9月1日 一軒目「夏の終わり」
夏が始まったような、終わりがあった。
「真夏に思いついたんですが、8月だというのに、すっかり寒くなっちゃって」。そう言って田窪シェフは、苦笑いをした。
冷たいカッペリーニを食べれば、ドライトマトフォンのうま味にレモングラスの香りが精妙にからみあう。
きゅうりの爽やかさに、甘エビのほのかな甘みもそこで息づくが、なによりモロヘイヤのねっとりした食感が、舌を包んでフォンを深く味わせる。
冷たいだけではなく、その味わいが涼やかな風を口中に運ぶ。
食べていると、遠雷が遠くに聞こえ、セミの合唱に包まれた。
「フォークではなく箸で、すすって音を立てながら食べたら美味しいだろうなあ」。
そんなわがままを言うと「来年の夏には、このパスタ用のそば猪口みたいな深い皿買おうと持っています」そう言ってシェフは、嬉しそうに笑った。
<料理>
ランチ:前日までの予約で7皿6,500円(別途コペルト500円)のおまかせコース
ディナー:完全おまかせコースのみ9,500(食材によって価格は若干変動する場合あり)
Aria di Tacubo(アーリア ディ タクボ)
- 電話番号
- 03-3496-5050
- 営業時間
- 12:00~L.O.13:30、18:00~L.O.21:00
- 定休日
- 定休日 木曜
- 公式サイト
- http://tacubo.com/
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
9月1日 二軒目「史上最大の辛さ?」
夏の終わりは辛い。
四川ではそんな決め事があるのだろうか。
とにかくこの夜は、趙楊史上、最大の辛さ攻撃であった。
豆腐を模した、鶏のささみと卵白のスープの癒しの味わいは、辛味構成の唯一の安息地だったとは誰も知らない。
一人でこれだけの鹿のアキレス腱を食べたのは初めてだとはしゃいでいる場合ではない。
アキレス腱のほのかな甘みに強烈なる辛味としびれが絡まっているのだから、たまりません。
下にしかれた空心菜も消火にはならず、口に花火が上がります。
さらには、牛タン、ナマコ、烏骨鶏の、食感の異なる三鮮にゴーヤを加えて煮込みも、口の中でキックする。
辛味に苦味が入った魔界の魅力ではありますが、じわじわと口腔をいじめ、汗腺、涙腺から体の水分が放出するのでありました。
堂々たるすっぽんの煮込みは辛くないだろうと箸をつけたら、青唐辛子がたんまりと入って、またすっぽんのコラーゲンの甘みを鼓舞しながら、口の中を混乱させ、涅槃へと運ぶのであります。
また豆腐料理は辛くないだろうと思いきや、ここにも青唐辛子が活躍し、豆腐の甘さがカーブして僕らをいたぶるのです。
唯一アヒルの古代風揚げ物は、辛さとは無縁で、味付けて一時間蒸してから、くるみとクワイを挟んで揚げたという、これまた様々な食感に翻弄される料理ではありましたが、辛いの食べ続けた舌には、熱々が熱い。
ところがどうでしょう。
朝起きたら、体の調子がすべていいのです。
お父さんが薬膳師で、小さい頃から薬膳に精通していた趙楊さん、辛味に隠した薬効だったのですね。
<料理>
コース5,400円(税込)~
四川料理 趙楊
- 電話番号
- 03-3289-2006
- 営業時間
- 17:30~22:00、土・祝17:00~21:00
- 定休日
- 定休日 日曜
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9月2日「ツバスの美しさ、マコガレイのしたたかさ 」
清楚で、さらりとしていていながら色気がある。でも男なら、誰もが落とされてしまいそうな、わかりやすい色気ではない。
その手前の、成熟せんとする勢いが、色気となってにじみ出ている。人も、大人になる直前の不安定が一番美しいのではないだろうか。
未完の色気ほど、人を惑わすものはない。
この夜のツバスがまさにそれであった。
銀座「智映」では、焼きなすと合わせた。
塩でまぶされたツバスに歯が入っていく。
ツバスの甘みと微かな酸味がにじみ出る。幼い、伸び盛りの凛々しい脂が舌に広がって、香りが鼻に抜ける。それはブリのぼうっとした香りではない爽やかさがあって、食べる我々を溌剌たる気分にさせてくれる。
ナスの甘みが、ツバスを持ち上げる。
ナスの香りが、ツバスを自然に戻す。
二つの抱擁が、じっとりと夜を深くしていく。
マコガレイは、人を馬鹿にしているのかもしれない。
