グルメ界をにぎわす新宿・荒木町『南三』。唯一無二の「マニアック中華」をまた食べたくなるのはなぜか
特集:マニアック中華
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- 1.中国少数民族料理から辺境の郷土料理まで!【特集・マニアック中華】
2.雲南・湖南・台南の食を”編集”した独創的な中華が楽しめる、荒木町『南方中華料理 南三』
3.調味料やスパイス、シャルキュトリーは自家製多数。個性的な素材が調和した唯一無二の味わいに驚嘆
食通も大注目、新たな食と出逢える「マニアック中華」
近年、東京を中心にファンが増えている「マニアック中華」。本記事では、いわゆる四大・八大料理にカテゴライズされないローカルな中国料理や、主に中国西南部に居する少数民族料理のことと定義する。
趣味趣向の多様化が進む現代において、新たな、刺激的な食との出逢いを求めるグルマンを筆頭に、この「マニアック中華」に熱視線が送られている。
雲南・湖南・台南の食を水岡流に”編集”。『南方中華料理 南三』の奥深い世界とは
そんなマニアック中華を捉える際に、絶対に外せない一軒がある。食通の集う街・新宿区荒木町で人気を博する『南方中華料理 南三(みなみ)』だ。
実はまだオープンから1年しか経っていない同店だが、その人気ぶりは予約の困難さに見ることができる。予約方法は、SNS投稿を合図に2カ月先の席を巡って一斉スタートする電話合戦のみで、運よく電話がつながった人だけが予約を許される。つまり2カ月先までは連日満席なのだ。
そんな『南三』という店名は、オーナーシェフである水岡孝和さんの好きな中国料理ベスト3、雲南料理・湖南料理・台南料理の3つの“南”にちなんでいる。中国西南部に位置するこの3地域をベースとした、水岡さんのセンス溢れる料理が、食を愛する人の舌と心を鷲掴みにしている。
「子どもの頃から料理をしてましたね。お弁当も自分で作っていました」(水岡さん)
テレビの料理番組などもよく見ていたそう。その後当然のように料理人を目指すなかで中華に魅了され、渋谷・北京料理『天厨菜館 渋谷店』、西麻布・ヌーベルシロワ『A-Jun』(現在は閉店)、三田・広東料理『御田町 桃の木』といった名店で修業を重ねてきた。
その間に1年、台湾で語学を学びながら現地の料理学校にも通う。その後、マニアックな中国料理で知られる『黒猫夜』の銀座店で店長まで務めたのち、独立に至った。
『黒猫夜』在籍時には、上海から新疆(しんきょう)ウイグル自治区・貴州省・広州省まで、広く中国を巡った経験もあり、地域一つひとつに多様性があって非常に面白いと実感。その一方で、中国人は強い郷土愛を持っているが、一地域に捉われずに食のアレンジができれば、もっと面白くなるのではと考えたという。
豊富な経験による技術とセンスによって、各地域の素材や調理法の良さを際立たせながら、時代や環境に合わせて、水岡流に”編集”した料理を提供する。
料理
雲南料理、湖南料理、台南料理
特徴
水岡さんが強調するのは、”調和・編集”といったワード。現地のものをそのまま持ってくるのではない。前述3つの”南”エリアの食材や調味料・調理法を、うまく”調和”させながら、日本人の口に合うように”編集”して仕上げているのだ。
同店のメニューは、月替わりのおまかせコースのみ。前菜盛り合わせ、自家製シャルキュトリー、野菜、点心、魚、肉、ご飯または麺、デザートの8~9品という構成だ。
そんなバラエティに富むコースの中から、おすすめの品をご紹介しよう。
▲台湾ハイビスカス新生姜
まずは前菜盛りから一品。特に台東エリアでお茶として親しまれるハイビスカスを新生姜と合わせている。ハイビスカスは乾燥した花びらを台湾や国内から仕入れているという。水で戻しただけだと強烈な酸味があるので、戻し汁を沸かし甘酢溶液のようにしてから新生姜と漬けている。
