渋谷“奥渋”の超人気ワインバーがおすすめするフランスの自然派ワインは「二世すげー」と感じた1本
【連載】東京・最先端のワインのはなし verre27 ヴァンナチュール。自然派ワインとも訳されるこのワインは、これまでのスノッブな価値観にとらわれない、体が美味しいと喜ぶワイン。そんなワインを最先端の11人が紹介する。
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- 1.偉大なる父オリヴィエ・クザン
2.奥渋を代表する一軒『アヒルストア』店主・齊藤輝彦さんが選んだ1本
3.自然派ワインの次世代を牽引する人物
世界のナチュラルワインシーンにおいて、フランスは特に重要な役割を担ってきた。
エノロジスト、ジュール・ショヴェの提唱したナチュラルなワイン造りの哲学は
・栽培において、農薬や除草剤といった化学薬品は、畑の微生物や天然酵母を殺してしまうので使用しない
・化学肥料も使用しない
・醸造に用いるのは完熟した健全な果実だけ
・ワインの発酵には天然酵母だけを用いる
・SO2(亜硫酸塩、二酸化硫黄)については少なくとも醸造中には用いない
といったもので、彼のもとで学んだマルセル・ラピエールやジャック・ネオポール、フィリップ・パカレ、同時期にアルボワの片田舎で自然な栽培・醸造を既に行っていたピエール・オヴェルノワなど、いまのナチュラルワインシーンを作り上げた多くの重要人物がいる。
その中の一人といえるのが、ロワール地方アンジュ、マルティヌ・ブリアン村の生産者オリヴィエ・クザンだ。
筋を曲げない男とその後を継ぐもの
徹底的に自然であることに重きを置き、その生活スタイルは太陽熱でお湯をわかし、ひまわり油でクルマを走らせる。
農薬や化学薬品を使う“工業生産品”としてワインが跋扈することに不満を抱き、補糖と補酸を同時に行うことが認められたのをきっかけに、2005年にアンジュのアペラシヨンを離脱。INAO(フランス国立原産地名称研究所)と対立し、裁判沙汰にもなった、曲がったことが許せない、徹底的に筋を通す人物。
そんな、生き方で知られるオリヴィエもワイン生産からは半ば引退、息子のバティスト・クザンが後を継いだ。
Le Batossay(ル・バトセ)という名のドメーヌを立ち上げたバティストは、彼の曾祖母から引き継ぎ、父・オリヴィエが約30年耕してきた畑を継承。2012年に引き継いだ1.36haのシュナン・ブラン、2013年には引き継いだ赤ワイン用ぶどう畑2ha。そこで育てたブドウを曽祖父の造ったカーヴで醸造する。
偉大な父の後をついだ彼は、父と同様2頭の農耕馬で畑を耕し、栽培は手作業でビオディナミ農法。
醸造においては最初から最後までSO2は一切使用しないし、瓶詰め時にも添加しない。
Pied VV 2013 / Le Batossay<BAPTISTE COUSIN>(ピエ/ル・バトセ<バティスト・クザン>)
そんなバティストのワインをオススメするのが、いま話題の「奥渋」エリア(渋谷から東急本店通りを代々木八幡方面に向かっていく一帯)の中でも特に大きな支持を得ているワインバー『アヒルストア』の店主・齊藤輝彦さん。
今回は、中でもシュナン・ブラン100%で造られる「ピエ VV・2013」。シスト土壌の丘に1955年に植樹されたヴィエーユ・ヴィーニュで、ブドウを丸ごと垂直式プレスでプレス、古樽で醗酵し、1年間熟成したものだ。
<齊藤さん>
このアヒルストアをオープンさせて、先日で8年になりました。
僕はワインを扱う店をやりたいと思い、その勉強のためにと恵比寿の『3amour(トロワザムール)』というワインショップに入ったのですが、そこでヴァンナチュール(ナチュラルワイン、自然派ワイン)にどハマりしてしまったんです。
そして、その当時飲んで衝撃を受けた最初のヴァンナチュールがオリヴィエ・クザンのグロロ ペティアンだったんです。
「なんじゃこりゃ!」って思いました。
ちょっとワインの勉強をするつもりが、それ以来ナチュールばかりを飲むようになったんです。
ただ、オリヴィエの造るワインは、とても美味しいんですが、安定感のない「荒くれ者」で売り方が難しいワインでもありました。
そんなオリヴィエも半ば引退し、後を継いだのが息子のバティストです。
今回は、この「ピエ」というワインそのものより、バティスト・クザンについて話がしたかったんです。
一番味が乗っている生産者だと思います。
日本には去年はじめて輸入されてきて最初は「クザンの息子ってどうよ?」という見方をしていたんだけど、どれを飲んでも最初からすごく美味しいんです。
しかも、危うさがない。
けれども、ちゃんと「サンスフル(酸化防止剤無添加)」の味筋があった。
思いましたよ「二世すげーな」って。
先日フランスで行われた、自然派ワインのなかでも特にナチュラルなサンスフルの造り手だけが集う『アノニム』に行った夜、彼の家に泊めてもらったんです。
その時期は、あらゆるワイン関係の祭りの真っ最中でフランス中からサンスフルの造り手がアンジュにいたんですが、みんなが彼のもとに集まってくるというほどに慕われているんです。
半分セラーというか洞窟のようなところでみんなでご飯を食べたのですが、そのときのメンバーがフランソワ・サン・ロやジョン・シュミット、シモン・ビュッセなど。
もちろん、オリヴィエの力もあると思うけど、その場の空気はバティストが次の世代を牽引している感じでした。
「二世やべーな」と思いましたよ。
うちのお客様でも最近、親子二代で来る方もいらっしゃるんです。
初めてお見かけしたときは高校生だったのに、就職が決まってお父さんとよく来ていただく。
お父さんは破天荒な人だけど、息子さんは礼儀正しくて、小さい頃から「酒場スピリット」とでもいうべきものを叩きこまれている。
破天荒さはないんだけど、いい形で整理されているんです。
そんな関係に似ていると思います。
「二世」というとボンボンでダメっていうステレオタイプな発想もあるんだけど、ほんとにイケてる二世は違いますね。
落語の世界でいうと五代目(古今亭)志ん生と三代目(古今亭)志ん朝のような破天荒なオヤジと綺麗な落語の関係。
自然派ワインの生産者もこれから代替わりすると思います。
それだけに二世に注目していきたいですね。
いま「アノニム」の中心は上の世代であるレ・ヴィーニュ・ド・ババスのセバスチャン・デルヴューや、ラ・クーレ・ダンブロジアのジャン・フランソワ・シェネだけど、次を担うのはバティストやサン・ロかなと思います。
彼らの空気感がいいんです。
「美しいヒッピー」みたいな。
二世いいんじゃないか説を唱えていきたいですね。
ボトル9,000円
アヒルストア
- 電話番号
- 03-5454-2146
- 営業時間
-
18:00~24:00、土曜15:00~21:00
定休日:定休日 日曜
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
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