あの『TACUBO』がハンバーガー屋をオープン! 余計なものは挟まない、美学の結晶『バーガーポリス』

【連載】幸食のすゝめ #112 食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

Summary
1. 代官山の人気リストランテ『TACUBO』の2号店
2. それが・・・都立大学の特別な『Burger POLICE(バーガーポリス)』
3. 新しいハンバーガーのリストランテだ!

幸食のすゝめ#112、引き算の美学には幸いが住む、都立大学

「【お詫び】すみません、ポリスのくせにいきなりルールを破ってしまいました」

目黒通りと環七通りの交差点にある碑文谷警察署隣に『Burger POLICE(バーガーポリス)』がグランドオープンした2021年2月28日のSNSに、突然、店のオーナーであり、代官山『TACUBO』のオーナーでもある田窪(大祐)シェフがコメントを寄せた。

もともと『Burger POLICE』では、自分たちのハンバーガーに5つのルールを設けていた。

1. 食材と生産者さんの想いを一緒に挟む
2 .味に直結しない余計なものは挟まない
3 .バンズが最後までサクサク
4 .食べるときに口や手が汚れない
5 .パティによってバンズを変える

ところが、プレオープン中、試作や準備を繰り返し、スタッフたちもたくさん食べ、客たちの反応を見たり、聞いたりする中で、5番目のルールに疑問を感じるようになった。
更なる検証の結果、バンズは「酒種バンズ」と「ドギーバンズ」の2種類に絞ること。ただルールを減らしただけでは情けないということで、新たな5つ目のルールが加わる。

5. ハンバーガーでみんなを幸せにする

世の中のハンバーガーの常識を変え、『ミシュランガイド』に掲載された世界初のハンバーガー屋になることを宿命づけられた、特別なハンバーガー屋『Burger POLICE』のスタートだ。

生産者たちにエールを送るために

薪火で肉を焼き、産地から届く季節の野菜を繊細に仕立てるリストランテ『TACUBO』、2017年から5年連続でミシュラン一つ星を獲得する予約困難店が2号店を出すというニュースが街を駆け巡った時、人はその店にたくさんのイメージを膨らませた。

しかし、ハンバーガー専門店という解答を見出した人はほとんど居なかったはずだ。田窪シェフは、どうしてハンバーガーという答えに行き着いたのだろう。マネージャーの松本(直樹)さんに聞いた。

「もともと田窪(シェフ)の想いは、ハンバーガー屋をやろうということではなく、コロナ禍の中で食材の行き場をなくしている生産者たちへのエールから始まったんです」

それは、2020年の4月に最初の緊急事態宣言が始まった時、自由が丘『momdo』の宮木(康彦)シェフが考えた想いと一緒だった。彼らから届く食材を通常時と同じように使い切るため、宮木シェフは家庭用のテイクアウトを始め、田窪シェフはハンバーガー屋という選択肢を選んだ。

「生産者たちとのつながり」、それはコロナ禍の時期だからこそ一層深まった認識だったのかもしれない。彼らがいるからこそ、リストランテはやっていける、その関係を守るための田窪シェフの解答はハンバーガーだった。

もちろん『TACUBO』で、一切のテイクアウトをやらなかった訳ではない。フィナンシェやボロネーゼ、田窪シェフの故郷である愛媛県今治市のB級グルメ「焼き豚たまご飯」などを出した。

しかし、それは経済上の理由ではなく、席数を減らしたせいで、食事に来られなくなった常連のお客さんたちが気軽に顔を出せるようにという想いだった。田窪シェフやスタッフたちも、同様に寂しかった。そんな中で、飲食店への卸先を失った生産者たちに少しでも助けになりたいという想いは、日ごとに強まるばかりだった。

テイクアウトの経験の中で、新しい発見もあった。1つ1,000円の商品を提供する時も、通常15,000円のコースを提供している時と、みんなのモチベーションが変わらないという事実だ。