いや正確に言えば、馬鹿にしているのではなく、人間の叡智の及ばぬ場所にいる。
この「智映」でそう思った。
明石浦漁港の通称アマガレイは、身を黄色に染め、切る前から人間を惑わしてくる。
白き、透き通った切り身を噛めば、ほわんと甘みが広がり、さらに噛めば、噛めば、ああ。どうしたことだろう。
たくましい滋味が湧き出て、さらなる高みへと登っていくではないか。
口からいなくなっても、うま味の余韻が消えることがない。
食べた後、10分も20分も続くのである。
そこにぬる燗を流し込めば、再び旨みが膨らむ。
最初に圧倒して消えていく、ヒラメとは違う、したたかさがある。
神秘がある。
食べる我々の度量を図る、命の貴さがある。
割烹 智映
- 電話番号
- 050-5788-0661
- 営業時間
- 営業時間 18:00~23:00
- 定休日
- 定休日 土・ 日・ 祝
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9月3日「小倉ラーメン、とは」
小倉ラーメンの違いby東洋軒
今さらながら皆さんには常識かもしれないですが、生まれてはじめていただいたので、メモ変わりに。
① スープは、博多より(といっても今はいろいろあるけどね)こってり、
かなり豚骨臭
② 麺は細麺ながら博多より太くモチッよね。
③ ゴマはかけないし、ない。
④ 木耳入らない
⑤ 最初から紅生姜入り。卓上に紅生姜あるが、ダレも追加しようとしない。
⑥ 常連の注文は、大盛り固めか、ラーメンにおにぎり(二個)が普通。
女性でも。それにゆで卵。
⑦ 小学2年生4年生、30代母親の親子連れは、皆大盛りで、全員ぺろり
⑧ 推定70代のおばあちゃんから小学1年生まで、客層幅広い。
⑨ 卓上には、食卓塩、胡椒、辛みそ、にんにく、紅生姜とあるが、胡椒以
外は、後から追加しない客がほとんど。
⑩ ワンタンがある。
⑪ 替え玉がない。あるのかもしれないが、誰もやっておらず、メニューにも見当たらない。
<メニュー>
ラーメン700円、ワンタン700円、チャーシューメン1,050円(すべて税込)
東洋軒
- 電話番号
- 093-931-0095
- 営業時間
- 11:00~16:00(閉店)、17:00~21:00(閉店)
- 定休日
- 定休日 水曜(盆時期休、年末年始休)
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
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9月4日「一ミリの狂いもない味の均整」
静かなリゾットである。
口に入れた途端、心が押し黙る。
さざ波が消えて、安寧な気分になる。
まず、赤玉ねぎのジャムのふっくらとした甘みがやってくる。
そしてパルミジャーノの塩気とうま味が広がり、バルサミコの酸が漂う。
甘味、塩気、うま味、酸味。どれもが突出することなく、見事なバランスで佇んでいる。
その均整が美しい。限りなく美しい。
美しさが、幸せのため息をつかせる。
いたってシンプルなリゾットであるが、この一ミリの狂いもない味の均整は、我々には到底できないと思う。
「酸味は味わいに色彩を加える、重要な要素だと思っています」。そう宮根シェフは語った。
代々木公園「オストゥ」の「熟成カルナローリ米を使ったヴェルジェーゼ風リゾット」。
100年間に、ニーノ・ヴェルジェーゼというシェフが作ったレシピで、シェフがバローロで働いていた時代に、何度も作ったというスペシャリテである。
その料理は、質素であるということが、いかに豊かさをもたらすかということを、教えてくれる。
<メニュー>
熟成カルナローリ米を使ったヴェルジェーゼ風リゾット 1,800円
今月のおまかせコース7,500円、ピエモンテ郷土料理コース7,500円~(すべて税込)
Ostu オストゥ
- 電話番号
- 03-5454-8700
- 営業時間
- 12:00~14:30 (L.O.13:00)、18:00~23:00 (L.O.21:00)、木曜18:00~23:00 (L.O.21:00)
- 定休日
- 定休日 水曜
- 公式サイト
- http://www.ostu.jp/
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
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