中国料理界の稜線を歩んだ名シェフの料理は、人の心を動かす「ヌーベルシノワ」 名古屋『中山邸』
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- 1.セカンドストーリーはここ名古屋から。トップシェフが魅せる食のアート
2.炎と感性で創造するヌーベルシノワを大人の社交場「サロン」で堪能
3.揺るぎない基本の先に応用がある!それを物語るシェフのスペシャリテは「上湯(シャンタン)」
パリのオペラ座を彷彿とさせる、ラグジュアリーな大人のサロン
重厚な扉を開くと、そこには時間とここが日本だということを忘れさせる光景が広がる。世の喧騒をシャットアウトした空間は、まさに「サロン」。煌びやかなシャンデリア、イタリアの大理石やアンティークのテーブル、子象の革張りソファなど、今となっては入手し難い調度品が、空気感をスペシャルなものへと昇華させる。それもそのはず、ここはかつて限られた人だけが通うことを許された、会員制のバーだったからだ。バーとしての役割を終えたのち、新たな灯火を着けたのが『neo cuisine chinois 中山邸』のオーナーシェフ、中山哲夫さんである。
中山シェフの経歴は実に華々しい。「炎の芸術」と称される中国料理に魅了され、「ホテルオークラ東京」入社後は中国料理一筋に邁進。海外のセレブリティからも愛された同ホテルの『チャイニーズテーブル スターライト』では料理長にまで昇り詰め、ヌーベルシノワ(調理法等に工夫を凝らした新たな中国料理)を確立したひとりとして高く評価された。その後名古屋の『ホテルオークラレストラン 中国料理 桃花林』の総料理長に就任し、定年まで勤め上げた中山シェフは、新たなる味を表現する場を求め、出店を計画。そんな折に縁あって現・中山邸での開業話が持ち上がり、2017年4月に新たなストーリーを綴り始めたというわけだ。
人の心を動かす味を追い求めて「守・破・離」を繰り返す
数多の料理人を取りまとめ、さまざまなVIPを満足させてきた中山シェフは、とにかくストイック。人の心を動かす味を作るためには、まず自分がその味に感激しなければいけないと、「守・破・離」を常に繰り返している。つまり、守るべきルールは守り、破るべき固定概念は打ち破り、離れるべき執着からはあっさり離れるというスタンスだ。「ホテルオークラ東京」時代も常にノートとペンを持ち歩き、ふと降りてきたアイデアは逐一メモ。そんな中山シェフが作り出す料理は、中国料理の基盤を守りながらも、常に新しい風が吹き込まれている。
「ソフトシェルクラブの黒酢ソース」(写真上)は脱皮したばかりの柔らかいカニに衣をまとわせ、サクッと揚げて黒酢のソースを合わせた一皿。黒酢が油っぽさを断ち切り、後味は非常にサッパリしている。「中国料理はジグソーパズルのようなもの。衣、具、調味料など、さまざまなピースがパシッと組み合わさった時、『おいしい』が生まれるんです」と中山シェフ。シェフの引き出しには、ありとあらゆるピースが揃い、頭の中で常にパズルのシミュレーションをしているのだろう。
お馴染みのエビチリもシェフの手にかかればヌーベルシノワに早変わり。「大エビの2色のチリソース」(写真上)はトマト感の強い赤のソースと、山椒とイカスミの効いた黒のソースを大エビに絡め、陰陽を表す太極図のように盛り合わせた一品だ。酸味の赤、ピリリとスパイシーな黒のどちらから食べようか、悩む時間も食べ手に与えられた至福のひとときである。
純白に赤が映える「カニと卵白のフワフワ炒め」(写真上)は、そのネーミングの通りフワッフワだ。この食感は寸分の誤差も許さない適切な火入れの賜物である。
鍋と対峙するシェフの背中には、呼吸さえ忘れているかのような緊張感がみなぎっていた。卵白に加えた生クリームがコクとミルキー感を生み、カニのうまみと塩分がやさしいコントラストを描き出す。口の中で淡雪のように消えゆくフィニッシュもたまらない。
「次はすき焼き出しますよ」とシェフからひと言。ヌーベルシノワですき焼きを出す時代到来か…と、鍋の登場を待っていたところ、想像とは全く異なる光景が皿の上に広がっていた。「和牛ロースの中華風すき焼き」(写真上)は、サッと火を通した和牛ロースに、豆鼓醤、ワイン、ネギや生姜などを使ったエキゾチックなソースを合わせ、最後に紹興酒で漬けた卵黄をトッピング。
浸透圧によってプリッとしたフォルムを保つ卵黄を解き放ち、肉に絡めていただくと、複雑な芳香が鼻腔を満たす。すき焼きの甘さが苦手な方でも楽しめる「大人のすき焼き」だ。発想の豊かさに味を構成するセンスが合致してこそのレシピである。
目の前に漆黒の液体が運ばれ、中山シェフに戸惑いの眼差しを向けると「古代米と小豆のお粥」(写真上)と種明かしをしてくれた。口に含むと、見た目からは想像できない繊細なだしの味わいが広がり、噛みしめると古代米と小豆の素朴な甘さが待ってましたと現れる。
トッピングした揚げネギのコクも心にくい。朝食でいただくようなあっさりとした粥をイメージしていたら、間違いなくいい意味で裏切られる一杯だ。
道を極めた者しか見られない景色が、そこにある
お粥のだしの奥深さに感心していると、「じゃ、アレも出しますか」と、踵を返して火の前へ移動する中山シェフ。数分後に供されたのはシェフのスペシャリテ「光麺(こうめん)」(写真上)だ。この料理は中国料理の要である高級スープ「上湯(シャンタン)」の味がダイレクトに伝わり、一切の誤魔化しがきかない。
「光麺」をスペシャリテと位置付けることは、料理人の自信の表れに他ならない。中山シェフの上湯は、吟味した素材をオリジナルの配合で用い、2時間半かけて仕上げる。意外と短いような気もするが、その間火の前から片時も離れず見守り続けるという。「にらめっこしていると、うまみがググッと伸びてくる瞬間がわかるんです。これは他の人には伝えられない感覚ですね」と先ほどまで厳しかった表情を崩して嬉しそうに語る。
炒め物や煮物の仕上げに水溶きかたくり粉でとろみをつけるとき、グラグラと沸き立つソースがピタッと動きを止め、鏡面のように輝く瞬間があるそうだ。これもベストな状態でないと拝めない光景で、配分やタイミングは体で覚えるしかないと断言。我々が見たことのない景色を、中山シェフは数多く見てきたのだろう。
食事のひとときをより豊かにしくてれるワインも充実
サロンでヌーベルシノワをいただくのだから、当然最良の友となるワインの存在を忘れるわけにはいかない。中山邸ではシェフの料理にピタリと寄り添う、希少なワインを30種ほどオンリスト。他ではお目にかかれないフランスやオーストリアの銘醸ワインも揃う。また、約20万本のストックをもつインポーター(輸入業者)と提携しているため、好みと予算を伝えれば店に合うものを入れてくれるというから、頼もしい限りだ。
良き料理と良きワイン、そして良き舞台が、人生の豊かさを実感させてくれるに違いない。
【メニュー】
ランチ 3,800円、5,400円
ディナー 7,000円、8,600円、11,000円
※価格はすべて税込
※予算やお好みに合わせた特別メニューの用意も可
neo cuisine chinois 中山邸
- 電話番号
- 052-732-6333
- 営業時間
-
ランチ:木~日のみ11:30〜(L.O.13:45)、ディナー火~日17:30〜(L.O.21:00、クローズ22:00)
定休日:月曜
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
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