それをきっかけに、数万円のレストランだけでなく、もう少しカジュアルな価格帯へのチャレンジ心が芽生えた。

そこに、田窪シェフの脇を固めていた金垣(友也)シェフから、ハンバーガーをやりたいというリクエストが入る。

料理人の目線で作るハンバーガー、『Burger POLICE』が始動し始めた。

食べづらさの真犯人は誰だ

本来、ハンバーガーは1つの料理として真剣に考えられたことがなかった。どうして、トマトとレタスが入っているんだろう? どうして、ケチャップやマヨネーズ、マスタードが入っているんだろう? 味自慢の焼鳥屋なら、塩だけで勝負するだろう。ステーキに定評がある店も、最小限の塩と溶かしバターくらいしか加えないはずだ。

田窪シェフとスタッフたちは、近年増えているグルメバーガーの店を何軒も食べ歩いた。そこで出会ったのは、トッピングや具材を足したり、多様なソースを重ねていく足し算のおいしさばかりだった。答えは決まった、シンプルにバンズとパティを味わう引き算のおいしさを追求しよう。

「田窪(シェフ)は、とにかく食べづらいものが嫌いなんです」、グラスワインを注ぎながら松本さんが微笑む。

「レタス? トマト? 要するに、ハンバーガーを食べづらくしている犯人は、なんとなく挟んでいる野菜系なんです。水分が出て、ベチャベチャになる。だったら、野菜は前菜として楽しんでもらおう。そうすれば、味が薄まらないのでソースも必要なく、ダイレクトにパティの旨みで勝負できる」

パティに使用されるのは、すべて黒毛和牛の経産牛だ。お母さん牛は太り過ぎると産道が狭くなり出産しずらくなってしまうため、健康的に育てられる。そのため、いわゆる霜降りではなく赤身主体の肉になる。出産という役割を終えた経産牛を、再肥育して仕上げた経産牛は、長い年月を生きたことで味わいや香りに深みがあり、おいしい。

実は、フランスで人気があるシャロレー牛も、5歳から8歳の経産牛だ。しかし、霜降り信仰の日本では市場価値が低いとされ、ペットフードや肥料に加工されることさえあった。だからこそ、同じ生産者のもとで大切に育てられた経産牛にも有終の美を飾ってほしい。

バンズはハンバーガー店御用達のベーカリー『峰屋』に特注した。日本酒の酵母を使い、外側はサクサク、中はしっとりした酒種バンズと、フランス粉の配合が多く、バゲットに近い食感のドギーバンズ。2つのバンズを、メニューによって使い分けていく。

もう1つの特徴は、ワインが楽しめるハンバーガー屋であること。素材が際立つハンバーガーの味わいには、『TACUBO』と同じように自然派ワインが寄り添うと考えたからだ。実際、フルーティでイチゴ感満載の宮崎・都農(つの)ワインのペティアン(発泡)をがぶがぶ飲みながら、赤身の肉に喰らいつく至福は初めて出会った衝撃だ。

素材が活きる6つのハンバーガー

『Burger POLICE』のフラッグシップメニューである「塩バーガー」は、経産牛のすね肉を使用。ソースではなく、塩とバターだけで肉の旨みを極限まで引き出す。野菜やソースなど、肉の味を薄める要素は一切ないため、ダイレクトに経産牛の肉の旨さがダイレクトに伝わり、メイン料理としてのハンバーガーというコンセプトが、そのまま体現されている。

田窪シェフのイメージは、「肉まん」だったと言う。肉汁を湛えた肉を蒸す代わりに焼き、皮の代わりにバンズで包み込む。「塩」には、ワンランク上の「プレミアム塩バーガー」も用意されている。こちらは、経産牛のサーロインのみを使い、注文後に手切りし、より強い旨みを引き出す。

