Philippe Jambon Bruyere Sur La Roche Noire(フィリップ・ジャンボン ブリュイエール・シュール・ラ・ロッシュ・ノワール)
日本橋蛎殻町「ラ・ピヨッシュ」の林真也さんに続いて2杯めのワインを紹介してくれるのは、西荻窪の予約困難な人気店「organ」店主の紺野真さん。
彼が紹介してくれるのは、個人的にもファンで何度かワイナリーにも訪れたことがあるという、ボージョレー地方の造り手フィリップ・ジャンボンだ。
スイス・ローザンヌ近郊で20世紀最高の料理人の一人と言われるフレディ・ジラルデ氏率いる「ジラルデ」でソムリエの職にあった人物である。
<紺野さん>
多くのワイナリーの場合、秋に新しい葡萄が収穫される前までに、前年のワインを瓶詰めして、新たに運ばれてくる葡萄のためのスペースを確保する、つまり1年以内にワインを完成させるというのが、基本的なサイクルなんですが、このフィリップ・ジャンボンという生産者にはこのサイクルはあてはまりません。
彼のワインは発酵から熟成を経て、ワインが瓶に詰められるまでに、長い時には7〜10年もの歳月を必要とします。
彼の理論では、熟成中のワイン樽の中では、満月を迎えるたびに澱が舞い上がり、舞い上がった澱はまた静かに沈んでいくのだけれど、一部はエネルギーとなってワインに溶け込んでいくのだそうです。だから彼は満月を待っているんです。満月を迎える度にエネルギーが少しずつワインに加わっていく。フィリップはワインにエネルギーが完全に満ちたと感じるまで、瓶詰めをせずに待ち続けます。
そんな造り方をするので、フィリップ・ジャンボンのワインは、ヌーヴォー的な位置づけのワインで3年、時には10年もの熟成を経て瓶詰めされるんです。
そうして長い時間をかけて出来た彼のワインには、理屈ではない圧倒的な存在感を感じます。
そんな規格外の造りをしているから、彼自身の生活は決して楽ではないと思います。だって最低でも3年たたないと収入が見込めないんですから。それでも決して自分の信念を曲げずに一切の妥協をしない所が、彼のワインには熱狂的な信者が多い所以かと思います。
彼の持つ畑にロッシュ・ノワールと名付けられた畑があります。フランス語で「黒い岩」という意味を持つその畑は、鬱蒼とした山の中に突然現れる、まるで秘密にしてきた神聖な場所のような雰囲気を持っています。
マンガンを多く含み、その成分が酸化することで黒くなった岩で、ここでは非常にミネラル感のあるガメイが作られてきて、僕もそのロッシュ・ノワールという同名のワインが大好きでした。
今回あけさせていただいたブリュイエー ル・シュール・ラ・ロッシュ・ノワールは、2011年のロッシュ・ノワールになんと2004年のグラン・ブリュイエールという畑の遅詰みのシャルドネを混ぜたものです。
そもそも遅詰みで糖度が高い葡萄を、フィルターもかけず酸化防止剤も加えないで10年という長期間に渡り発酵熟成させるなんて事が普通ではないのに、その長期熟成甘口の白を赤ワインに加えてまとめるという発想。フィリップはやはり一般的な常識が当てはまらない生産者ですね。
このワインを飲むと、ロッシュ・ノワールの畑がの様子が最初に脳裏に浮かびます。
夜に来たらきっと不安になるだろうな思う位、鬱蒼と茂った湿った小道。周囲からは鳥や動物の鳴き声が聞こえる。。
正にそんな雰囲気をこのワイン自体も持っています。トーンがやや低めの湿った枯葉のような、森の中の空気をかいでいるようなニュアンスです。強固な長い余韻を残す感じは、あの独特な中身の黒い石から来るんでしょうね。
元々ロッシュ・ノワールは内向的で、時にその頑強なミネラルがほどけてくるまで、相当な時間がかかるワインという印象だったんですが、このブリュイエール・シュール・ラ・ロッシュ・ノワールは
ちょっとまた様子が違います。
ロッシュ・ノワール単体の屈強で引き締まった印象だけでなく、そこにふんわりとした柔らかさや厚みが加わっています。完熟したイチジクやレーズンを思わせるような甘みも感じるようになってます。
これはグラン・ブリュイエールの遅詰みが与えているんでしょうか。
以前とはまた違った果実味の豊かさを感じます。
Vin de france(ヴァンド・フランス)でありながらも、理想のワイン造りを追求する姿勢。そして絶対的にナチュラルなワイン。
彼のワイナリーを訪問した時、水でグラスをリンスしようとした僕に「水道の水はナチュラルじゃないからだめだよ。」と言ったフィリップ。
彼のワインは全てのキュベにおいて、一切の添加物を否定しています。
彼のワインの輸入量は決して多くはありませんが、もし出会える機会がありましたら是非飲んでみてください。
そしてナチュラルなワインを作るという信念と、そこから生まれた“自由”を感じてください。