【煮込みのうまい店はただしい!】荻窪『焼鳥どん』のセンベロとは思えない仕込みと肉料理
※この店舗は閉店しました
【連載】肉の兵法 第十一回 肉に向かうときに雑になってはならぬ。どこでどんな肉を食べるのか、組み立てるのが大人のたしなみであり、男の作法。「大人の肉ドリル」著者である松浦達也氏が旨い店の肉をさらに旨く食べるための作法を解説する。
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- Summary
- 1.2009年に板橋で創業し、その後荻窪、西荻窪へと展開
2.大手資本によるチェーン展開ではない
3.焼鳥からローストビーフまで「肉料理」に抜かりなし
生ビールのうまい居酒屋は信用できる。焼き網の太い焼肉屋もそうだ。そして、煮込みのうまい飲み屋にも悪い店はない。先日、(わかる人にはわかる)アメリカ西海岸から一時帰国していた「位置情報ゲームの達人」河合太郎さんがこの店の煮込みを食べて、こう言った。
「こんな極上の肉料理が380円とかベイエリアなら$38する」
↑まだ日も高いうちからメニューの充実ぶりに盛り上がる、いい年カルテット。ご夫婦マンガ家「うめ」の小沢高広さん(左)、アメリカ西海岸から一時帰国していた河合太郎さん(中)、公園一人飲みの大家、宮脇健さん(右)
38ドルってことは約4,000円……。「いやいやいや! いくらアメリカの外食が高くても!」と、思わずツッコミを入れたくなったが、この煮込みは日本基準だとしても確かにリーズナブル。そしてまぎれもなく肉料理である。なんといってもこの肉の量だ。
↑肉の量がわかるよう、基本トッピングのネギを抜いてもらった
この店の煮込みはいわゆる"モツ煮"ではない。1人前分の昆布だしに、鶏もも肉を1枚放り込んだものだ。グラグラと煮立たせず、鶏のやわらかさを保ちながら1枚分にじっくり火を入れた。肉はほろりとやわらかく、スープの味もとろりと超濃厚。肉、スープそれぞれだけでも「おっ!」となるのに、両方合わせて380円とは、まったくもって東京バンザイ! しかもトッピングには半熟煮玉子も。その煮玉子トッピングも含めた本来の姿はこうなる。
思わず「ラーメンか!」と口走りそうになるビジュアルだが、麺は入っていない。やや小ぶりな丼の底から積み上げられた鶏肉が鶏味濃厚なスープから顔を出し、その上にたっぷりのネギと黒胡椒がかかっている。
と、ここまで、煮込みに文字数を割いたが、冒頭で「煮込みのうまい飲み屋に悪い店はない」と書いたように、この店は正真正銘の焼鳥店。店名も『焼鳥どん』という焼鳥店だ。2009年に板橋で創業し、その後荻窪、西荻窪へと展開した。といっても、大手資本によるチェーン展開ではない。冗談好きで体躯のいい関西出身の兄弟が、ゼロから試行錯誤を繰り返して積み上げたものが現在のメニューとなっている。
基本的なメニュー構成や価格は全店共通。一部に各店独自のメニューもあるが、焼鳥は全品80円。いわゆる「センベロ」価格である……が、その値段が信じられないほど、仕込みと焼きがいい。脂が勝ちすぎない「ふりそで」に、しっかりした脂と噛みごたえの「タンモト」、とろりとした「レバー」にふわっと軽い「つくね」。いずれも「この値段にしては」という「枕」不要の味がある。煮込みのうまい飲み屋、とりわけ焼鳥屋はやっぱりハズレがないのである。
↑西荻窪店の看板串4本。左からふりそで、タンもと、レバ、つくね(串モノは2本以上から。ただし一人客は1本から注文可能)
センベロ的楽しみ方@焼鳥どん
この店は飲み方の自由度がやたらと高い。1人でも2人でも4人以上でも同じように楽しめる。例えば1人で"センベロ"的な楽しみ方をするなら、上記の焼鳥に、100円(!)の「らっきょ」でも注文すれば十分楽しめる。
1杯目に生ビール(380円)を頼んでも小計800円(税抜き)だ。いかん。これでは1,000円にも届かないので、もう1杯飲むとしよう。センベロ系といえば、やはりホッピーを注文せざるを得ない。もちろん氷+焼酎割りの「センベロホッピー」(380円)もあるが、夏の盛りにはガブ飲みしたいので、今日は焼酎を凍らせたシャリホッピーを選択。これなら初手からハイペースで飲んでも大丈夫。"シャリ"が溶ける前に飲めばいいのだ。
2杯目ともなると汗も引いてきて、少し体をあたためたくなる。何か矛盾しているような気もするが、やはり煮込みは頼まねばなるまい。すると小計は1,500円ちょっとになるが、まあほとんどセンベロのようなものと都合よく解釈しよう。
↑「シャリ」の量が量なので、記憶が怪しくなる前にノートを取り出す
一人飲みなら、これくらい頼めばそれなりに腹もふくれるはず。だが、ちょっとここで脇道に逸れてみる。仮に腹ペコでの入店となった場合だ。実はこの店の煮込みにはバリエーションがある。100円増しの「スペシャル」である。
そう。この店での煮込みスペシャルとは、誰もが試したくなる夢のごはん入り! "炭水化物王"の異名を持つ、絶品コシヒカリ農家の息子である廣瀬さん(筆者の友人)にぜひおすすめしたい一杯。ついでに言うと、煮込みには山椒(+0円)、ガーリック(+0円)、ネギだく(+50円)というトッピングもできる。
