品川駅高輪口すぐ! 1日12人だけに用意された焼鳥の口福

【連載】幸食のすゝめ #007  食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

Summary
・品川駅前の雑居ビル
・旧き良き鶏の味がする大和肉鶏
・リースナブルだけど完全予約制

幸食のすゝめ#007 頬張る口には幸いが住む、高輪。

「幸せは撃ったばかりの熱い銃」、ホワイトアルバムのジョン・レノンの歌声を聞く度に、焼き上げられたばかりの大きな焼鳥を思い浮かべる。炭火の上で、色を変えながら、香り立つ匂いを立てて膨らんでいく肉。皿に置かれた瞬間、間髪を置かず口に運ぶ。パリっと香ばしい皮から、香り高い脂が浮き立ち、まずは甘噛みしてジューシーな肉汁を感じた後、厚みのある肉を口一杯に頬張る、あの瞬間の高揚感。口中にほとばしる肉汁を感じながら、ジョンの高音のシャウトが聴こえる、Happiness is a warm gun.

新幹線の開通で様変わりした品川駅。そのすぐそばに1階にパチンコ屋が入った、昭和の残響が聞こえる古い雑居ビルがある。その地下、直線距離ではいちばんJRの高架に近い辺りに、鮮やかなグリーンの看板が見つかる。

『鳥てる』は完全予約制、12席、1日1回転のみの営業。メニューも潔く9本か7本の焼鳥に、日替わりの小鉢と箸休め、スープが付いたコースのみ。店主の青木さんが、たった一人で鳥を焼き、酒をつくり、接客する。ほとんどの人が9本のコースを頼み、親子丼や鳥茶漬、焼鳥を挟んだYドックなどの〆(〆類は予約制)を平らげる猛者も多い。

1本目の「さび焼き」の登場で、初めての客たちはその大きさに圧倒される。そして、口に頬張り、レアなジューシーさと旨味に驚き、一気に食べ終わる。摺り立ての生山葵と、1枚だけ被せられた大葉が鮮烈にささみを引き立てる。

2本目の砂肝はサクっとした食感を活かしながら、柔らかさも感じられる焼き上がり。それは通常カットしない部分までを掃除する、鳥てるの徹底した仕込みの成せる技だ。

いよいよ、前半のスターであるレバーの出番。とにかくプルプルで中心はレア、そして笑ってしまうほど大きい。タレ味のレバーは焦げやすく、途中焦げたエッジを鋏で丁寧に切り落としていく。

3本目はその日の仕込みの中から、セセリか、鴨か、もも正肉を選ぶ。

鳥てるの肉は、ヘルシーで美味しかった昔の「かしわ」の再現を目指し、名古屋種とニューハンプシャー種、そして軍鶏(しゃも)を交配して、奈良県畜産試験場で生まれた大和肉鶏だ。ブロイラーの2倍の飼育期間で育てられ、適度に脂肪がのり、しっかりとした旨みがある。一方、鴨は濃厚な国産の合鴨ではなく、脂が少ないフランス産のバルバリー種を使い、コースに変化を与える。何れもポーションは特大、鳥てるで使用されている串は、かつての渋谷の名店鳥重と同じく、本来は鰻用の串で仕込まれている。

毎朝、1から鳥を捌き、仕込み、串を打つ

だんご(つくね)には、軟骨やハツ元、ハラミやセセリ、掃除でカットした砂肝の硬い部分などが、山椒と共にミックスされる。軟骨も、通常のヤゲンと膝を連ねて刺す。それは毎朝届く新鮮な鳥1羽を自ら捌き、仕込み、串打ちするからこそ可能になる仕事だ。父親に連れられ、小さい頃から馴染みの河豚屋があったという青木さんは、やがて料理人を志し、追い回しとして厨房に入る。しかし、ある日食べた伊勢廣の焼鳥にショックを受け、和食全般ではなく焼鳥を極めようと決心。解体から串打ちまで行う鳥問屋で基礎を固め、伊勢廣の流れをくむ青山の有名店で修業を積んだ。

1日12人だけが出逢える焼鳥のパラダイス

鳥てるを開く時の信念は、「口いっぱいに頬張って欲しい」という一心。それこそが肉を喰らう幸せだし、上質な肉は細かくせず大きなポーションで食べる方が旨い。お洒落で小さな串と、ワインや一品料理などの付加価値で売るのではなく、最良の仕込みと串打ち、完璧な焼きで勝負したい。真っ当でストレートな鳥にかける情熱は、いつか世の鳥好きたちに浸透し、鳥てるは予約困難な人気店になった。しかも、1日12席のプレミアムシートは驚くほどリーズナブルだ。好きな酒を頼み、運ばれる肉に無心に食らいつく、それは何ものにも変え難い至福の時間だ。頬張る口には、幸いが住んでいる。


<メニュー>
9本コース3,672円、7本コース3,240円、生ビール540円、焼酎540円~、予算4,000円~5,000円
(ワインなど酒類の持込可、予約時に要相談)

※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。

※森一起さんのスペシャルな記事『幸食秘宝館・武蔵小山、グルメランキング上位には載らないホントウの名店3軒を巡る』はこちら

鳥てる

住所
〒108-0074 東京都港区高輪3-26-33秀和品川ビルB1F
電話番号
03-5421-1919
営業時間
18:30~22:00
定休日:定休日 土・日・祝日
ぐるなび
ぐるなびページhttps://r.gnavi.co.jp/c63eb89e0000/

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