【青山】握り寿司+一品料理16品以上が15,000円! 行きつけにしたいカウンター鮨『すし玲』
【連載】幸食のすゝめ #111 食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。
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- Summary
- 1.カウンター鮨『すし玲』が南青山にオープン
2.一品料理8~9品+握り8〜9貫+ドリンクで15,000円!
3.“街鮨”という新しい伝統を体験しよう
幸食のすゝめ#111、鮨の彼方には幸いが住む、南青山
「実は、今日初めて回らない鮨を食べたんです。すごくおいしかったです」
満面の笑顔でそう話した20代の男性は、さっそく次の予約を取って帰った。
おいしさと接客、ペアリングされる酒や器、どの1つを取っても高級店に引けを取らないクオリティー。それでいて、会計を気にすることなく鮨のおいしさに集中できる価格設定。
『すし玲』で鮨デビューを果たした彼は、きっと一生涯に渡って鮨を愛してくれるだろう。
その日ちょうど、店に立ち寄っていたオーナーの諏訪(秀一)さんは、思わず店長の永井(玲央也)さんと微笑みあった。こんな店を作ってよかった、2人とも心の底からそう思った。
構想5年、この店が誕生するまでには、3人の男たちの夢見がちだが、しっかりと地に足を張ったストーリーがあった。
敷居の高さからの脱却
鮨は間違いなく、今世界中で注目されている和食の中でも頂点に属する料理だ。銀座を中心にして、江戸前の高級鮨は東京に点在している。その多くはコースのみで税抜20,000円から30,000円前後、飲み物をプラスすれば1人30,000円から50,000円の金額がかかってしまう。
どんなに高級だとしても、その会計を気にせず心からリラックスして鮨を楽しめるのは、ごく限られた層の人たちだけだ。
鮨という文化を世界に広く普及させるためには、まずは高過ぎる価格の設定に始まる「敷居の高さ」から脱却することが大前提だった。しかし、家賃の安さだけを求めて郊外に出店したとすれば、それはもはや高級鮨の世界観から逸脱してしまう。
鮨のカウンターは、自分がそこに座れるようになったという至福の想いが重なる時、初めて大きな意味を持つからだ。職人と対峙するカウンターは、一人前の大人への関門でもある。
店主が16年間立ち続けた銀座なら、もちろん間違いない。しかし、銀座では到底、想定した価格帯=酒のペアリング付き15,000円は実現できない。しかし、土地の格は落としたくない。その時、理想的なロケーションに物件が見つかった。
表参道からも、渋谷からも程近く、その2つの土地よりラグジュアリーな品格を持つ場所、青山骨董通りだ。
見果てぬ夢をリアルに
「オーナーっていう言葉は、あんまり使いたくないんです。あえて言うなら、プロデューサーかな!? いや、一般のお客さんの中でいちばん声が大きい客が僕なんだと思う。ここは100パーセント職人である彼の店ですから」、諏訪さんの鮨屋構想はある1人の男性との出逢いから始まった。
約9年前、東京・神楽坂で開催された「ケータリング鮨」。以前から数多くのイベントに関わっていた諏訪さんは、ケータリング鮨に興味があった。その時の主催者が故・井上修一さん、同じ名前「シュウイチ」という職人だと共通の友人から紹介され意気投合、友人になった。
英語が堪能な井上さんは、多くのイベントでケータリング寿司職人として活動するかたわら、「海外に鮨文化を広げたい」という想いから寿司マエストロと名乗り、ドバイへ講習に行ったり、海外のアートアクアリウムのブースで鮨を握ったりしていた。
その成果から、当時ミシュラン一つ星の『鮨水暉』(リッツ・カールトン京都)から、オファーが届き、料理長に就任。その後、世界中の著名人が登壇する「TED X KYOTO」のスピーカーとして、鮨を通して日本の文化を世界に広げるという彼の想い、「BEYOND SUSHI」の展望を熱く語り、大きな注目を集める。
だが、再び東京でケータリング鮨を始めるという夢を抱いたまま、交通事故で鬼籍に、見果てぬ夢だけが残された。その時、既にパートナーの人選も決まっていた、銀座『鮨辰巳』の永井さん。現『すし玲』の店長だ。
青山骨董通りの『すし玲』は、「鮨という文化を世界に」という故・井上さんの夢をリアルにするためのプロジェクト基地でもある。
日本の鮨と文化を世界に
『すし玲』の通常コースは、旬の野菜や魚介の先付け、蒸し物、焼き物などの料理が8、9品ほどに握り8〜9貫・いなり1貫、お椀、茶碗蒸しなど、その日に応じた季節の逸品が並ぶ。そこに、日本酒や各種アルコール、ソフトドリンクがコース料金に含まれてペアリングされる。