一般的なハンバーガーのイメージに近いものは、「ザ・バーガー」。『TACUBO』特製のボロネーゼソースを使い、乾燥させたトマトとモッツァレラチーズ、埼玉県深谷市にある「田中農場」の卵でまろやかさを加える。使うバンズはドギーバンズ、バゲットに近い食感はソースを吸っても最後までサクサク感をキープする。

生産者へのエールを込めたコラボメニューは、国産の経産牛のほかにも、鮪と羊と椎茸の3 品が用意されている。

「やま幸の鮪バーガー」は、日本一の鮪仲卸「やま幸」の鮪を使ったバーガー。牛肉のように味が濃い鮪の頬肉を、軽く焼き目を付けてタルタルにし、喜界島の国産ゴマと、安曇野・藤屋わさび農園の葉わさびを合わせる。

「羊SUNRISE バーガー」は、神田『味坊』とのコラボでも知られる麻布十番『羊SUNRISE』でも使われているクセのない国産羊100%のバーガー。『羊SUNRISE』のジンギスカンタレで絡めたパテに蓮根と春菊を合わせ、アクセントには『WASA』のラー油を使う。

「王様しいたけバーガー」は、北海道「福田農園」の肉厚な特大椎茸を丸ごと焼いて、ゴルゴンゾーラとマルサラ、栗の蜂蜜、ローストしたヘーゼルナッツを合わせる。 肉は一切入っていないのに、満足感あふれる仕上がりになっている。

いくつもの楽しみに出会うバーガービストロ

和歌山で160年続く、しらす屋「山利」のしらすと焼きケールを合わせ、「田中農場」の卵で作った目玉焼きを乗せた人気No. 1の前菜をつまみながら、メインのハンバーガーを食べ、デザートまで楽しむのもいい。ここはハンバーガーをメイン料理に据えた、いわばバーガービストロだ。

リストランテそのままの食材を使った前菜は、北海道ニシンや、白アスパラ、ホタルイカなど、旬の素材が用意され、どれも素材の素晴らしさを極限まで引き出す『TACUBO』仕込みの調理が施される。時には、昼下がりから前菜と自然派ワインだけをつまみに行ってもいい。

腹をすかして『Burger POLICE』に自首し、ハンバーガーだけを頬張って帰るのもありだろう。

ここは訪れる人の数だけ楽しみ方がある、まったく新しいハンバーガーのリストランテだ。あらゆる肉好きは、戸惑うことなく1日も早い出頭をおすすめしたい。そこには、シェフだからこそ作り得た引き算の美学の結晶である、ハンバーガーの未来が待っているから…。

引き算の美学には、幸いが住んでいる。

【メニュー】
塩バーガー 1,980円
プレミアム塩バーガー 3,190円
ザ・バーガー 2,640円
やま幸の鮪バーガー 1,980円
羊SUNRISE バーガー 1,980円
王様しいたけバーガー 1,540円

焼きケールと山利のしらす 田中農場の目玉焼き 1,320円
ホタルイカと春キャベツ アンチョビソース 1,320円
野生ルッコラのサラダ 880円)
信州サーモンとハニーライムのカルパッチョ仕立て 1,540円
マッシュルームのポタージュ 1,100円
砂肝のコンフィ 黒胡椒にんにくソース 1,100円
トリッパのトマト煮込み 1,540円

グラスワイン 990円〜
太子ブルワリー(ピルスナー) 880円 
バラデンロックンロール(米ペールエール) 990円
伊良コーラ 880円
自家製レモンスカッシュ 880円

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。また価格はすべて税込です。

Burger POLICE (バーガーポリス)

住所
〒152-0003 東京都目黒区碑文谷4-24-16 1F
電話番号
03-6303-1104
営業時間
11:30 ~14:30(L.O.)、17:00~22:00(L.O.) ※現在はコロナ対策で11:30〜19:30(L.O.)の通し営業
定休日:無休・不定休
ぐるなび
ぐるなびページhttps://r.gnavi.co.jp/7j6efh320000/

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。