ツウぶって杓子定規な注文をするより自分の好みを見つけるほうがゴキゲンな酒の飲み方
【連載】正しい店とのつきあい方。 店や街とのつきあい方がわからない人が増えている。初めてなのに常連と同じように扱われないと怒る人や金さえ払えば何でもしてくれると思う人。お客様は神様、などではない。客としてのあり方を街と店に深い考察を持つ江弘毅氏が語る。
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- 1.夏でも燗酒を飲むという愉しむ
2.名酒場にはいい燗酒がある
3.20年通ってやっと常連?
夏に日本酒のぬる燗。
鰻の蒲焼きにぬる燗。
皮を香ばしく焼いた関西風の蒲焼きに、山椒をパラリと振りかけて箸で大きめにちぎってがぶり。そして猪口のぬる燗を一口。
その鰻の蒲焼きを細かく切ってきゅうりと三杯酢で和えた「うざく」も実に夏らしい酒肴だ。
大きく切った水茄子の浅漬けに醤油をつけ、かぶりついてぬる燗。
これもいい。
鮨もそうだが、冷酒はちょっと違うな、と思う。
このところ居酒屋や鮨屋などで「お酒、燗で」というと、店員が「はい熱燗1本」と言うのを耳にすることが多い。こういう癖はよくない。こちらは普通の燗が飲みたいのだ。
燗酒すなわち「熱燗」と思い込んでいるのか、口癖のように「熱燗で」と言う客も多い。
冬の寒い時期や風邪の時ならいざ知らず、年中それはないと思う。
ちなみに大阪梅田の名店『樽金盃』には、「ぬる燗」「燗」だけで「熱燗」というと「おまへん」と店主が答える。この白鶴金冠の樽酒オンリーの立ち呑み居酒屋には年中、熱燗はない。
そりゃ樽酒に熱燗はちょっと違うと思うのだが、この店でも呪文のように「熱燗」と注文する客が増えている。
また「銘醸酒や良い酒は必ず冷酒で」というのもどうか。
夏でも燗酒を飲むことについては、「おいしいから」「好きだから」としか言いようがない。
大阪での日本酒は鰻屋、鮨屋に限らず燗酒である。
その証左に「温酒場(おんしゅじょう)」というのがある。福島区野田に『上田温酒場』、西区九条に『白雪温酒場』が現存している。どちらも昭和一ケタあたりの創業でそろそろ百年だ。
20年通い続けなければわからないこともある、常連のためにあるもの
名居酒屋として知られる『白雪温酒場』の燗。
カウンターの端には江戸中期創業の大阪錫器の雄「錫半」(1996年に廃業)の錫のタンポ(チロリ)が20〜30個ごろんと無造作に置かれている。長年使われているぶ厚く重いタンポ。軟らかい錫製ゆえ、それぞれがそれぞれの形に変型している。
「お酒」と客が言えば「はいよ」と一升瓶からタンポに注がれる。
それを蓋付き七つ穴の湯煎燗鍋が待ち構える。熱伝導率が極めて高い錫製タンポなので数十秒で燗が出来上がる。
熱燗では絶対ない猪口一杯分がすうっと喉を流れる人肌の燗。そして味はとてもまるい。
こういう調子だから、鰻屋のみならず夏ももちろん燗酒を飲みに、おでん屋にも行く。
もちろんぬる燗が目当てだ。
神戸に住んで30年のわたしが多分、一番行ってるおでん屋は三宮の地下街にある『まめだ』。ルーツは三宮神社境内の屋台でここもそろそろ百年になる。
四角いおでん鍋は磨き込まれた銅製で、その横に超弩級の燗銅壺が組み込まれている。もうあまり見ることの少ない伝統的な燗器だ。2合サイズのタンポやぐい呑みはここも錫半のものでごつい。
この店の流石だといえるところは、おでん以外の酒肴が抜群なところだ。
鯖のきずしやハモ皮、このわた、目刺しやタラコが壁の品書きに墨で書かれている。
おでんの品書きはテーブルの小さなメニューに記入されていて値段も表記されているが、壁に墨書きされている酒肴には値段が書かれていない。
そのあたり「にやり」とさせられると同時に、そうかこれは冬だけじゃなくて、年中カウンター席に陣取る常連のためのものなのだと合点。
気づくまで20年以上かかった。
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白雪温酒場
- 電話番号
- 06-6583-0736
- 営業時間
-
17:00~23:00
定休日:定休日 日・祝
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
まめだ
- 電話番号
- 078-331-7815
- 営業時間
-
12:00〜14:00、16:00〜22:00
定休日:定休日 第1・3日曜
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
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