塊肉をなんと10時間焼き! 湘南で食べるアメリカ仕込のBBQ
【連載】肉の兵法 第四回 肉に向かうときに雑になってはならぬ。どこでどんな肉を食べるのか、組み立てるのが大人のたしなみであり、男の作法。「大人の肉ドリル」著者である松浦達也氏が旨い店の肉をさらに旨く食べるための作法を解説する。
※こちらの店舗は閉店しました
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- Summary
- ・手間がかかりすぎてアメリカでもやらないレベルのこだわりBBQ
・調理が一番短いものでも一晩寝かせたあと5時間焼き!
・普段日本では使わない部位も柔らかく
「肉焼きの常識」は生活環境に大きく左右される。
例えば肉焼きの歴史も浅く、住居も庭も狭い現在の日本では、「外食×焼肉」がもっともスタンダードな肉焼きだろう。いっぽう、家庭用の小さな石窯が早くから導入されたイギリスには、ローストビーフという伝統料理があるし、フランスでは「肉はおばあちゃんの家の暖炉で、温めるように焼け」という格言があるという話を、そしてアメリカでは、広い庭に当たり前のように巨大なバーベキューグリル。各国の肉料理を見れば、一目瞭然。「肉焼き」の文化は環境に左右されるのだ。
とまあ、なんだか重い書き出しから入ってみたが、この10年ほどで日本における肉焼きの技術はフレンチやイタリアンの技法を取り入れ、劇的に進化した。だが、まだ日本には本格的に入ってきていないものもある。アメリカの技法である。
今年、茅ヶ崎の湘南に一軒のバーベキューレストランがオープンした。
「SHONAN BAR-B-Q」
読みは言わずもがな。「ショウナン・バーベキュー」。ちなみに「BAR-B-Q」という表記自体は、英語圏では略称としてわりとよく使われる表記らしい。そんな豆知識を書き残して本題に入ろう。
「バーベキューレストラン」自体は、この数年で都内にもポツポツと開店している。が、ここまで本格的にアメリカンBBQの技法を持ち込んだ店は珍しい。
この店では、低温で時間をかけて肉を焼く。だが、いわゆるフレンチなどの「低温調理」ではない。「SLOW&LOW」――生の状態の肉に、低温で燻煙を当てながら約10時間かけてじっくりと焼き上げていく。焼きを入れるのは、スモークピットという燻煙専用機材。「一枚板の鋼板で国内でおそらくうちだけ」。炭と薪で燻香をまとわせながら、低温でじっくりと焼き上げていく。店のスタッフはバーベキューのエキスパートばかり。それも、テキサスやカンザスで行われる全米のコンペティションに何度も殴りこみをかけた猛者が、現地で得た知見もメニューに詰め込んだ。
↑アメリカに殴りこみをかけた猛者は厨房内に。ちなみにスタッフのみなみちゃんは、彼氏募集中。
看板メニューは、「トライスター・コンボ・プレート」。つまりは肉盛り! スペアリブ、ブリスケット(牛の肩バラ肉)、プルドポークというお肉三役そろい踏みのプレートである。さあ、いよいよ看板メニューのご紹介!
スペアリブの骨離れに驚愕せよ!
