老舗・名店にはワケがある。『人形町今半』のすき焼き様でシメた一週間
【連載】マッキー牧元の「ある一週間」 第27週 日本を代表する食道楽の一人、マッキー牧元さん。彼はどんなものを食べて一週間を過ごしているのか。「教えていいよ」という部分だけを少しのぞき見させていただく。
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- 和食
- 専門店
- 連載
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- Summary
- 1.超ナチュラルな牛肉と霜降り牛肉の誘惑
2.京都の名和食
3.ボリューミーなサラダ専門店
2月10日「『生命』を感じる肉と野菜」
「噛め」。肉はそう囁いた。
噛む。噛む。
じわじわり。肉のエキスが流れ出す。
その流入は止めを知らないかのように、噛むほどに口の中を満たしていく。
肉と僕が命のやり取りをしている。
そんな手応えが確かにあって、心臓の鼓動が早まった。
一切れを食べ終わって、筍を食べる。
するとどうだろう。筍の養分が、肉の余韻と呼応する。
出逢えてよかったと、叫んでいる。
目を閉じる。
そこには大草原が広がって、牛が草を食んでいる。
こんなことは、他のどんな牛肉でも起こらない。
都会に佇みながら、我々の感覚だけを大地に戻す。
それこそが、ジビーフである。
野に放たれ、自由奔放に生きたジビーフの呼吸である。
言葉である。ジビーフの出逢い。
「冬の厳しさに耐える為、野菜はミネラルを蓄えます。その野菜を煮出した汁です。だしも塩も使っていません」。中東さんは、孫の旅立ちを見守るような優しいまなざしで言われた。
汁を飲む。
静かな静かな滋養が、舌を流れていく。
日常で出逢う強い料理とはかけ離れた、沈黙の旨みが流れていく。
なにも言えない。
味蕾が研ぎすまされ、口内の細胞が浄化され、心が黙る。
野菜たちの命が、愚直な力が、精神を健やかに導いていく。
「ふぅ~」。ため息一つ。
言葉は出ない。真の感謝の心は、息となって漏れゆくのだ。
草喰 なかひがし
- 電話番号
- 075-752-3500
- 営業時間
-
12:00~L.O.13:00、18:00~L.O.19:00
定休日:定休日 月曜 ※月末の火曜も定休日となります。
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
2月11日「『浜作』にて伊勢海老」
「わたしに惚れてもいいんだよ」。
舌の上で、伊勢海老が囁いた。
目の前でさばかれた伊勢海老の胴体は、湯葉で巻かれて揚げられ、伊勢海老の味噌は、吉野葛でとじられて餡となってかけられる。
熱々を口運ぶ。伊勢海老の身が、音を立てるように勇ましく弾ける。
そしてその勇壮を、味噌の穏やかな色気が包み込む。
命の凛々しさとはかない艶の両方が、心を陥落させる。
付き出しは、節分の料理である「帆立と豆の凍み浸かり」。
帆立の豊かな甘みと豆の朴訥な甘みが野菜が出会い、静かな夜が滑り出す。
以前いただいた、その日に獲れたフグの薄造りと違い、一晩寝かせたフグは、コクを味わうために厚く切り、噛むことによって、フグの滋味を余すことなく、記憶に刻み込む。
丸吸いは、だしとスッポンだしの旨みの両者が丸く馴染んで天然の味わいを舌に広げ、充足のため息をつかせる。
ああ、なんと豊かで静寂な時間だろう。
真魚鰹は凛として、ゆるぎなき気品と色気をにじませながら、崩れていく。
ああ、食べるほどに時間が甘く、緩慢になっていく。
精妙な炊き具合によって、鯛の旨みが頂点に達した「鯛かぶら」は、ふっくらと膨らんだ鯛の身と 愛おしい脆弱さを持つかぶらの甘みが、出逢いを喜んでいる。
冬の厳しさを生き抜こうと踏ん張る蕪の慈愛と、勢いを宿した鯛の旨みを味わいながら、目を瞑る。
そしてうずらのたたきが出されると、冬はますます厳しさを増し、夜がじっとりと更けていった。
祇園「浜作」の冬。
浜作
- 電話番号
- 075-561-0330
- 営業時間
-
12:00~14:00(※第1・第2火・木・土曜を除く)、18:00~
定休日:定休日 水曜・毎月最終火曜
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
2月16日「今までになかったサラダ専門店」
六本木ヒルズのサラダ専門店「クリスプサラダワークス」へ。
サラダの種類を選ぶと笑顔の素敵なお姉さんが、野菜をチョイスし、大きなチョップドナイフで野菜を微塵にし、ドレッシングをかけて、手渡す。
僕が選んだのは、野菜と豆だけのEMC。ロメインレタス、ロースト豆腐、ブラックビーンズ、コーン、赤キャベツ、うぉるなっつ、サンフラワーシードにレモンと胡麻ドレッシングのレモンタヒニ。
これだけで400グラムはあるという。
うん。今までなかったサラダ専門店だな。
ヒルズにきたときは、これを食べてから、炭水化物。映画の前にサクッといくのもいいね。
今度はカスタムで頼んでみよう。
2月18日「『人形町今半』のすき焼き様」
誕生日といえば、そりゃあ当然、誰がなんといっても「すき焼き」である。
というわけで、昨夜は「人形町今半本店」に出かけた。
ドラピエで乾杯の後、前菜、お造りに続いて「すき焼き様」が登場する。
艶やかな姿を見せるサーロインとリブロースに、惚れ、春野菜に眼を細める。
炊いていただくのは、石井さん。
彼女の巧みな炊き方で、肉も野菜も割下に馴染み、舌の上で生き生きと喜びを膨らます。
また軽妙洒脱な会話で、すき焼きの場が一層盛り上がる。
サーロインの一枚目は軽く、二枚目は片面良く焼きで炊いてもらい、その味わいの違いを楽しむのであります。
今回の割下は創業120年記念として、昔ながらのザラメを使った、甘みのコクが深い味わいで、食べるとなにやら気持ちがほぐれていく。
特にリブロースは、脂が少ない分、割下が肉に染み入って、濃密な味わいとなり、それが黄身にからむと、もうたまりません。
「やめて」と呟きたくなる、陶然となる味わい。
さらにここのすき焼きは、野菜が旨い。
曲がりネギに、聖護院カブ、羽子板型に切った長芋、香り高い筍、芹に椎茸。
野菜を食べる喜びと季節を伝えてくれる。
そしてもちろん今半ならではの、丁子麩としらたきも忘れてはいけません。
しめは割下と卵で、ふわふわ卵かけご飯。
すき焼きをした鉄鍋に割下をいれ、卵でふわりと閉じる。
石井さんのそれは、黄身の黄色、白身の白、割下の茶色が分かれ、一部少しグラデーションとなった、素晴らしい仕上がりで、ふきのとうの佃煮をはらりと乗せて、あとは一気呵成。顔が崩れるのであります。
最後は特製バースデーケーキも、ごちそうになりました。
なんと割下で作ったバウムクーヘンで、外側のカラメル状になった硬い部分をかじれば、ほのかに割下の味わいがある。
まさにすき焼き屋ならではの遊び心、いやあまいったなあ。
人形町今半本店
- 電話番号
- 03-3666-7006
- 営業時間
-
11:00~22:00 ※平日の 15:00~17:00はお休み
定休日:定休日 元日休業
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
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