通い続けたい貴重な一軒。センス抜群な個性派フレンチがたのしい、一軒家ビストロ『nid』【都立大学】

小田中雅子

Summary
1.何度でも足を運びたくなる! センス抜群なビストロ『nid』が都立大学に誕生
2.実力派シェフによる、発酵・燻製を活かした「個性派フレンチ」がおいしい
3.料理と自然派ワインには移りゆく楽しみも

居心地の良い空間と個性派フレンチが魅力の一軒家ビストロ

東京・都立大学エリアに、とんでもなく魅力的なビストロが誕生した。『bistro nid(ニド)』だ。

主張は控えめながら、さりげないセンスの良さが隅々まで感じられる洗練された空間。そして、手間のかかったとびきりおいしい料理とお酒が、既に多くの食好きを惹きつけている。

店名の「nid」とは、フランス語で”鳥の巣”の意。その名にふさわしく、日常をちょっと離れて、羽を休めに訪れたくなるような雰囲気にあふれている。

東急東横線「都立大学」駅から歩いてすぐ、目黒通り沿いに突如現れるシックでスタイリッシュな外観が、道行く人たちの目を引く。

店内に入ると、存在感たっぷりの古民家の面影を残した梁が目に入る。内装はナチュラルなグレーと木目が基調。北欧にあるレストランのような雰囲気が心地よい。
1階はオープンキッチンのカウンター席。「今日は何があるの?」「これは何の食材?」といったシェフとお客の会話が飛び交う気さくな空間だ。

2階は、ゆったり落ち着いて過ごしてもらえるよう、アンティーク調の家具やそこかしこにグリーンを配置。初めての来店でもつい寛いでしまうような、開放的な空間が広がる。

オーナーシェフの黒葛原 徹(つづらはら てつ)さんは、フランスの星付きレストランや青山のビストロ『ブノワ』で修業後、神楽坂のフランス・リヨンの郷土料理が人気の『ルグドゥノム ブション リヨネ』でさらにキャリアを磨き、今の料理のベースをつくった。
その後、都内でカフェを複数運営する会社で、料理長やメニュー開発などをこなす傍ら、店づくり全般についても学んだという。

本格フレンチの技を持ちながら、カフェのような居心地の良い店舗運営づくりも熟知した黒葛原シェフにとって、満を持してオープンした『nid』は集大成にふさわしい店だ。

王道の「パテカン」もちょっとおもしろく

「料理で大切にしていることは変化ですね。定番メニューも自分なりにどう表現するかを考えます。お客様に面白がってもらえるとうれしいです」(黒葛原シェフ)

料理の軸は本格フレンチだが、そこに和の要素を取り入れている。それでは、じっくり手間ひまかけて作り上げた料理を紹介しよう。

ワインのおつまみにぴったりな「nidのパテカン」(写真上)。伝統的なパテ・ド・カンパーニュのレシピでは豚のみを使うが、このメニューでは、牛肉や鶏の白レバー、砂肝などをミックス。よりストレートに“肉の味”が際立つ一品。白レバーは火を通しすぎないようにしっとりと、砂肝は粗めの角切りでコロコロと、それぞれ異なる食感がリズミカルで楽しい。

パテには10種類ほどのスパイスを配合。複雑なスパイスの味わいが、肉の脂っぽさを和らげ、意外にもさっぱりいただける。この配合は作るたびに変えているのだとか。定番メニューも訪れるたびに新しい味わいが楽しめる。

付け合わせには自家製ザワークラウト。独特の辛みと香りを持つマスタードシードがしっかりと効いて、塩気が控えめで優しい味わいのパテにぴったりのアクセントになっている。

自家製の発酵野菜が、前菜をワンランク上のおいしさへ

ザワークラウトにとどまらず、シェフは様々な野菜を乳酸発酵させ、料理の名脇役として使用している。およそ10種類ほどの発酵野菜がカウンター上の棚にズラリと並んでいる様は圧巻だ。

トマトやレモン、ポルチーニなどの野菜は、乳酸発酵させるとまろやかな酸味とグッとうまみが増すという。これらの野菜をドレッシングやスープのベースにすることで、お馴染みの料理が新しい顔を見せてくれるのだ。

「牛トリッパ煮込み」(写真上)には、一つの器の中に素材の繊細な味わいや味の移ろいなど、シェフのこだわりが詰まっている。

スープは優しいうまみに満ちあふれているのだが、このうまみは香味野菜と発酵トマトから生まれている。また、下ごしらえ時に発酵塩レモンを使ったトリッパは、臭みがまったくなくプルプルと食べやすい。優しい味わいのスープだからこそ引き立つトリッパそのものうまみが、しみじみおいしい。

