利き酒師・あおい有紀アナがこっそり通う、お燗名人の日本酒がおいしい神楽坂「隠れ家割烹」
唎酒師、一級フードアナリストの資格をもち、大の日本酒好きとして各メディアで活躍中のフリーアナウンサー・あおい有紀が、選りすぐりの和酒のお店を訪れ、お店とお酒、人の魅力に迫る!
# 神楽坂の名店
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- 1.東京・神楽坂の瀟洒な隠れ家割烹で、お燗名人のテクニックに酔いしれる
2.“酒番”と呼ばれるオーナーは有名ホテルの日本酒バーで腕を磨いた、日本酒界のカリスマ
3.料理のおいしさが倍増する、オーナーの絶妙なお酒と器のセレクトに身も心も委ねる至福の時
自他共に認める日本酒好きのフリーアナウンサー「あおい有紀」が“和酒”の魅力を発信!
いま空前の和酒ブームで、日本酒や焼酎、日本ワインなどの“和酒”が楽しめる店が増加している。けれども本当においしい魅力的なお店は? そのお店のお酒や料理はどう楽しめばいいの?
唎酒師、焼酎唎酒師、一級フードアナリストなどの資格をもち、大のお酒好きとして各メディアで活躍中のフリーアナウンサー、あおい有紀さんが自分の足で探し歩いた「とっておきのお店」を訪れ、選りすぐりのお酒と料理を実際に味わいながらじっくりとその魅力を紹介。
今回は、東京・神楽坂にのれんを掲げる“燗酒の名店”にうかがった。
「酒番(さけばん)が操る「日本酒」をあなた好みで堪能しよう!
神楽坂上の交差点のほど近く、小さな路地を入った場所に、その名店があります。
店内に入ると、落ち着いた雰囲気の和の空間。余計な装飾は抑えられ、木目のカウンターを中心とした、ほっとくつろげるような雰囲気が広がっています。あまりの居心地のよさに、眠ってしまう人もいるそうです(笑)。
こちらのお店のオーナーである多田正樹さんとは、かれこれ20年近くになるお付き合いです。多田さんは西新宿の「京王プラザホテル」にある日本酒バーの先駆けともいえる『天乃川』に10年勤められ、その後、都内の飲食店で数年働かれたのち、昨年2017年に独立されました。日本酒がブームになる前、日本酒をもっと世の中に認知してもらえるような活動をする中で出逢いました。
多田さんの名刺には「酒番(さけばん)」と書いてありますが、彼の日本酒選びのセンスは本当に素晴らしく、とくにお料理と合わせたお燗のワザはお見事! 業界では「燗付師」と呼ばれているほど。ご本人はそこまでの意識はないとのことですが、ここまでこだわってお酒を選び、目指す味わいにもっていける方はなかなかいません。
お料理はお任せで8,000円と13,000円の2コースのみ。神楽坂の料亭『石かわ』出身の大塚将人さんが腕をふるう、季節感を生かしたシンプルな日本料理はどれも絶品です。このお料理に合わせて、多田さんが絶妙なタイミングでお酒を選んでくれます。
私の好みや飲む量はよくご存知ですから、何も言わなくてもぴったりの量でお酒を出してくれますが、初めてのお客さまには「どのくらいお飲みになられますか?」と聞いてくださり、お料理のペースと、その人が心地よい分量のお酒を配分して出してくださいます。お料理ごとに出してもらえますし、気に入ったお酒をずっと飲むことも可能。量が飲めないという方には、お料理に合わせて半合とか、猪口一杯ずつでも出してくださるというから、頭が下がります。
もちろん、「苦手なもの、好みでないもの」も聞いてくれます。苦手なものを避けながら、新しい味の発見をしていただけるように、反応を伺いながらお酒を選ばれます。個人的にもぜひ、多田さんのお任せでお酒を選んでいただくことをおすすめします。とくにお燗はぜひ!「燗酒はちょっと苦手」という先入観をもたれている方も、「温かいお酒って、こんなにおいしかったんですね」と感動されることが多いそう。
季節感あるお料理に寄り添う「燗酒」の優しさに酔いしれる
さっそく、お料理とお酒をいくつか、お任せで出していただきました。
1品めは「鳥貝の冷菜」(写真上)。旬の鳥貝に、つぼみ菜を添え、卵黄を使った黄身酢と、木ノ芽入りの土佐酢のジュレがかかっています。甘みのある鳥貝に、まろやかな黄身酢と、土佐酢が爽やかな酸味を添えます。
合わせたのは岩手・花巻『川村酒造店』の「酉与右衛門(酔右衛門・よえもん)」の直汲生原酒。透明感のある酸味とうまみが特徴で、このお酒を合わせると、木ノ芽の香りが口の中でふわっと広がります。貝の甘みも感じつつ、黄身酢の酸味とお酒自体の酸のバランスがよく、後口も爽やかです。
2品目は「ハマグリと筍の煮物椀」(写真上)。ハマグリのだしで作ったあんをかけて木ノ芽を散らしてあります。春らしい香りと味わいをふんだんに盛り込んだうれしい1品。