鮮やかな色はハイビスカスのもので、味わいも甘みのなかに自然由来のきれいな酸味が立っている。食欲を増進させる前菜として機能する一皿だ。
▲カツオ燻製塩レモン茴香(ウイキョウ)
こちらも前菜盛りから。旬のカツオを燻製し、塩レモンソースをかけた一品。雲南省・貴州省などの中国西南部で見られるレモンを塩漬けにした漬物に着想を得たという。
ソースは、塩漬けしたレモンにショウガと新タマネギ、ウイキョウを刻んで和えている。レモンの塩漬け(写真上)は、丸のままのレモンをさっと湯がき、ハーブ塩水に3カ月~半年漬けておくことで、皮のえぐみが取れて爽やかな味わいに仕上がる。
香りの強いハーブソースとバランスをとるため、カツオは楢(ナラ)を使って2~3分燻している。カツオのような海鮮系には色づきが早い楢のチップを、熟成によってうまみをじっくり凝縮させる肉には持続性があり香りも強い桜チップを使っている。
ねっとりとしたカツオは軽やかな薫香をまとい、ハーブソースの清涼感と見事に調和している。
▲台南エビフライ揚げバジル
台南の屋台で見られる料理の組み合わせ。エビが多くとれる台南では、すり身を豚のアミアブラ(内臓のまわりについている網状の脂)で巻いて揚げたエビフライが食べられる。アミアブラを巻くことで、油が抜けてカリっとした軽い食感に仕上がるという。揚げバジルは、現地ではフライドチキンと合わせて食べられており、同店ではそれをエビフライに置き換えている。
サクっと軽やかな衣と、とろけるほどなめらかなすり身のコントラストが非常に心地よい。衣にはビールを、すり身にはサトイモを合わせることで、このコントラストを一層楽しめるようになっている。
カリッと揚げられたバジルは、噛むほどに清涼感も広がり、軽いチップス感覚で楽しめる。
▲鮎コンフィ干鍋(ガングォ)仕立て
干鍋とは、四川省や湖南省で食べられる汁気の少ない火鍋のような料理。現地でも最近人気があり、専門店も増えているという。調味料は火鍋とほぼ同様で、具材は内蔵系や海鮮・川魚等、多岐に渡る。
同店では、香りの強い川魚として鮎をセレクトし、干鍋との相性を考えてコンフィにしている。コンフィ油にはクミン・山椒・ローリエを入れてハーブオイルのように仕立て、塩を振った鮎を150℃で3~4時間じっくり煮る。冷蔵庫で冷やした後、フライパンでカリッと焼いてソースをかけて完成。
ソースは、豆板醬・唐辛子・ニンニク・ショウガ・豆鼓・醤油・牛脂等を沸かしてオイルを抽出しペースト状にしたものをスープで伸ばし、紹興酒・黒酢を加えてソ-ス状にしている。
うまみがしっかり閉じこめられた鮎は身がしっとり優しい。ソースと合わせるとピリッとした辛みがストレートに伝わり、ハーブの爽やかさも加わり渾然一体となっている。
▲鹿の自家製沙茶醬(シャアチャアジャン)炒め
赤身肉と沙茶醬の強いうまみが相性抜群な一品。沙茶醬とは、広東省や台湾でよく使われる魚介系のうまみの強い調味料。同店では、揚げた台湾エシャロット・ピーナッツ油・ココナッツ粉・一味唐辛子・カツオ節・シタビラメの干物を炒めて醬に仕立てている。
筋肉質な鹿肉は強いうまみを蓄えており、沙茶醬の深いコクとうまみがそれを絶妙に引き立てている。
上に乗ったマコモダケ(イネ科の多年草)は、やわらかいタケノコのようなサクサクした食感で粘り気もある。鹿肉と対局の優しい甘みがあり、一皿としてのバランスの良さがうかがえる。
▲塩豆乳和えビーフン
台湾の朝食である鹹豆漿(シェントウジャン)と米線と呼ばれるビーフンを合わせた一品。鹹豆漿とは、酢と醤油に熱々の豆乳を加えて作ったおぼろ状の豆腐に、干しエビ・ザーサイ・現地では揚げパンを加え、ラー油等を垂らして食べるもの。同店ではシメとして機能させるために、揚げパンではなく米麺を合わせている。
