意外なご当地天ぷらから幻の牛肉までマッキー牧元氏が食べた4軒
【連載】マッキー牧元の「ある一週間」 第12週 日本を代表する食道楽の一人、マッキー牧元さん。彼はどんなものを食べて一週間を過ごしているのか。「教えていいよ」という部分だけを少しのぞき見させていただく。
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- Summary
- ・岡山・日本有数の名農場
・広島の魚の旨さとご当地天ぷら
・自然放牧された牛の味わいとは?
10月26日「日本を代表する名酪農家のもとへ」
鮎、チーズ、倉敷マッシュルーム、チーズ、アスパラガス、ピッツァ、カキフライ、熟れ鮓、熟れ飯いりソーセージ、ワイン。
日本一の品々を澄んだ空気に包まれながら食べる幸せ。
岡山 吉田牧場にて。
10月27日「吉田牧場の朝」
朝の訪れは、こうでなければいけない。
トマトとモッツァレラのサラダと、みずみずしい人参のサラダ。
焼きたてのパンケーキと全粒粉のパン。
フレッシュなリコッタに、様々な蜂蜜。
茸とトマトのスペイン風オムレツには、チーズをたっぷりふりかけて。
絞り立ての牛乳と、甘い香りを漂わせながら舌の上でふわりと消えていく、自家製バター。
そして外には、山の澄んだ空気と溢れんばかりの緑。ああ、幸せが満ちていく。
吉田牧場の朝。
吉田牧場
- 電話番号
- 0867-34-1189
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
10月28日「サワラはシルクのブラウスを纏っていた」
「焦らさないで」。僕はサワラに、そうお願いをした。
脂がじっとりとのっているのに、品がある。
気高いシルクのブラウスで包んだ色香が憎い。
なんというサワラだろう。
薄紅色が刺したに身を舌に乗せる。噛む。脂の甘みがゆるりと流れ、「うっ」とため息を漏らした瞬間、その誘惑は消えている。
取り合わせは、白いかに夜泣き貝。
以前は、誰も食べることがなかったという夜泣き貝は、今は高級貝である。噛めばコリッと音が響いて、海苔の香りたち、かすかな甘みがにじみ出る。魅力は、サザエにも似た、いやサザエより痛快で軽い食感だろう。
コリッ、コリッと噛みしだけば、世の憂さが飛んでいく。
そして添えた、小さき胡瓜の酸味が効いている。
黒メバルの煮付けはなめらかで、舌にふわりと密着するような感が、たまりません。
それでいて煮汁に負けぬうま味が、ゆるゆると口を満たすのである。
一方広島の穴子は、ふっくらと。獰猛な甘みを秘めて、カブの優しさと抱き合っている。
さらに吉田牧場のカッチョカバロを焼いて、三国屋の海苔にのせりゃ笑い止まらず、香茸のホロ苦味と甘み、そして山の香りを包み込んだ白和えにむせび泣く。
締めは、三国屋の海苔と塩おにぎり、アサリの味噌汁、ドライアイスで渋を抜いた柿といく。
広島「白鷹」の素晴らしき夜。
白鷹 (ハクタカ)
- 電話番号
- 082-241-0927
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
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10月29日「これも天ぷら」
駅から離れた住宅街に、店が一軒。
「天ぷら 御食事処 天ぷら 御食事処 くりはら」 二回の繰り返しが気になるけど、この外観を見た限りでは、誰もこの店がホルモンを出すとは思わない。
そう。一部の広島県人以外は。
この店だけではない。界隈には同じ看板を出す店が何軒か点在している。
店内は、土間に左手がカウンター席、右手がテーブル席となっていた。
カウンターの中では、おばちゃんが三人働いている。
ビールは勝手に自分で取って、あける。そうここまでは予習通り。
カウンターに座ると、目の前にはまな板と小包丁。
僕の目前だけでなく、等間隔にまな板と包丁は置かれている。
メニューは、天ぷら100円、おでん120円、田楽うどん450円といたって普通である。左端の「せん牛750円」という高値だけがなんだかわからないが、後は普通である。
「おでんに天ぷら」。と頼む。
まな板と包丁以外は、どの街にでもある光景である。
するとおばちゃん、大根やこんにゃくもあるのに、牛すじだけを二本とりだして皿に置き、差し出した。「おでん」といえば、牛すじのことで、他は大根とか卵とか言わなくてはいけないらしい。
しかもこいつ、牛すじだけではない、大腸も混入しているではないか。
食感の違いがあって、おいしい。
やがて左のおばちゃんが冷蔵庫から何やらとりだして衣をつけ、揚げ始めた。
ん? 黒いのやら白いのやら、長いのやら短いのやら。はたしてあの物体は?
