六本木の名ワインバー『祥瑞』が選んだのは「薄旨」ブームを作った偉大な造り手
【連載】東京・最先端のワインのはなし verre18 ヴァンナチュール。自然派ワインとも訳されるこのワインは、これまでのスノッブな価値観にとらわれない、体が美味しいと喜ぶワイン。そんなワインを最先端の11人が紹介する。
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- Summary
- 1.ボルドー大、ディジョン大卒の才媛によるワイン
2.いまほどジュラが認識されていない時期に表れた彗星
3.「薄旨」という言葉を使い始めたのもこのワインから
久しぶりのナチュラルワインの紹介。今回は、六本木の予約困難なビストロ/ワインバー『祥瑞』の柴山健矢さんが選んだ2本目のワイン。ナチュラルなワインが好きで今までにこれを飲んだことがないという人にはぜひ飲んで欲しいという1本だ。
VDF Les Corvées / Domaine de l'Octavin(ル・コルヴェ/ドメーヌ・ドゥ・ロクタヴァン)
柴山さんがこの造り手は外せない、と選んだのはジュラ地方アルボワに本拠を構える生産者、ロクタヴァンだ。ワイナリーが出来たのは今から10年前の2006年。シャルル・ダガンとアリス・ブヴォというカップルが設立した。
ナチュラルなワインの造り手には様々なタイプがいるが、このロクタヴァンのアリスはガチガチの学者タイプ。ボルドー大学でブドウ栽培技師の勉強をした後、ディジョン大学で醸造学者のディプロムを取得。ただ、醸造に関する深い知識と高度な技術を習得したものの、自然の作用を阻害した技術に頼るワイン作りを素直に受け入れらず「ワインの個性とは何か?」を知りたくて、卒業後は世界各地をまわった。その中には、ワインスペクテイター誌で世界の「トップ10ワイン」にランクインされたカリフォルニアのPINE RIDGEやチリのERRAZURIZなどがあるという。
そうして、最新技術を使ったワイン醸造を経験した彼女はそれでも自然の力を生かしたワイン造りが重要だと再認識した。フランスに戻り、コート・ド・ジュラのドメーヌで統括責任者となって、当時同じドメーヌの醸造責任者だったシャルルと出会い、1年後に自らのワイナリーを興した。
5haあるブドウ畑は、ビオディナミで栽培し、エコセールを取得。ブドウは、生産量を抑えて栽培。醸造所については、(クレマン以外は)SO2、培養酵母、砂糖、酵素といったブドウ以外のものは何も加えない。今回紹介するLes Corvéesは、樹齢30年あまりのトゥルソー100%、。石灰質の上に泥灰土が乗った地質で、ブドウは選果しながら手摘み。収量は、35hl/ha。100%除梗してから、天然酵母で発酵後、8週間のマセラシオンを行い、タンクで熟成し、清澄とろ過をせずに瓶詰めする。SO2も無添加だ。
ちなみに、エチケットに書かれている“Boire du Trousseau n’est jamais une corvée”は、訳すると(畑仕事は大変だけど)このトゥルソーを飲むことは、決してつらく苦しいことではないよ!!
というもの。
また、以前はA.O.C.アルボワを取得していたが、いまはより自由なワイン造りのため、それもやめ、ヴァン・ジョーヌ(ジュラ独特の黄ワイン)まで、ラインナップのすべてをヴァン・ド・フランスでリリースしている。そんなこともあってか、現行の裏エチケットの表記には、“Corvées de Trou Trou”とある。“Trou”とはもちろんトゥルソーを意味しているわけであるが、“Trou Trou”と呼ばせる遊び心を感じる。
<柴山さん>
この連載を読んでいる人でいわゆる自然派ワインが好きで、ロクタヴァンを飲んだことがないというなら一度飲んでおいたほうがいいと思います。
彼女たちは、いまの自然派ワインムーヴメント、そしてジュラブームの火付け役といえると思います。
このロクタヴァンが日本に輸入されるようになってから、みな口を揃えて「ジュラジュラ」言い出しました。そして、「この色と味でワインなの?」とも。当時、ジュラで自然派ワインと言えば、ピエール・オヴェルノワ(メゾン・ピエール・オヴェルノワ/エマニュエル・ウイヨン)が代表的な存在。素晴らしいワインなんだけど高かったんですが、ロクタヴァンは「この値段で?」という安さでした。
日本にこのロクタヴァンが入ってきて以降、40代くらいのジュラの自然派第二世代、そしてさらに下の世代の人が続くようになったんです。今飲んでもやっぱり美味しいです。
僕が以前勤めていた渋谷の『リベルタン』にもメーカーズディナーにきれてくれたことをはっきりと憶えています。その時は、ジャン・マルク・ブリニョも来たんですよ。それにフランスに行った時もお邪魔させてもらいましたが、清潔なカーヴで畑もいいところにあります。伺った時は土砂降りでしたけど、緩やかな斜面でした。
そんなロクタヴァンの中でも、このル・コルヴェの特徴は、まずロゼワインのような淡い色です。このワインを飲んだ人の中から「薄旨」「ジュラが欲しい」という声が広がった印象があります。
そして味も衝撃的でした。オヴェルノワは、赤はプールサールなんで、トゥルソーというものを経験したことがなかったんですが、すべてが新しくて衝撃を受けました。
また、こういう造り手が出てきたら面白いと思う生産者の一人です。
ダニエル・サージュとかもそんな印象かな?
<祥瑞での価格>
ボトル(2014年ヴィンテージ)9,500円
※マグナムは非売品
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