米線は雲南省や湖南省でも見られるが、きしめんのような太さで強いコシがあるので、それより細い台南のものを使用。水に1日漬けて戻してからさっと茹でることで、アルデンテで楽しめるという。茹でた米線にピーナッツ粉・醤油・黒酢・ラー油を和えれば完成。
豆乳のふるっとろっとした舌触りと優しい甘み・コク、ラー油の辛み、米線のツルっとしたなめらかさとコシをバランスよく楽しめる。
なぜ、『南三』に何度も通いたくなるのか
『南三』の魅力は何といっても、独創的でありながらしっかり我々の舌に馴染む料理である。水岡さんは、個性的な素材をまとめ上げつつ、味に奥行きをもたらす調味料やスパイス、シャルキュトリーにいたるまでを可能な限り自家製にこだわる。前述のレモンの塩漬けや沙茶醬がそれにあたる。
「都内の専門店で買うこともできるんですが、やはり細部のクオリティを見ると、やはり自分でこだわって仕上げた方がおいしいんですよね」(水岡さん)
手間のかかるシャルキュトリー(写真上・左)は店内で燻製させてからぶら下げて熟成している。スペシャリテである「中華シャルキトリー」(同・右)の一員として提供したり、うまみ要素としてえぐみのある野菜と合わせたりする。
個性的であるが故に一品単体をフォーカスされることの多い同店だが、コースの構成にもこだわりが光る。3つの”南”エリアの長所・短所を見てうまく補完させ合うことで、トータルのバランスを取っているのである。
例えば、バランス役としてコースでは多めに登場する台南料理。豊富な海産物を活かした食べやすいものが多いが、それだけではぼやけてしまうので、アクセントとして湖南省の生・塩漬け・発酵トウガラシによるストレートな辛みを合わせたりしている。
また、発酵・スパイス・ハーブを裏テーマに沿えてコースに広がりを持たせたり、燻製等を駆使したりしながら、個性豊かな素材を見事に調和させている。
これほどまでに手間のかけられた美味溢れる料理が月ごとに顔を変えて登場するとあれば、次の予約を取りたくなるのは至極当然だろう。
唯一無二の水岡ワールドを体験すべし
同店が位置するのは、荒木町・車力門通りの突き当り、少し奥まった路地にある雑居ビルの2階。テーブルとカウンターを合わせて15席ほどで、ダークブラウンをベースにしたシックで大人な雰囲気だ。通常の営業に加えて、最近はムック本やレシピ本の執筆・監修にも積極的な水岡さんだが、年数回は現地に出向いて味の探求を続けている。
「まだまだ行ってみたい地域もありますし、いずれは違う地域の料理もやってみたいですね」(水岡さん)
新たな中華を次々と教えてくれる孤高の名店『南三』。その唯一無二の世界を体験しに、ぜひ訪れてみよう。
▲水岡孝和シェフ プロフィール
1981年千葉県生まれ。北京料理『天厨菜館 渋谷店』(渋谷)、ヌーベルシロワ『A-Jun』(西麻布・現在は閉店)、広東料理『御田町 桃の木』(三田)といった名店で修業を重ねる。その後単身台湾へ。1年間、語学を学びながら現地の料理学校にも通う。その後、マニアックな中国料理で知られる『黒猫夜 銀座店』(銀座)に勤務し店長までを経験。その間に中国全土を1カ月かけて周遊し、ローカルな食材や調理法に面白さを見出す。そして2018年5月に『南方中華料理 南三』をオープン。雲南省・湖南省・台南の食をベースに、独自に再構築した料理を提供する。
【メニュー】
コース 5,400円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です
南方中華料理 南三
- 電話番号
- 03-5361-8363
- 営業時間
-
18:00~23:00
定休日:日曜、祝日
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
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