ちなみに、器の模様のように見えるのは、刷毛(はけ)で塗られた味噌。少しずつスープに溶け込み、徐々にコクを増す味わいの変化を愉しめる憎い演出だ。

「焼きツルムラサキサラダ」(写真上)。おひたしとして食べるのが定番のツルムラサキ(つる性の植物)をサラダに仕立てるのが、黒葛原流。雪のようにサラダに降りかかっているのは、パルメザンチーズ。このチーズと、ベーコンと発酵ポルチーニが持つしっかりした塩気と酸味とのバランスが絶妙だ。

ここでも発酵ポルチーニが大活躍。フワッと立つ香りと濃い味わいで、お酒のお供にもぴったりなサラダとなっている。

和と洋の融合から生まれる、唯一無二のおいしさに感動

フランス料理に「ナヴァラン・ダニョー」という羊とカブとトマトの煮込み料理があるが、その料理をシェフ流に表現したのが「仔羊ソーセージ」(写真上)。フライパンでソーセージと発酵トマトを炒めてソーセージのうまみをトマトに移し、その後は炭火でソーセージを香ばしく焼いている。

さらに、付け合わせのカブの火入れが絶妙。灰焼き(灰の中で蒸し焼きにする手法)によって、中まで完全に火を通さずに焼き上げるので、カブのシャキシャキ感が残り、甘みだけが倍増する。

ソーセージは臭みの少ない仔羊肉を100%使い、パプリカパウダーとカイエンペッパーなどでスパイシーに仕上げている。

さらに刺激的な味を求めるなら、添えられている自家製青唐辛子のアリッサを試してほしい。アリッサとは北アフリカ生まれの辛み調味料のこと。青唐辛子を使うことでピリッとした辛さが増し、クセのある羊とも相性抜群だ。

飾りのように見える葉は、ナスタチウムリーフというハーブ。辛み大根のようなピリリとした辛みを持ち、口の中をリセットしてくれるため、最後まで飽きずに料理を楽しめる。

そして同店の魅力は、お酒を楽しんだあとの〆メニューにも。

「真鯛 生もずく リゾット」(写真上)は、メインでもおかしくないほど存在感のある鯛の切り身が乗った贅沢なリゾット。

魚沼産の米と雑穀米をミックスし、フュメ・ド・ポワソン(魚のだし)で炊いたリゾットには、バターやチーズが一切使われていない。雑穀米に含まれたもち米と生もずくによって、トロンとしたとろみがあり、スルスルと食べられる。炭火で焼いた鯛は、皮目がカリッとしながら、身がフワっとふっくらしている。

バターもチーズも不使用なのは、濃く煮出したセットの煎茶をかけるためだ。この煎茶をリゾットにかけると、一瞬で和の顔に変身する。

「和と洋の融合。ずっとこういうことがやりたかったんです」(黒葛原シェフ)

鯛は昆布締めして熟成させるなど、細部までの“おいしさ”にこだわる。アイデアだけでなく、食べる人を喜ばせる面白さがある黒葛原シェフの料理。多くの人を惹きつけるのも納得だ。

ワインと料理には移り変わりを。通うほどに楽しくなる

自身もお酒が大好きだというシェフ。ワインは100%自然派ワインで揃えている。

「料理も変化をテーマにしています。自然派ワインは、抜栓して一杯飲み切るまでに味が変化するものもあるので、自分の料理にも合っているんです」(黒葛原シェフ)

産地は世界各国だが、生産量の少ないものがほとんどのため、シェフも初めて出逢うワインもあるという。一期一会のワインとの出会いも『nid』の楽しみだろう。

これから秋冬にかけては、様々な根菜を使った料理が登場する予定だという。常に新しいおいしさを求めているシェフの手に掛かれば、旬の味覚もひと味違うおいしさに仕立て上がることだろう。通うほどにワクワクする発見がありそうだ。

すでに通う人も増えているとのことなので、週末は予約必須。ぜひ『bistro nid』で過ごす時間を体験してほしい。


【メニュー】
nidのパテカン 1,200円
牛トリッパ煮込み(檸檬、麹味噌) 1,550円
焼きツルムラサキサラダ(発酵ポルチーニ、ベーコン) 1,200円
仔羊ソーセージ(蕪、クスクス、青唐辛子アリッサ) 1,720円
真鯛 生もずく リゾット(魚のフュメ、煎茶) 1,800円
自然派ワイン 850円~
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税抜です

bistro nid(ビストロニド)

住所
〒152-0023 東京都目黒区八雲1-5-2
電話番号
03-6459-5572
営業時間
月~日・祝前日・祝日 ランチ12:00~15:00(L.O.・ドリンクL.O.14:00)、ディナー18:00~23:30(L.O.・ドリンクL.O.22:00)
定休日:水曜
ぐるなび
ぐるなびページhttps://r.gnavi.co.jp/86eda3my0000/
公式サイト
公式ページhttps://www.bistronid.com/

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
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