チョコ好きは絶対行くべき! 新たなチョコレートの魅力に出逢える、日本橋浜町『nel CRAFT』

桑原恵美子

Summary
1.カカオの個性を味わえるチョコレートショップ、日本橋『nel CRAFT CHOCOLATE TOKYO』
2.シェフショコラティエ村田さんは、著名ショコラティエに師事し、ヨーロッパでの修業も積んだ実力派
3.豊かな味わいのチョコレートパフェなど、新たなチョコレートのおいしさに出逢える

「職人の手しごと」が見える空間

近年増えている「ビーントゥバーチョコレート」。カカオ豆の選別から商品に仕上げるまでの全工程を一貫して手掛けたチョコレートである。
そんなビーントゥバーの製法で話題の、チョコレートショップが誕生した。

2019年2月15日、日本橋浜町(はまちょう)に開業した『HAMACHO HOTEL TOKYO』は、浜町エリアのまちづくりコンセプトである“「手しごと」と「緑」の見える街”を具現化したホテル。

その1階に同日オープンしたのが、チョコレートショップ『nel CRAFT CHOCOLATE TOKYO(ネル クラフトチョコレート トーキョー)』だ。

▲「nel」という店名は「練る」という言葉からきている

エントランスの左手にあるカカオの貯蔵庫のガラス窓には、その由来が書かれている。チョコレートにかけられた思いをしっかり受け止めることで、今からどんな出逢いがあるのかという期待も一層高まることだろう。

カウンター後方には、実際にチョコレートを作っている工房。
ガラス越しにチョコレート作りのプロセスを見ることができる。フロアの二面に大きくとった窓は明るさだけでなく、街との一体感も生み出している。

カウンター横には白木の陳列台があり、同店自慢の商品が並んでいる。まるで和菓子店のような佇まいだ。

店の奥・ホテル側の入り口には、9種類のタブレット(板チョコ)が並んでいる。タブレットはすべて、テイスティングが可能。

商品以外でもさまざまな”遊び”が散りばめられている。

カカオ型のランプシェードは、カカオの殻の繊維を使って『美濃手漉き和紙工房 Corsoyard』の職人が作ったオリジナルのカカオ紙を、水戸の老舗提灯メーカー『鈴木茂兵衛商店』が仕上げたもの。商品の包装にもこのカカオ紙が使用されている。

また、陳列台の引き手などにもこだわり、細部にまで職人の技が感じられる空間となっている。

ヨーロッパとベトナムの体験で、“チョコレート観”が変わった

シェフショコラティエの村田友希(むらた ゆうき)さんは京都出身で、京都府福知山市の『洋菓子マウンテン』では「ワールドチョコレートマスターズ2007」総合優勝者の水野直己氏に師事。同店でスーシェフを務めた後、フランスのアルザス地方やルクセンブルクなどで菓子修業を重ねた。

それまで、「東京のスイーツが世界最高水準で最先端」というイメージを抱いていた村田さんだが、ヨーロッパの文化に触れてそのイメージは一変する。

「現地では、食卓にワインが必需品なのと同じように、チョコレートは家庭にあってあたりまえのもの。スイーツは嗜好品ではなく、もっと本質的に人々の生活に欠かせない存在であり、そのなかでパティシエという仕事の奥深さにあらためて気づかされました」(村田さん)

そんな村田さんのチョコレート観をさらに大きく変えたのが、ベトナム中部のブンチャプにある小さな農園で出逢ったカカオ。標高が高く、カカオが生育できるギリギリの温度のため、適度なストレスによって他にない独特の風味が生まれるのだという。

「夫婦2人だけで営んでいる小規模な農園だったのですが、ご主人は心からカカオを愛している方でした。『カカオが好きだから育てているんだ』というまっすぐで純粋な姿と、これまでに味わったことのないフルーティーな味わいに感動しました」(村田さん)

▲村田さんが惚れこんだブンチャプの契約農園のカカオを使用したチョコレート(写真上)は、まるで新鮮なベリーを練りこんだようなさわやかな酸味

同じ産地のカカオで、発酵温度による味の違いを食べ比べ

タブレットは全9種類。最近はカカオの産地による個性の違いを味わえる商品が増えているが、実は産地と同じくらい「現地での発酵温度」でも味が左右される。

同店ではその違いを比べて味わえるよう、同産地で発酵温度を変えた2種類のチョコレートを用意している。

発酵の温度上昇が急で第一発酵(乳酸菌、酵母菌発酵)の作用がしっかりとしている「エンレカン75% #014」(写真上・中央)は、樹木のようなすがすがしい香りと、燻製のようなスモーキーな香りがする。

反対に発酵の温度上昇が緩やかで第二発酵(酢酸菌発酵)が長くとれている「エンレカン75% #021」(同・右)には、赤ワインやスモモのようなキリッとした酸味が出てくる。

また、一般的にビーントゥバーのチョコレートは、カカオ豆の個性を生かすために低温で焙煎することが多い。

だが、「確かに低温で焙煎したほうがカカオ豆の個性がダイレクトに出ますが、同時に雑味も残ってしまいがち。カカオの個性も大事ですが、チョコレートとしておいしくなければ意味がありません。僕は130~150℃でしっかり焙煎した、雑味のない味が好きですね」(村田さん)

