入るというわけだ。

【焼鳥の兵法その3】 合わせる酒は、脂の強弱で選ぶべし

焼鳥と言えばビール、チューハイ、日本酒と相場は決まって……いた。「いた」というのは、バードランドのように焼鳥にワインを合わせる店が、増えてきたからだ。実際、バードランドで修業を積んだ職人の店は、いずれもワインが充実している。

「焼鳥や焼肉の場合、酒との相性は味つけではなく、肉自体の脂の強さと焼き目の強さで選んだほうがいい。焼肉でも途中からマッコリを飲んだりするでしょう。酸がしっかりしてるから、肉に合うんですよ」

合わせるべきは味つけじゃなく、脂だった! そしてここから和田さんの怒涛のワイントークがスタートする。

「まず脂の重いものには、ローヌ産のシラーやグルナッシュのようなスパイシーな品種や、イタリアのサンジョヴェーゼ種――とりわけブルネッロと言われるサンジョヴェーゼ・グロッソ種などの赤。焼いた肉に合うんです。スパイシーな風味がメイラード反応――焼き目の味に合う。といっても、焼鳥や焼肉は焼くと脂が落ちて多少軽くなるので、合わせるものによってはワインが勝ってしまうかもしれません」

では、脂があっても軽さもある肉――ずばり焼鳥のストライクゾーンは?

「誰にでもおすすめできるのがリースリング! いい畑――グラン・クリュ(特級畑)やプルミエ・クリュ(一級畑)のある程度年数が経ったきりりとしたもの。軽いタイプのリースリングなら若いものでもいい。辛口の白ならオーストリアのスマラクトも合います。樽香の強いシャルドネはうちではおすすめしていません。要は適材適所。マニアックに行くなら、ロワールのシュナン・ブラン種もいいし、イタリアのノジオラ種をアンフォラという甕で仕込んで2年以上熟成させたやつも、したたかでいいんですよ!」

とうとうノジオラ種(イタリア)のボトルを開け始める和田さん。

最後のほうは和田さんのテンションがダダ上がりで、やや置いてけぼり感もないではなかったが、さすがは、自ら探し求めた70種のワインを揃える店主。ちなみに脂の少ないものに合わせるなら?

「焼鳥には多少の脂はあるので、うまく合わせていただきたいんですが、オーストラリアのグリューナー・ヴェルトリーナー種で仕込んだワインは、フレッシュでさわやか、透明感もある。ついでにお値打ち感もある(笑)。日本ではまだそれほど知られていないけれどいいものが多い。あと、ワインに詳しい方なら、インポーターを見るのが一番確実。売値、仕入れ値、ワインに対してのやる気、全部がわかりますから」

一瞬、「そこまではわからない……」と腰が引けたが、自分が知らずとも詳しい人と同行して、背中をそれとなく押せばいいということか。うん。それならなんとかなりそうだ。

でも、ビール好きとしては、やっぱりビールも飲みたくなる。

「僕も、サッポロの黒ラベルやキリンのクラシックラガーなんかが置いてある店では、最後までビールで通しちゃうこともありますよ。でも、ワインも選択肢にあったほうが、楽しみの幅が広くなる。お店選びもそうですが、失敗を怖がり過ぎると、新しいものを得られなくなる。気に入った店に出逢ったら、まず通う。そして注文に込めた『うまいものを出せ』、『これでどうだ』という無言のやりとりをしながら、新しい味に出逢う。これぞ外食の醍醐味です」

食のまわりには、膨大な情報が流通している。だがその情報に、どれだけ「人格」が込められているか。行き過ぎた点数評価やスペック語り、デタラメだろうと広めた者勝ちという風潮は、シーンをつまらなくしてしまう。世の食いしん坊がやるべきことは単純だ。好みの店を探す"嗅覚"を鍛え、安全圏から一歩を踏み出す経験を重ねる。

"マリアージュ"は、酒と食の間にだけあるものではない。奇跡のような"出逢い"は店と客の間にも存在する。

<メニュー>
日本で初めて焼鳥店として『ミシュランガイド東京 2010』一つ星に輝いた名串焼き店。奥久慈軍鶏を使った串焼きのおまかせコースは6,300円と8,400円の2種。前菜、レバーのパテ(名物)、串焼き8本、山椒焼き、親子丼(小)は共通で、後者には、ささみの梅しそ焼き、焼きチーズ、プリンなどが加わる。ひととおりのコースに追加する形で、その他単品メニューや串焼きメニュー多数。ドリンクは生のプレミアム・モルツ750円、アウグスビール850円のほか、日本酒は神亀数種や竹鶴、天狗舞など。ワインは膨大な種類があるので、事前に電話か現地で確認を。

※松浦達也さんのスペシャルな記事『高田馬場のとっておき酒場は、あのサイトにも載っていない「もつ煮込み」の聖域だった』はこちら

バードランド

住所
東京都中央区銀座4-2-15 塚本素山ビルB1
電話番号
050-5487-3819
営業時間
17:00~22:00
(L.O.21:30)
定休日:月曜日・日曜日
祝日
ぐるなび
ぐるなびページhttps://r.gnavi.co.jp/1u8sku5e0000/

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。