冬のジビエ「イノシシ」が木の実のように香ばしくおいしい!名シェフのワザが光る名フレンチ『ロクターヴ』

#ジビエがうまいレストラン

松本玲子

Summary
1.パリの数々の星付きレストランで修業を重ねたシェフが腕を振るうフレンチ
2.手間暇かけて完成させる「ジビエ料理」は、恍惚とさせられるほどみずみずしい味わい
3.繊細でアーティスティックな見た目のメニューは“映え”の極み

パリの名フレンチで修業を重ねたシェフの『L’Octave Hayato KOBAYASHI』

東京・北参道の裏路地にひっそりと佇むフレンチの名店『L’Octave Hayato KOBAYASHI(ロクターヴ ハヤト コバヤシ)』。

店名の「ロクターヴ」は、音楽用語のオクターヴに由来し、音の組み合わせによってさまざまなジャンルの曲が誕生するのと同様に、食材を使って自身にしか生み出せない味を奏でたいとの想いを込めたという。

シェフの小林隼人さん(写真上)は、西麻布の名店『ザ・ジョージアンクラブ』で基礎を学んだ後、帝国ホテルを経て渡仏。『Restaurant Jacques DECORE(ジャックデコレ/現Maison Decoret)』を皮切りに、『Restrant Une Table,au Sud(ユンヌ ターブル オ シュド)』、『Une Auberge en Gascogne(ユンヌ オーベルジュ アン ガスコーニュ)』、『Restaurant Mirazur(ミラジュール)』、『Flocons de Sel(フロコン ドゥ セル)』とあまたの星付きレストランで研鑽を積んできた。

北参道の地に『L’Octave Hayato KOBAYASHI』をオープンしたのは、2015年9月のこと。以来、盛り付けで遊んだり、ユニークな食材の取り合わせを試みたりすることで、お客に笑顔や驚きを与え続けている。

木の実みたいに香ばしいイノシシは、際まで均一に赤い、美しい見た目

小林シェフの手にかかると、ジビエとワインのハーモニーもひと際洗練されたものになる。

この時期のおすすめは、脂ののった柔らかな肉質のメスのイノシシ。血抜き処理が万全な富山県産のイノシシを使い、フライパンとオーブンで交互に火入れして、「イノシシの肩ロースのロースト」(写真上)を完成させていく。その回数たるやなんと10回以上。外側はフライパンでしっかり焼いて香ばしさを出しつつ、内側の赤身の美しさは均一に保たれるよう、オーブンへの短時間の出し入れの後には、肉を寝かせる時間も持っている。

完成したプレートに横たわっているのは、見惚れるほどみずみずしくしっとりした赤身肉。ナッツのような香ばしさを放つその肉は、口に含むと驚くほど柔らかくすーっと溶けていく。シンプルに塩コショウのみで焼き上げているため、肉本来の味わいが口いっぱいに広がり、うっとりした気分。骨や筋を煮出して作った「ジュ」は、“味を後押ししてくれる程度”で十分というシェフの言葉にも納得である。

付け合わせは、丁寧に火を入れた甘長シシトウ、白マイタケ、ひらたけとバターナッツのピューレ。木の実に似た芳しさを持つイノシシは、バターナッツとも相性抜群だ。

アート作品のようにいつまでも飾って眺めたくなる冷菜

もちろん、ジビエ以外の料理もメロディアスで心を打つものばかり。

まずは「信州サーモンのカクテル仕立て」(写真上)。

マリネしたサーモン、エシャレットのシズレ、バジルのみじん切り、角切りリンゴで作った“土台”を型抜きしたら、その上にマリネしたオクラをトッピング。さらに、スモークをかけたクリームをのせることで、スモークサーモンのようなニュアンスを醸し、その上に、器状に重ねたラディッシュ、クリーム、キャビア、穂紫蘇を重ね、カクテルグラスの中に夢を咲かせていく。