チョコレート作りでは精錬(コンチング)という、なめらかで香りあるチョコレートへ仕上げるために練りあげる最終工程が非常に重要視されている。

そのため、丸3~5日もかけて練り上げる店も多いが、村田さんは日本でもまだ珍しい特別なマシンを使用し、練り上げる時間を短縮することで、よりフレッシュなカカオの風味を出している。

「ボンボンショコラにこそ、ビーントゥバーの製法を使う意味がある」

ビーントゥバーといえばシンプルなタブレットのイメージが強いが、村田さんが特に力を入れているのはボンボンショコラ(フィリングが入った一口サイズのチョコレート)。

「ビーントゥバーの製法なら、生クリームを多めにいれてもカカオの個性をしっかり残せるんです。なので、ボンボンショコラにこそ、ビーントゥバーの製法が生きるように思います」(村田さん)

カカオの個性を活かしつつ、口当たりをソフトにし、さまざまな素材を溶かし込んだビーントゥ・ボンボンショコラは全12種。

キャラメリゼした胡麻をペースト状にした芳ばしい自家製プラリネを使用した「胡麻」(写真上・上)、京丹波産黒豆きなこを贅沢に使用したガナッシュ(チョコレートクリーム)をフィリングにした「丹波黒豆きなこ」(同・右)。

いずれもフィリングの和の素材が強く主張しすぎず、チョコレートとの一体感のある味わいに仕上がっている。

「山椒」(写真上)は、京都の錦市場で見つけた青実山椒の香りをそのままガナッシュに移したボンボンショコラ。

コクのあるクリーミーなミルクチョコレートの味わいがメインで、ガナッシュの山椒風味が追いかけてくる。山椒の風味が決してカカオの風味を追い抜くことなく、しかしどこまでも伴走しているような印象だ。

その他、小宇宙のような美しさを持ったショコラも魅力的。
高知県産柚子を使用したガナッシュが爽やかな「柚子」(写真上・左)は、柚子の鮮烈な香りがカカオの香りを引き立てている。フレッシュな大葉の香りを生クリームに移した「紫蘇」(同・中央)は、カカオと青紫蘇の香りの相性のよさに驚く。

紀州南高梅のペーストと秋田の梅酒「梅ごこち」 を使用したフルーティーな「梅」(同・右)は、アルコールの余韻がカカオの深い味わいを引きだしている。

そのほかにも、季節素材を使った「季節のボンボン」や、「ブラジル」「ベネズエラ」など国ごとにカカオのおもしろさが楽しめるショコラをラインナップしている。

ベトナムの契約農家で味わったカカオの感動を表現したパフェ

店内限定のチョコレート・スイーツが食べられるのも人気の理由。なかでもおすすめは「チョコレートパフェ」。

「僕がベトナムの契約農家で味わったカカオの感動を、パフェで表現したいと思いました。また僕自身、最後までヘビーなチョコレートパフェはあまり好みではないので、そういう人もチョコレートパフェが好きな人も、みんながおいしく味わえるパフェを目指しました」(村田さん)

グラスの底にヌガーと、ベトナムの契約農家から取り寄せているカカオを使ったチョコカスタードを敷く。さらにその上に、ライチのピューレとシロップを泡立てたものをまわしかける。

チョコレートアイスの上に、爽やかな酸味のきいたベトナム産カカオを使用したクレームショコラを重ね、カカオニブ(フレーク状に砕いたカカオ豆)を散らして完成だ。

「チョコレートパフェ」(写真上)は、トップのクレームショコラが濃厚かつなめらかで、カカオニブのパンチの効いた苦みとカリカリ食感がアクセントになっている。

その下のベトナム産カカオを使用したチョコレートアイスクリームは、ベリーのような爽やかさがライチのソースと絶妙にマッチ。

重くなく甘すぎず、食べ進むにつれて、カカオ感よりフルーツ感が強くなり、次第にカカオとフルーツの境界線があいまいになる。最後には「カカオもまたフルーツなのだ」と気付かされる、驚きに満ちたチョコレートパフェだ。

スペシャルなマシンを使って作る、ここでしか飲めないホットドリンク「ショコラショー」

「ショコラショー(ホットチョコレート)」(写真上)も、この店でしか味わえないスペシャルなドリンクだ。

数種のチョコレートから1つを選び、好みの味をその日の気分で楽しめる。注文ごとに1杯ずつ淹れることのできる専用スチーマーを設置しているからこそ可能な、人気の一品である。

「カカオを作っているベトナムの農園主の『カカオが好きでたまらない』という想いを、僕が思う一番おいしいチョコレートの形にして届けたいです」と語る村田さん。

村田さんが作るチョコレートは、村田さんの人柄と同じようにどこまでも穏やかでやさしい。だがその奥には、職人としての緻密な計算と情熱から生み出される、驚くほど豊かで深い味わいが隠されているのだ。


【メニュー】
nelオーガニックブレンドコーヒー 550円
チョコレートパフェ 1,000円
ショコラショー 650円

ボンボンショコラ
胡麻 350円
山椒 350円
丹波黒豆きなこ 350円
柚子 380円
紫蘇 380円
梅 380円
季節のボンボン 400円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です

nel CRAFT CHOCOLATE TOKYO(ネル クラフトチョコレート トーキョー)

住所
〒103-0007 東京都中央区日本橋浜町3-20-2  HAMACHO HOTEL TOKYO 1F
電話番号
03-5643-7123
営業時間
10:00~20:00
定休日:不定休
公式サイト
公式ページhttp://nel-tokyo.jp/

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。