人形町のフレンチ『ars(アルス)』はグルメたちになぜ「今日も行こう」と言わしめるのか?
“35歳でオーナーシェフに”と、掲げた目標に向かって着々と実力をつけてきた高木和也シェフが最旬グルメタウン人形町エリアにとうとう自身の店をオープンした。それがフレンチ『ars(アルス)』だ。4席のカウンターはすでに予約1カ月半待ち、早い時間はテーブル席もほぼ満席という。またひとつ、スゴイ店が誕生した!
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食の最注目エリア「人形町」に4月に誕生した店が早くも予約困難店に!
ここ数年、名店で修業した実力派のシェフが次々と開店し、いまグルメたちから最も注目を集めているエリア・人形町。
そこにまたあっという間に予約困難となるであろう店『ars(アルス)』をオープンしたのは、常に目標を持ち有言実行してきた高木和也さんだ。
20歳で料理の道に入り、まずは30歳でシェフになるという目標を、『シェラトンホテル東京』、『オザミトーキョー』、『オレキス』、『レフェルヴェソンス』、『ラ フィネス』と錚々たる名店で研鑽を積み、『レストラン エレネスク』で実現したのだ。
その後も『キャリエ』、『レヴォル』でシェフを勤め、次に掲げた35歳でオーナーシェフになるという目標を人形町『ars』で叶えたのである。
その夢のためにレストランの様々な業態で前菜からデザートまですべてのポジションを経験し、足りなかった経営面は1年半ほどコンサルタント業に携わることで習得。2021年4月6日、名実ともにオーナーシェフとなる。
人形町という場所を選んだのは偶然だった。
シェフとして携わっていた店のある港区界隈のほうが馴染みのお客が多いのだが、コロナ禍で打撃を受けている都心は集客のリスクが大きいと考え範囲を広げたところ、この場所に出逢ったという。
コンセプトは“心地の良いチグハグ”。濃茶の扉にガラス窓の外観から予想を反した内観は、和柄の壁があるかと思えばテーブルは石でカウンターは木の一枚板。全体の色調も統一されておらず、照明のペンダントライトですら形も高さもバラバラだ。
店の象徴であるロゴのフォントも異なり、“a”に至っては寝転んでしまっている。しかし不思議と違和感はなく、その世界観にハマってしまうのだ。
“チグハグ”なのは空間だけではない。
カウンターがコース料理でテーブル席がアラカルトの提供なのだがイメージ的には逆であろう。
「クローズドキッチンで誰がどうやって作っているのかわからず、サービスが運び最後にシェフが挨拶するという流れがずっと腑に落ちなかった。オープンキッチンにすることで安心していただけるはず」と高木シェフは話す。
「それに僕はお客さまが食べる瞬間にいちばんおいしいと感じる火入れをします。テーブル席は料理を運ぶ時間や、写真を撮られたりする間にどんどん火が入ってしまうので、その“瞬間”を味わえるカウンターはこの店の特等席なのです」とも。
確かに目の前で繰り広げられる料理風景を楽しめるのはカウンターの特権だ。
伝統料理に新たな感性をまとわせる!
さて、料理の話をしよう。高木さんと言えば『キャリエ』時代からスペシャリテとなったこの「パイ包み焼き」。クラシックなフランス料理であるがゆえに実力が問われるひと皿だ。
パイ生地はサクサク、中のファルスはしっとり、格別なのはそのファルスと接している1層のパイ生地だ。ここに高木さんの“こだわりの火入れ”がある。
「ファルスのキュイソン(火加減)と、ファルスと接しているパイが生焼けのようになっているのが嫌だったのです。パイ包みに定評のある店はほとんど行って食べてみましたが、どこもファルスのしっとり感を取るか、パイのサクサク感を取るかのどちらか。僕はしっとりでサクサクを目指して研究に研究を重ねた結果、ファルスによってスタート時の芯温を変えて、パイ生地の焼き時間をじっくり取ることにしました。この方法でどんなファルスでも“しっとりサクサク“に焼けるようになったのです」
そうやって焼き切ったパイ生地はファルスとの境までサクサク、オマールとホタテのしっとりときめ細やかなテクスチャーのムースからは時折、ミンチにしたオマール海老が舌を楽しませ、オマールのガラで取ったビスクソースは香りも濃厚さも卓越した味わい。
さすが、スペシャリテである。パイの焼き方、ファルスの焼き方、パイとファルスとの一体感は他と一線を画す。
緻密な計算ゆえの一体感
アラカルトメニューの「牛タンのグリエ」は鶏出汁のうまみを含ませた和牛のタンを香ばしく焼き、酸味のあるラビゴットソースをかけたビストロの鉄板料理だ。
サクサクとした牛タン特有の歯切れのよさをしっかり感じながらも肉質はやわらかく、上質な脂とソースの酸味のハーモニーは喉を通るまでの時間が愛おしくなるほどの幸福感を味わえる。
こちらもスペシャリテの「フォアグラ」。時間と手間を通常の3倍かけて余分な脂と臭みを一切捨て去る調理法により、本来なら濃厚さが“売り”である「フォアグラ」に“軽さ”を追求した。
この皿はほかに、「菊芋のピューレ」、「パン・デピスのメレンゲ」、「さくらんぼ」、「セルフィーユ」がそれぞれ味の役割を持ち、一体になることで五味が完成される。だからこその軽さなのだ。
コース料理は9品で最大4人分を作りながら、4つあるテーブル席から50種類ものアラカルトからオーダーを受けることになる。
さらにドリンクも作りワインも抜栓しなければならないのにスタッフと2人だけでさばけるのかと心配になるが、「あらゆる業態での経験の賜物です。同じ料理でもビストロ、ホテル、グランメゾンとでは工程も保存方法も違います。それを学んできたからできるのです」と高木さん。
名店での修業から生まれた“心地良いチグハグ”
ワインはナチュールとクラシックを混ぜている。国にこだわりはないが、すべて高木さん自身が飲んでみて料理との相性を考えたものをセレクトしている。
価格は5,000円台から40,000円台とこちらもなかなかの“チグハグ”加減。カウンターとテーブル席では価格帯が異なるのも斬新だ。
(※お酒の提供については国や自治体の要請に準じています)
名店での経験を存分に活かしたメニューには「牡蠣とジャガイモのチーズグラタン」、「ブッフブルギニョン」のような伝統料理から、自家製XO醬をのせた「豆乳のブランマンジェ」や、こぶみかんの香りを纏わせた「ラタトゥイユ」などの新感覚料理まで縦横無尽。
見た目はシンプルでわかりやすいが、味は想像を超えてくる高木さんの“心地よいチグハグ”な料理に誰もが夢中になるのも納得だ。
「次なる目標は37歳でもう1店舗、40歳で4~5席の小さいレストランをオープンします。そこは僕の知り合いだけ、しかも原価率70%くらいかけて作りたい料理を出す店です」。
まだまだ続く高木さんの夢が叶うのを見届けたいと思わせる、未来へ続く店だ。
撮影:佐々木雅久
【メニュー】
ムニュ・デギュシュタシオン 5,500円
ムニュ・スーヴニール 11,000円
牛タングリエ ソースラヴィゴット 1,980円
ランチ(サラダ・前菜3種・メイン・コーヒーor紅茶) 1,280円〜
ワイン グラス980円〜
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。また、価格はすべて税込みです。
ars(アルス)
- 電話番号
- 03-6810-9610
- 営業時間
-
火〜木 11:00〜15:00(L.O.14:00)、月〜土 18:00〜21:00(料理L.O/ドリンクは~22:00L.O.)
定休日:日曜・祝日
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
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