これに合わせたのは福井・奥越前の「花垣 純米大吟醸 うすにごり」。いよいよ多田さんのお燗が登場です。人肌よりほんのり温かい温度にしてあり、ひと口味わうと口の中で香りがふわっと広がります。ちょうど気温が上がってきているかいないかという時期をイメージして選んだそう。新酒のフレッシュ感というよりは落ち着いた感じの優しい味わいで、ついつい杯を重ねてしまいます。
3品目は、「甘鯛の昆布締め からすみ和え」(写真上)です。昆布〆にしてうまみの増した甘鯛のねっとりした身をからすみで和えた、日本酒好きなら目が輝きそうな品。うまみの相乗効果がたまりません。
こちらに合わせて、多田さんが選んでくださったのが石川の「宗玄 山田錦 純米無濾過生原酒」。48℃のやや高めの温度に付けてあります。無濾過生原酒好きの間では別格といわれている人気のブランドとのこと。口当たりはまろやかで、お米の香りに似た穀物由来の味わいが楽しめます。これをうまみのある甘鯛のからすみ和えに合わせると、料理とお酒が一体化して、さらに自分も一体になっている感じがして至福のひと時が堪能できます。
カウンターの中央には、お燗用に75℃、55℃、40℃の、3つの異なる温度帯のお湯が張ってあります。お料理の種類やお客さまの好み、タイミングに合わせて、「ぬる燗でじっくり」「高い温度でさっと仕上げる」など、さまざまなタイプのお酒を出してくれます。このお燗の様子を眺めながら呑むのも、酒飲みにはたまらなく魅惑的です。
4品目は「桜鱒の焼き物」。醤油地に漬けてこんがりと焼き上げた桜鱒。皮だけばりっと揚げてあるのが心憎い。さっぱりした梅おろしとそら豆を添えてあります。
合わせたお酒は愛知『長珍酒造』の「純米吟醸 長珍」。無濾過生原酒が有名ですが、あえて火入れ・加水したタイプを50℃の熱燗に。しっかりとしたうまみのあるお酒で、シンプルな味わいの焼き物と合わせると絶妙で、素材の風味をふんわりと引き立たせてくれます。この抑揚のつけ方、さじ加減がさすがだなぁと思いますね。
締めに用意していただいた「土鍋ごはん」(写真上)は、旬のホタルイカときんぴらにしたウドを炊き込んであります。ホタルイカの優しいうまみとウドの香り、しゃきしゃきした食感がたまりません。
流れとしてはお酒の後の締めですが、このご飯に合わせてさらにお酒をオーダーする強者も。もちろん私もその一人。頼んで選んでいただいたのは鳥取『山根酒造場』の「日置桜 純米吟醸 伝承強力(ごうりき)」。こちらも55℃の熱めの燗で。ひと口味わうと、骨格はしっかりしていながらも雑味がなく、ホタルイカのうまみがより広がり、お米も喜んでいるような感じがします。大満足のひと時でした。
料理のおいしさを何倍にも増幅させる「お酒選び」
お料理に寄り添った多田さんのお酒のチョイスと、絶妙な温度に仕上げるお燗の技には脱帽です。「“燗付師”と呼ばれたり、お燗の技術に着目されることが多いのですが、テクニックよりは“この場面でどのお酒をチョイスするか”のほうがよほど重要なんです」と多田さん。
また、仕事がら、日本料理のお店をたくさん見てきた中で、料理人が料理を愛しすぎるあまり、お酒のセレクトに目が行き届いていない、と感じたケースが少なくなかったそう。「料理の邪魔をしないのならいいのですが、明らかに料理の味をこわしている場合もしばしば。ならば、お酒選びの専門職があってもいいのかな、と思っています。僕がお酒選びと接客のほうは面倒を見ますから、料理人は思いっきり料理を作ってください、と」。
あらためて、このお店を開いた理由を伺うと、「まっすぐに王道の、普通のことがやりたかった。飾り立てないシンプルなおいしい料理に、奇をてらわない、おいしいお酒が何も言わないでも出てくるような……。全体的に普通なんだけど、設えもきれいで、器もきれいでちょっと上質なものにしたくて」。
長年、日本酒の普及に関わってこられる中、多田さん自身の想いの中にあるのは、「お客さまに“珍しいお酒を飲んだ”ではなく“おいしかった、楽しかった”と言っていただくこと」。日本酒業界でも一目置かれる存在である多田さんにとっては、原点に立ち返るような気持ちでしょうか。
たしかに、多田さんのお酒のセレクトはいまの日本酒の流行の先端というより「王道」といえるものが多いかもしれません。「マニアックな日本酒を熱く語りたい方は、ほかに名店がいろいろありますから」と多田さん。
日本酒に詳しい方も初心者の方も、目の前のお料理とお酒をただ、リラックスして味わえる心地よさはほんとうに貴重。現在、来店されるお客さまはお料理もお酒もすべてお任せという方が8割以上だとか。ここへ来たら難しいうんちくは抜きに、身も心も委ねてしまいましょう。きっと至福のひとときが過ごせるはずです。
なお、こちらのお店は完全予約制なので、訪店の際はご予約をお忘れなく! (店名・住所は以下に記載)
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