穂紫蘇をピンセットで花と実を上手につまみとり、交互にあしらっていく繊細な作業にはため息がもれるばかりだ。

こんなに美しい作品を崩して食べるなんて……! と躊躇してしまう人は多いに違いない。しかし、葛藤をのり越えた先には新たな夢が花開く。プリプリとした弾力が楽しいサーモンは、リンゴをブレンドしたことでヨード香が消え、うまみだけが残っているうえ、エシャロットやバジルの爽やかさも加わり絶妙な味わい。シルキーな口当たりのシャンパンなどと合わせてゆっくりと楽しみたい一品だ。

調理に使うプレートまで手作りした渾身の作品

こちらは、ジャズのように大胆なアレンジに心奪われる「アナゴとフォアグラの赤ワインベース」(写真下)。

気になるのは、プレートにしたためられた「Congre」という文字。「Congre」とは、フランス語で「アナゴ」の意。料理をプレートの隅に寄せて盛り付けすることがブームになった際、「端に寄せることに意味を持たせたい」と考えた小林シェフが、あるとき思いついたのが、プレートに文字を描くことだったという。

使用している抜き型は手作り。その抜き型を使って、ターメリック、コリアンダー、キャラウェイ、クミン、フェンネルなどがブレンドされたミックススパイス「ラス・エヌ・ハヌート」で「ongre」を描いたら、長崎県対馬産のアナゴとフォアグラで頭文字の「C」を描いて完成。「C」は、うなぎ店の「う」に着想を得たという。

アナゴは香ばしくグリルして、フォアグラは“外は香ばしく中はしっとり”させるために絶妙な塩梅で火入れ。これらふたつの食材に深みをもたらずのが、アナゴの骨を煮出して作る赤ワインベースのソース。「C」の土台が完成した後、ホワイトセロリや食用菊などで美しく飾り立てると、音楽がプレートにあふれ始める。

第一楽章・第二楽章と「C」の半分を味わい尽くしたら、残りの楽章は「ラス・エヌ・ハヌート」を加えることでよりダイナミックに味わうのが粋。シェフが作曲した名曲を、ぜひとも自分なりの味わい方で楽しんでほしい。

オリジナリティ溢れるソースは料理のおいしさを一層引き立てる

ラストに紹介するのは、「金目鯛をサフランソースで」(写真上)。低めの温度に設定したオーブンで丁寧に焼いた金目鯛の下に敷き詰めているのは、キタアカリのピューレ。ソースは、アサリと魚のだしにサフランを加え、クリームと牛乳を少量加えて熱した後、ふんわりと泡立てたもの。さらにその上から、シブレット(チャイブ)のオイルを数滴垂らすことで、見た目も香りもグレードアップ。ソース、オイル、魚、ピューレと何層にも重なるハーモニーは、スッキリとした白ワインと相性がよさそうだ。

ちなみに、同店のワインは99.9%がフランス産。現地での修業時代、さまざまな土地を回って腕を磨いたことから、土地のイメージと結びつきやすく、また、お客様にも太鼓判を押せるものが多いためだとか。グラスは赤・白常時7~8種類用意しているほか、ボトルは約100種類もオンリストしている。

「ありがたいことに、当店は若い方からご年配の方まで幅広くお越しいただいています。驚きや見た目の楽しさはもちろん、おいしさをさらに追求することで、みなさんに喜んでいただけたらうれしいですね」と小林シェフ。人を喜ばせることが大好きなシェフのオーラに導かれて、常にみんなの笑顔が宿る同店は、足を運ぶたびに幸せな気分をもたらしてくれるだろう。

【メニュー】
Menu Lucasシェフおまかせコース 12,000円
Menu L’Octaveシェフこだわりコース 15,000円
ワイン各種
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別、サービス料別途10%となります
※15,000円のコースは前日までの要予約となります。当日のご予約の場合、12,000円のコースとさせていただきます

撮影:岡崎慶嗣

L’octave Hayato kobayashi (ロクターヴ ハヤト コバヤシ)

住所
〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷3-30-9 モデリアブリュット101
電話番号
03-5770-8827
営業時間
18:00~21:00(L.O.)24:00(Close)、ランチ(土・日・祝のみ)12:00~13:00(L.O.)15:30(Close)
定休日:不定休
ぐるなび
ぐるなびページhttps://r.gnavi.co.jp/6a14g05p0000/
公式サイト
公式ページhttps://www.loctave.com/

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※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。