「天ぷら」。広島の西区では天ぷらといえば、ホルモンの天ぷらなのです。といっても隠れ名物であって、決して市外の人には言おうとはしません。
こっそり楽しんでいるらしい。
「おばちゃん、ちぎもある? それに白肉、都合で5つ揚げといて。後これから病院に行くから、チギモ3つお土産で」。
なんて会話がなされております。「はい、天ぷら」と、まな板の上にどさっと置かれるので、それを自ら包丁で食べやすく切る。
ベテランは左手に箸を持って抑え、右手の包丁で鮮やかに切る。まな板で銘々が切るという儀式! が真昼間から堂々と行われています。
なんという事でしょう。ここで喧嘩が起きたら大変であります。
揚げられるのは、脾臓(チギモ)にミノ(白肉)、小腸にセンマイ(ヤンのような厚さだった)。
切った天ぷらは酢醤油ダレを小皿に入れ、韓国唐辛子の粉をたっぷり入れて、それにつけて食べるのであります。
サクッと衣に入れば、クニュッ、コリッ、ふわっと、様々な食感が歯を喜ばす。
ビールとやれば、止まりません。
しかしこれを、しかも血臭いチギモ天ぷらを病院見舞いに持っていくとは、なんという素晴らしい文化なのか。
そして〆は、「でんがくうどん」。
といってもおでんではありませんよ。
ホルモンでとった優しい出汁に、茹でた各種ホルモンがのる。
飲むたびに穏やかな甘みが押し寄せてため息が出る。
ああ、もうやめて。
この店のためにもう一度広島に来てやる! 僕は一人叫ぶのでありました。
くりはら天ぷら店
- 電話番号
- 082-232-0555
- 営業時間
-
11:00~20:00
定休日:定休日 日曜
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
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10月30日「肉料理の『頂』」
上唇が、ふんわりと白いムースに触れた。
下唇が、サクッとブリオッシュに触れた。
歯が始動して、二つを一つにまとめあげた。
栗の蜂蜜が、ゴルゴンゾーラの塩気を優しくした。
パンの香ばしさが、その塩気を暖かく包み込んだ。
僕はもうたまらなく、大声で笑った。
その黒い塊は、艶と輝いて、問うてきた。
「俺の精を食べるかい? お前にその心構えはあるのかい?」
健やかに育てられた牛の尾は、8本のサンジョヴェーゼと野菜だけで、じっくりと煮込まれた。
その太い部分だけが皿に盛られている。ナイフを刺すと、力を入れるまでもなく、ほろりと肉が崩れた。
ゆっくりと口に運ぶ。
ああ。ああ。言葉が出ない。
「おいしい」と言うのも、もどかしい。
放牧された牛は、牛舎に閉じ込められた牛と違い、尾をよく動かす。
発達した筋繊維とコラーゲンは、深い滋味となって舌に流れ、脂はだらしなさが一切なく、きれいな甘みとなって溶けていく。
ワインの酸味とコク、野菜の甘み、そして肉の旨みが同化した、丸い天体が渦巻いている。
と、書いてはみたが、食べても、食べてもその味の深淵は、一端も表現できない。
唯一言えるのは、世界は無限であるということか。
「この料理を作るために、味を再確認するために、コートドールに行って食べてきました」そう高山シェフは言って笑った。
「メザババ」高山シェフ、「サカエヤ」新保さん、そして松井牧場。
その三者が生んだ、頂きである。
包みたてのラヴィオリは、ふんわりと。
餡をそおっと抱いている。
餡と皮の間に、わずかな、わずかな空間があって、優しく歯を迎え入れる。皮がまだしなやかで、存在感はあるのに、するりと消えていく。
消えていったそのあと口に、噛んで喉に落ちかかる瞬間に、ああ。
愛農ポークの甘い誘惑が立ち上って、我々の体から力を抜いていく。
メゼババ
- 電話番号
- 03-3636-5550
- 営業時間
-
17:00~翌2:00
定休日:定休日 不定休
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
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