↑煮込みトッピング全部のせ。もうネギしか見えない
煮込みや焼鳥の手のかかった味わいは外食ならでは。なのに、この店のカウンターは家での晩酌や晩メシのような気軽さも持ち合わせる。ほろ酔い加減で文庫本を読みふける客もいるし、つまみをおいしそうにほおばる姿もある。もちろん、店主との会話(正確には、カウンター内で繰り広げられる丁々発止のやり取りに参加する趣)を楽しむのもまたよし、である。1人で好きに酒を飲み、つまみを平らげる。最高だ。
2人以上の飲み会@焼鳥どん
1人飲みは最高だが、2人以上の飲み会もまた最高だ。人数が増えればその分、つまみの選択肢も広がる。まず強化したいのは最初に出てくるスピード系おつまみ。前出のらっきょは4人でも座持ちするつまみだが、合わせて「漬物」(250円)を追加して見た目の艶やかさと味の広がりも加えておく。
鮮やかな盛りつけ。だが、ここはあくまで焼鳥店。こうした注文を並べてもカウンターの風情は変わらない。
そして西荻窪店で、欠かせない注文がこれだ。
肉の山のような佇まい。メニュー名は「ローストビーフポテサラ」(以下RBポテサラ)。山型のポテトサラダの周囲をロゼ色のローストビーフがぐるりと取り囲む2in1。ポテサラかローストビーフかなどという(呑兵衛にとって)苦しい2択に悩まされずに済む。しかもお値段なんと380円。
ちなみにRBポテサラと焼鳥の「ふりそで」は西荻窪と荻窪の2店限定メニュー。逆に一部の串モノ(せせり、ささみなど)は板橋店のみの提供で、中央線の2店にはない。何をつまみとするかによって、店の選択も変わってくる。
そして少し酔いが回ってくると乱暴なものを食べたくなるのが、呑兵衛の性である。この店のメニューで言えば、タルタル卵(250円)などはかなりの乱暴な品である。ただし、提供される品はおそらく想像するよりも遥かに破壊力がある。こうだ。
現れたのは、半熟卵の天ぷらにタルタルソースをかけたもの。公式化すると(卵×卵)+(油×油)=タルタル卵。この卵を真ん中から割るとオレンジ色の半熟卵の黄身が……。脳が勝手に喜ぶ、危険な皿だ。もっともこの店の揚げ物は危険な品が多い。定番の鶏の唐揚げ(380円)などはこのボリュームだ。
ドカンと盛られた唐揚げに、大量のマヨネーズつき。こうしたボリューム感のあるつまみを相手にするにはキレ味鋭いドリンクが必要だ。
もはや説明する必要もないだろう。「シャリ生レモンサワー」である。シャリ焼酎×炭酸×レモンという組み合わせは、揚げ物や油もののダメージからHPを大幅に回復させてくれる。ドラクエの呪文で言うところのベホマ(※)みたいなものだ(ちなみに普通の店のレモンサワーはベホイミクラス)。
※プレイヤーのHPを回復させる呪文。ホイミ、ベホイミ、ベホイム、ベホイマと呪文の変化につれて回復量が上昇し、ベホマは最大値まで完全回復できる(効果はVer.によって異なる)。
ここまで来たら、もうあとは好きなものを好きなように頼めばいい。〆は煮込みスペシャルの他に焼鳥丼(380円)もあるし、串モノや軽いつまみもまだまだある。
「チェーン店が苦手(もしくは嫌い)」という人は結構いるし、僕も自分で店を選べるときには非チェーンの個人店を選ぶ。もっともその理由は、よく言われる「画一化されたサービスがつまらない」というような話ではない。チェーンでは「誰がそのメニューの責任を取るか」わからない店が多く、そういう店にはたいていハズレメニューがあるからだ。いまもオーナー兄弟が調理&サービスの最前線に立つこの店では、いまだハズレを引いたことはない。
やっぱり煮込みのうまい店にハズレなしである。
<メニュー>
串モノはすべて80円で濃厚トロレバー、ふりそで、つくね、タンモトのほか、砂肝やかしら、トロなんこつなど。
煮込みはノーマルが350円、玉子入り450円、ごはん入りのスペシャルが480円。
250円メニューは
タルタル卵や漬物のほか、かぶ味噌や揚げナスなども。
ドリンクは
生ビール中(サッポロ)のほか、センベロホッピー(白/黒)、センベロバイス、シャリホッピー(白/黒)、シャリバイスサワー、ハイボールなど380円。
外のお代わり200円、中 180円その他、ソフトドリンク200円。
※取材は西荻窪店ですが、現在休業中のため店舗データは荻窪店のものに差し替えております。また、創業店である板橋店も営業中です。
焼鳥どん 荻窪店[閉店]
- 電話番号
- 03-3392-9845
- 営業時間
-
17:00 ~ 23:30(L.O.23:00) 、土・日・祝17:00 ~ 23:00(L.O.22:30)
定休日:定休日 日曜 ※他店は無休。営業時間も店舗によって違いあり。
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
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