9月26日「都会では味わえない」
パチン、パチンッ。
どん栗が地に落ち、割れる音が響く。
澄んだ風が頬を撫でる。
木々の香りが、鼻腔をくすぐる。
緑と青空が眼前に広がる。
肌で季節を感じながらいただく料理は、感謝の念を深くする。
「今日は昨日より寒いから、昨日とは違う調えをしようと、我々も、肌で感じながら料理をさせていただいております」。
目で楽しみ、舌で味わう、日本料理の両徳を膨らます徳がここにはある。
無機物に囲われた都会では味わえない、幸せがここにある。
軽井沢招福楼にて。
桂乃茶や 招福楼軽井沢店 <8~9月夏季限定>
- 電話番号
- 0267-42-9805
- 営業時間
- 11:30~15:00、17:00~21:30
- 定休日
- 定休日 不定休、要予約 ※夏季限定:本記事に掲載された情報は、来店日時点のものです。
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
9月27日「あのレバーではない」
そのレバーは、清く、澄んだ味がした。
ぐっと歯が入ると、甘みがそっとこぼれる。
微かな微かな鉄分を感じさせながらも、加熱されているのに、微塵も雑味がない。
血の匂いがない。
レバーを食べて、気持ちが猛々しくなっていく気配がない。
バターのコクとセージの香りに包まれながら、純な甘みだけが、舌にゆるゆる広がっていく。
甘みの余韻がいつまでも続いて、心を溶かしてしまう。
「僕は永遠に旅たつね」。子供の鹿がそう語りかけた。
食べていいのかと、誰かが頭の中で囁く。
いけないものを食べてしまったような、後ろめたさと、命への深い感謝が去来する。
仔鹿のレバー。
スープなのに、噛んでいた。
肉を頬張り、食らっていた。
うさぎ二羽半と野菜を、弱火で4時間煮たスープである。
塩と水だけで、イタリア産のうさぎのエキスを抽出していく。
急がず慌てず、じとじとと。
ゆっくりと溶け出した味には、無理がない。
肉や骨に眠っていた養分が、いつのまにか水に溶け込んでいく。
きっとうさぎは、知らず知らずのうちに、自らの養分を投げ出したのだろう。
高山シェフは、4時間経ち、すべてを引き出せた、その頂点を見極めて火を止め、すぐさま器に盛る。
一口目は、優しく思いやりを込めた火加減ゆえの、安寧な味わいである。
しかしその安寧な奥底から、うさぎの滋味が顔を出す。
まるでうさぎを手で持ち、かじりついたような味わいが、口の中を満たす。
野を駆け巡るうさぎが、舌の上で身悶える。
どこまでも優しく、どこまでも凛々しい。
そしてどこまでも、慈しみ深い。
野生とは、自然とは、そういうものだ。
メゼババ
- 電話番号
- 03-3636-5550
- 営業時間
- 17:00~翌2:00
- 定休日
- 定休日 不定休
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10月3日一軒目「ラーメンとうどんの間」
「よしなら、メニューにはないけど、どこでも食べたことない奴作ったる」。そういってヨコジイは動き出した.
飲んだ後に肉はいらんやろ。うどんにしよかと思っても、ラーメンも食べたい。これはラーメンとうどんの中間なんや」。
二口食べて「おれはうまい。初めて食べる組み合わせや」というと、ヨコジイは、子供のような顔になって、嬉しそうに笑った。
蒲鉾とちくわに天かす、そして鶏肉に細めん。
透き通ったスープが優しく、アルコールを中和させながら胃袋に消えていく。
高知の「よこじい」。高知の可愛い不良じいさんの店にて。
餃子家よこじい
- 電話番号
- 088-873-1678
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10月3日二軒目「これも“新子”」
年の頃なら、16歳くらいだろうか。
若々しさに満ちた味には、恥じらいがあって、それが舌を焦らす。
噛めば、微かにモチッと歯の間で弾み、まだ色気はないが、これから伸びようとする命の息吹が溢れ出る。
その切なさがいい。
一瞬を切り取った、いたいけな刹那がいい。
仏手柑の皮の香りが、その切なさに優しく寄り添って、命をいただくありがたさを膨らます。
この時期にしかない「新子」、ソウダガツオの子供である。
もはやその姿は、凛として、手をつけるのをためらうほど神々しい。
冬を迎えて脂を溜め込む前であるこの時期のカツオは、色気と潔さが入り交じった、自然の不思議を抱えている。
この上なく新鮮で、噛めばねっちりと舌にしなだれ、品のある脂の甘みの奥に、ひっそりとたくましい鉄分が眠っている。
一片の刺身が、意志を持ったかのように崩れていき、僕はカツオとディープキスをしている錯覚に陥って、溶けてしまった。
高知「ゆう喜屋」にて。
ゆう喜屋
- 営業時間
- 088-873-0388
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10月3日三軒目「ねっとりシャコ」
初めてお目見えした、香港のシャコである.
「風沙頼尿蝦」。香港風スパイス揚げにしていただいた。
その味わいはシャコではない。みっちりとオレンジ色の卵が詰まったその味わいは、渡蟹のように甘い。
いや、渡蟹のようなねっとりとした甘みがある。
これは人を虜にするわけだな。
赤坂璃宮
- 電話番号
- 050-3491-0761
- 営業時間
- 月~土 ランチ:11:30~15:00(L.O.15:00) 日・祝日 11:30~16:00(L.O.16:00) 月~土 ディナー:17:30~22:00(L.O.22:00) 日・祝日 16:00~20:30(L.O.20:30)
- 定休日
- 年中無休 ※(年末年始を除く)
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