ペアリングは現在、テロワールを追求した一等級以上の山田錦を使用した姫路の「龍力(たつりき)」のバリエーション。そのほか、ビールなども金額内で頼むことができる。茶の専門家がセレクトした最高級ティーペアリングもあり、ノンアルコールにも対応。こだわりの茶を使った緑茶ハイや烏龍茶ハイなども、同価格内でオーダーが可能だ。
銀座の一流店で16年握り続けた30,000円台の腕を、会計に心を砕くことなく楽しめる幸せ。酒器は3種用意され、ガラスの薄さや飲み口の形状、サイズ感によって味の感じ方が変わるため、それぞれの酒の特徴に合わせたグラスを合わせることで、ポテンシャルを最大限に堪能することができる。食×酒×グラスのペアリングならぬトリプリングを体験できる点も、『すし玲』の魅力だ。
さらに、鮨の舞台となるゲタから一品料理に使用の皿、テーブルウエアまで、『すし玲』の想いに共感する若手クリエイターたちへオーダーメイド。併設のギャラリースペースに展示してある作品はすべて購入することができる。若手クリエイターと鮨とのマリアージュを通して、彼らの作品がより多くの人に触れる機会を創出することで、日本の「鮨と文化を世界に」広げていきたいという想いからだ。
銅と鉛、木材を基調としたインテリアにも意味がある。今後、『すし玲』から巣立った外国の職人たちが里帰りして独立した時に、いつでも世界中で再現できる内装を心がけた。
専門学校を卒業しても、チェーン展開の鮨レストランにしか門戸が開かれない外国人たちに、リアルな鮨屋での修業を可能にしたい。『すし玲』の世界構想は、今も着実に膨らみ続けている。
行きつけの鮨屋を持つという至福
「背広」という日本語の語源になった英国ロンドンのメイフェアにあるサヴィル・ロウは、最高級のスーツを仕立てることで世界に名を馳せている。お客との会話を元に、その人に特化したスーツを仕立てる技術は「ビスポーク」と呼ばれる。文字通り、お客と話しながら、身体ばかりでなく心にもフィットする、その人だけの一着を作り上げる。
近年、話題になることが多い町鮨と、高級鮨の境にあるのは、実は高級な素材や格式、店の誂えではなく、いかに個々のお客たちにフィットした鮨を握るかにあるのかもしれない。その人の好みや塩梅ばかりでなく、その日の体調にまで考慮した鮨を差し出すこと。
そのためには、まず行きつけになることが必要だが、ごく普通の庶民たちには高級鮨の常連になることは難しい。しかし、『すし玲』なら大切な記念日に、自分へのささやかなご褒美に、いいことがあった日のちょっとした贅沢に、恋人とのデートに、回を重ねて通うことができる。
長い間、銀座でカウンターに立ち続けていた永井さんは、通うごとに自分にフィットした鮨を握ってくれるはずだ。鮨屋のカウンターに座り、黙って自分の好みの肴が並ぶ喜び。行きつけの鮨屋を持つという最上級の至福も、『すし玲』なら叶いそうだ。
街鮨という新しい伝統
かつて夢の途中で天に召された先輩が提唱した「BEYOND SUSHI」、鮨の彼方にあるものを目指し続けた理想を、青山の地で継承するプロデューサーとアーティスト。肴が、鮨がうまいのは当たり前のこと、上質な接客も、自在なペアリングもあらかじめ約束されている。今までありそうでなかった空間は、高級鮨でも、町鮨でもない。いわば“街鮨”と呼ばれるべきものかもしれない。
ソフィア・コッポラの「ロスト・イン・トランスレーション」でも使用された「風を集めて」は、後に作詞家として日本の歌謡曲をアップデートした松本隆が想定した「風街」を舞台として描かれている。松本隆が生まれ育った青山を中心に、麻布、渋谷界隈の、オリンピック以前の原風景。『すし玲』の場所は、まさに風街の中心にある。
常に東京という都市の文化の先端を走り続けた街に運び込まれた、銀座という江戸前の洗練。
それは鮨という日本文化を、世界に発信するための新しい基地になるはずだ。キース・ヘリングが壁画を描き、バスキアが闊歩した街から「BEYOND SUSHI」を目指す、まだ新しい店は近い明日に街鮨という新しい伝統になるはずだ。
鮨の彼方には、幸いが住んでいる。
【メニュー】
コース/15,000円
(松茸や香箱蟹など旬の高級食材を取り入れた20,000円のコースも用意)
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。また、価格はすべて税抜です。
※営業時間や定休日についてはお電話にてご確認ください
すし玲
- 電話番号
- 03-6805-1124
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
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