まずはもっとも調理時間が短いスペアリブ。といっても、調理は約12本の骨がつながった丸ごとの巨大なリブに、下味の「ラブ」(※)をすり込んで一晩寝かせるところからのスタート。スモークピットで約5時間焼きを入れながら、バターなどを塗り重ね、最後にあまからいオリジナルソースで仕上げる。
手に取ると、スモークの香りが鼻を抜けて脳までたちのぼる。リブの両端を両手でつかみ、リブに前歯を立てる……と、あごに力も入れていないのにじわじわと歯が肉に沈んでいく。そして歯が骨に到達した瞬間、クイッと顔を上げる。すると気持よく肉がはがれ、きれいな中骨だけが残る。なんという骨離れの良さ! あまりに気持ちよすぎて、離れがたくなるアンビバレンツ! 最初は濃厚なソースの味が迫り来るも、噛むほどに肉の旨さへと口の中で味わいが変化する。食感のみならず、味の無段階グラデーションも楽しすぎるのだ。
※すり込むためのミックススパイス。アメリカのBBQでは常用される。
肉味濃厚! 僕らの知らないブリスケット
ブリスケット(牛の肩バラ肉)は通常、日本のバーベキューではあまり使われない。繊細な火入れが必要で、ふつうに焼くとかたさが先に立ってしまう。骨や関節などに近い部位はコラーゲンなどの結合タンパク質が多い。つまり「硬い」のだ。美味しく食べるには、加熱してコラーゲンをゼラチン質に変性させる必要がある。一般的にはコラーゲンは65℃あたりで硬くなり、75~85℃あたりで軟化しはじめると言われる。だが、時間をかければ、さらに低い温度の60℃程度でもゼラチン化を進めることができる。
低温、長時間のスモーク調理はまさにこの理屈を活用したものだ。しかもこの調理法であれば、肉自体から流出してしまう旨みを内部にがっちりキープできる。もともとブリスケットは味わいの濃い部位だ。10時間かけたスモーク調理で「かたさ」という課題は、なんなくクリア。体が否応なく「うまいっ!」と反応するような肉に変貌している。
大きいときには10kg近い塊でスモークするブリスケットから切り出した一切れを口に運ぶ。ひと噛み、ふた噛みするごとに、肉の繊維の間から濃厚なうまみがあふれ出る。噛むほどに口のなかで膨らんでいく。思わず目を閉じてしまうほどの多幸感……。そこでクラフトビールを流し込む。日本人が知らなかった快感がある。
食べるほどにお腹が空くので、ここらでトーストにはさまれたプルドポークに手をのばす。ちなみに「プルド」とは"Pulled"――手で割いた豚肉を指す。こちらも10時間かけてじっくりと焼き上げたもの。パンにはさむ、アメリカ南部を代表するBBQメニューだ。まずはそのままガブリッ! 豚の素直な味わいをストレートに堪能したい。そしてプルドポークはここからが本番。店オリジナルのホットソースとマスタードソースを手加減することなく、ドピュドピュと回しかける。
お上品に食べている場合ではない。下品上等! この本能の歓喜は、大口を開けてガブッとかぶりつくことでしか味わえない。ちなみにランチではプルドポークドッグとして食べやすい形で提供されている。うむむ。トーストを選ぶかドッグを選ぶか悩ましい。おまけに「コールスローをはさんでもうまいですよ」ですと? ああ、胃袋がもうひとつふたつほしくなる。
サイドメニューも脳天をガツン! こんがりとろ~りのマカロニチーズに、北海道産男爵いもを2度揚げした、まっとうなフレンチフライ。寒くなるこれからは、ガンボスープも登場する。しかもケイジャン料理の本場、ルイジアナのレシピをテキサスのカウボーイから仕入れてきたという。
お腹が膨れてきても、うっかり永遠にあれこれと手を伸ばしてしまいそうになる。しかもそれらすべてがあまりにもビールと合う。というか合いすぎる!
なるほど。アメリカ人が太るわけだ。
<店舗概要>
日本で初めてアメリカのBBQコンペティションにエントリーした、BBQレストラン。あまりの時間と手間に、アメリカ人さえ敬遠する超本格BBQを国内に持ち込むべく、2015年4月にオープン。
<メニュー>
トライスター・コンボ・プレート2,200円、自家製フレンチフライ大盛り500円、マカロニ&チーズ500円、クリーミーコールスロー400円。クラフトビールも湘南ビール750円ほか各種。言うまでもないがボトルのコカコーラもたっぷり常備している。
※松浦達也さんのスペシャルな記事『高田馬場のとっておき酒場は、あのサイトにも載っていない「もつ煮込み」の聖域だった』はこちら
SHONAN BAR-B-Q (ショウナンバーベキュー)[閉店]
- 電話番号
- 0467-73-8333
- 営業時間
-
月~日 11:30~14:30、月~金 18:00~22:30 (L.O.21:30)、土・日 11:30~22:30 (L.O.21:30)
定休日:不定休あり
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
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