【ほっとする店をお探しのあなたへ】通うだけで心も体も健康になりそうなビストロを学芸大で見つけた
【連載】幸食のすゝめ #050 食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。
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- 1.「えんとしなさい!」という母親の言葉を思い出し付けられた店名の意味
2.たくさんの野菜とナチュラルなワインと自家製のシャルキュトリーも
3.ボードウォークに置かれた植物と店主の醸す空気に癒される店
幸食のすゝめ#050、重なる縁には幸いが住む、学芸大学
「えんとしなさい!」、優しさの中に凛とした威厳があった母の言葉を、今でもふと思い出す時があると言う。
「えんと」は、店主の長谷川利早子さんが育った福島県中通りあたりの育児方言、同じ福島の中でも微妙に言い回しが違う。関東圏では「えんこ」になり、僕が育った九州では、よく「ちゃんこして!」と注意された。
夕暮れ時、いつまでも遊戯の時間を終わらせたくなくて、心がはやっている子どもたちに、きちんと座って一緒に食卓を囲むよう促す言葉。食事の作法は、いつも家族の温かい食卓と寄り添っていた。
おいしいご飯とワインを、きちんと
「響きがなんだか可愛らしいのと、なんとなく無国籍な外国語のようにも聞こえるのが気に入って、初めての店の名前に決めていました」。通りに置かれた木製の看板には華奢だけど力強いの描き文字の上に、「ごはんとワイン」という文字が添えられている。長いカウンターと2つのテーブルに座って、おいしいご飯とワインをきちんと楽しむ。
ここは単なる酒場でも、レストランでもなく、いつも食を大切にしていた長谷川家の食卓の延長なのだ。
3.11の時に話題になった「今欲しいものは家族で食べたご飯」という小学生の作文を思い出す。
いちばん大切で平和なことは、何でもない家族の食卓の中にある。
食材の大切さを意識した店作り
福島にいた頃から料理が好きで、厨房で過ごす時間が多かった。同じ飲食の世界で、先に上京した兄に続いて東京へ。
とにかく、福島よりたくさんの人が住んでいる東京で、自分を試してみたかった。兄は『バー・ラジオ』で正統的なバーテンダーとして修業し、『セカンド・ラジオ』の店長を経て独立、六本木でバーを開いていた。
学生時代から飲食でアルバイトし、兄の店のサポートを経て、西麻布のレストランへ。厨房で、オーガニックな有機野菜や漢方牛、漢方豚に出逢い、食材の大切さを再認識し、いつか自分の店を出したいと思い始めた。
たくさんの野菜と、大好きなナチュラルワインや、自家製のシャルキュトリーも出したい、店のコンセプトは決まった。
隣り合う3軒の店が奏でるナチュラルなハーモニー
理想的な物件との出逢いも、突然やって来た。以前、雑貨屋として人気があった場所。エントランス全体を使った、古民家風の見晴らしがいい全面のガラス扉。エントランスへ誘導する、陽射しが映えるボードウォーク。
すぐにひと目惚れして、現在のエントランスを活かしたまま、古材と丸タイル貼りのカウンターを作り、土間だった床を上げ、厨房を新調する。ワンオペレーションの店だから、徹底的に自分が働きやすい環境を心がけた。
ボードウォークには、たくさんのグリーンを置いた。偶然、1軒挟んだアジア野菜料理『biji』の外観とも協調し、間に花屋さんが開店してからは、静かな通りの一角がグリーンで包まれた。3つの店は、静かに主張しながらナチュラルなハーモニーを奏でている。
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