東京以外はすべて地方だという発想では食文化の多様性などわかるわけがないことについて
【連載】正しい店とのつきあい方。 店や街とのつきあい方がわからない人が増えている。初めてなのに常連と同じように扱われないと怒る人や金さえ払えば何でもしてくれると思う人。お客様は神様、などではない。客としてのあり方を街と店に深い考察を持つ江弘毅氏が語る。
- 食文化
- 和食
- 日本酒
- ご当地グルメ
- 連載
はてぶ - LINE
- Summary
- 1.新潟で出逢った日本酒と食の文化
2.都会=東京/地方=それ以外という二項対立で捉えていては見えないこと
3.「おいしいものを食べる」ということを一元的な尺度で測る貧相な思考
とある仕事で2泊3日で新潟の食べものや酒を取材することになり行ってきた。
新潟は米どころだ。
ホテルオークラに泊まっても、朝食のバイキングでは、魚沼産コシヒカリや新しい品種「新之助」のご飯と味噌汁、焼き鮭、栃尾揚げ、のっぺ(煮物)、タクアン、納豆…といった和食が、パンとバター、コーヒー、目玉焼きやベーコンなど、コンチネンタル・ブレックファストのコーナーを押さえて、デンと展開されている。
東京や大阪、神戸のホテルとは全然違う「つかみ」であり、当然のように朝は和食だ。
米がうまい。塩鮭、タクアン一片にしても全然違う。
中心街の本町「人情横町」にある『案山子』に地元の知人に連れられて歩いて行く。昼2時から開いている居酒屋で、外観も内装もどこの街にもある新しい感じのフツーの居酒屋だ。
「ちょっとアテを頼んで酒が飲めればいいや」と思っていたのだが、酒のメニューを見て驚く。
普通に飲む本醸造だけでも〆張鶴から越乃寒梅まで10数種。大銚子(1.6合)ですべて740円。「今日のお得なオススメ」で村祐がリストに上がっている。
ほんとに地元新潟の酒しか置いていなくて、隣の山形や福島の酒5種は「お薦めの県外酒」という扱いだ。
2泊3日で鮨屋、料亭…といろんな新潟市の酒場に行ったのだが、菊正宗とか白雪、月桂冠とかそういうメジャー酒はない。
そういうのは全国チェーン店系の居酒屋に行かないとないのだという。なるほどな。
ペットボトルのお茶を買おうとコンビニに入って、ワンカップ大関や白鶴まるのパック入りを見つけて懐かしくなった。
中国料理店で香港から直輸入のフカヒレ料理を選んだり、イタリア料理店でピエモンテ州から空輸した白トリュフ、ワインバーでボルドーやブルゴーニュの名醸ワインを飲むことと、新潟その土地のブリを食べて地元酒を飲むことは、こういうレベルで違うのだ。
大都市には何でもある。
多分にもれず人口80万人の新潟市にも、イタリアンもスペインバルもあるし、列をつくっているパティスリーも目につく。
ただ、こと日本酒とツマミの場合は、この季節ならイクラや筋子、かきのもと(おひたしや酢のものとして食される食用菊)で、地元新潟の酒を飲んでいるのだ。
もちろん当然のこととして、コロッケやカキ鍋といったメニューもある。
その土地のあたり前の地元の料理や酒を「地方料理」としてとらえてしまうことと、「都会=東京/地方=それ以外」としてとらえることはよく似た構造だ。
大変馬鹿げているが、「おいしいものを食べる」ということを一元的な尺度で測るグルメガイドや料理オタクが評論家気取りで投稿する口コミサイトばかりを見ていると、案外そういうことに気づかない。
一度大阪ミナミの古い大きな喫茶店で見たことがあるのだが、3人グループの若者がレジ前で勘定を払いながら「ボクたち東京から来たんだけどさ、このあたりにうまいラーメン屋ないの」と訊いていた。
「んなもん知るか」。こいつらはどうしょうもない「いなかもの」だと思った。
東京以外は皆地方だ、と思っている限り、京都のハモも大阪のてっちりも新潟の酒もわからないだろう、ということだ。
たとえば上方〜関西には、大阪や京都、神戸と大都市があり、京料理があって大阪の割烹からうどん、お好み焼きまでがあり、神戸では神戸ビーフの鉄板焼きステーキがある。
人はもっともっとと何でも欲しがって、例えば関西の場合を見ても、明石の鯛や蛸、淡路島のウニ…と東京からみれば地方である関西の食べものをがぶがぶと口に入れてきた。
料理屋も食材流通業者もで本来的にベースに利潤追求というものがあるから、ランスやエペルネのシャンパーニュと同じ尺度で、「大間産のマグロ」「明石鯛」「神戸牛」といった冠をかぶせたいがために、それを取り寄せて扱ってきた。
本来がグルメ情報の記号消費の延長線上にあるものと、テロワールすなわちそもそもが移動不可能なものは、街的な人であれば容易に直観出来ることだ。
その土地柄、地方性の差異を日常の文化的尺度、つまり「遊び」ということで楽しむことは、都会/地方という二項対立のものの見方にとどまっている限り、無理というものだ。
500円で5枚のコインで、新潟の100種以上の地元酒が5種飲める、新潟駅の『ぽんしゅ館』に行くとそれがよく分かる。
案山子
- 電話番号
- 025-224-9401
- 営業時間
-
14:00〜24:00
定休日:定休日 日・祝
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
越後のお酒ミュージアムぽんしゅ館 新潟驛店
- 電話番号
- 025-240-7090
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
はてぶ - LINE