幻の鶏唐揚げのレシピを継承し、芋焼酎は都内一の質を誇る隠れ家

【連載】幸食のすゝめ #005  食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

2015年11月16日
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幻の鶏唐揚げのレシピを継承し、芋焼酎は都内一の質を誇る隠れ家
Summary
・大井町と青物横丁の中間点にある隠れ家
・ひな鳥を使った料理が秀逸
・芋焼酎好きも目が離せない店

幸食のすゝめ#005 すっぴんの鶏には幸いが住む、南品川。

幸せの真ん中で、人はしばしば無口になる。静かに寄り添う恋人たちを見て、2人の仲を疑う者はいないだろう。親にねだったフライドチキンに喰らいつく、育ち盛りの子どもたちも同じだ。これからしばらくの間、いつものお喋りをやめて、彼らは沈黙の中にいるだろう。美味しいものに被りつき、口いっぱいに頬張るという至福。その筆頭は、間違いなくカラリと揚がった鶏だろう。河豚のガラ焼きはなかなか有り付けるものではないし、漫画で憧れたギャートルズの肉塊にはもっと出逢えない。

フライドチキンは元来、最も有名なソウルフードだ。年末にサンタのコスプレをしたり、阪神が負けると川に投げ込まれる恰幅のいい白人の姿から想像もできないが、元々は貧しい黒人たちの知恵と工夫の賜物だった。農場主たちが食べずに捨ててしまう、手羽や、モミジ、頸肉などを、じっくりと揚げて食べやすくする。日本でも、北海道や九州など、血気盛んな男たちが活躍した地方には、必ず名物の唐揚げがある。そして、餃子と町工場と撮影所の街、蒲田にも、ご当地唐揚げが存在する。

芋焼酎の名酒『八幡』で知られる鹿児島県川辺市で育った薗田さんが、初めて未知の鶏料理に会ったのは自由が丘だった。通常の唐揚げが、大蒜や生姜、醤油、カレー、味醂、はたまたバターミルクと、下味や衣に趣向を凝らすのに反して、出てきた料理はただ塩を振っただけの「素揚げ」。黒豚と薩摩地鶏のメッカ鹿児島であらゆる鶏料理に慣れ親しんだはずの舌に、目の前に放り出されたすっぴんの鶏は忘れ得ぬ強烈なインパクトを与えた。その日から、彼は鶏の素揚げの求道者になる。

鶏の素揚げで結ばれた友情

しかし、やっと辿り着いたルーツ、蒲田の「なか川」は地上げの嵐の中で既に閉店。失意の中、常連客の一人が伝説の素揚げを伝えようと決意、亡夫の味を継ぐ女将の薫陶も受けながら試行錯誤を繰り返し、蒲田で開店したと聞く。店名は「うえ山」、当時、焼酎専門店を仕切っていた薗田さんはその味に惚れ込み、連日の蒲田通い。そんな中、素揚げへの熱い思いで結ばれた男たちに新たな伝説が生まれる。熱意に打たれた店主が、レシピから材料の細かな入手先に至るまで、学んだもののすべてを「そのだ」に伝授。かくして、素揚げの正統は蒲田のほど近く南品川で継承されることになった。

都内随一の芋焼酎パラダイス

専門店出身ならではの芋焼酎ラインナップは、都内一のクオリティ。数ではなく質、いずれ劣らぬ名酒がリーズナブルに味わえる。

サイドメニューも見逃せない。絹ごしを一丁揚げた絹揚げは、外はカリカリ、中は限りなくクリーミー。揚げ立ての至福が、口一杯に広がる。

その都度、丁寧に仕上げるポテトサラダも、鹿児島人ならではのニガゴリ(ゴーヤ)のおひたしも、口当たりと食感が絶妙。現地から取り寄せた地鶏の刺身も、鶏本来の旨味に満ち溢れている。そして、いよいよ真打ち、鶏素揚げの登場だ。

肝を抜いた丸々一羽分の鶏を背骨を真ん中に、左右半分に切り分け、さらに上半身と下半身に分ける。つまり、ムネには通常の手羽の部分が含まれ、モモにはフライドチキンの主役の部分が相当。両方を食べれば、鶏を半羽分味わうことになる。さっぱリとしながら、鶏の滋味に満ちたムネ。脂がのり、こってりとした肉々しさが旨いモモ。ただ岩塩を振っただけ、鶏本来の美味しさを無我夢中で頬張れる幸せが、「そのだ」の店内いっぱいに広がっている。すっぴんの鶏には、幸いが住んでいる。

<メニュー>
ひな鶏素揚げ(半羽分)1,480円、絹揚げ580円、ポテトサラダ500円、芋焼酎600円~、予算3,000円~4,000円

※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。

※森一起さんのスペシャルな記事『幸食秘宝館・武蔵小山、グルメランキング上位には載らないホントウの名店3軒を巡る』はこちら

ひな鳥そのだ

住所
〒140-0004 東京都品川区南品川5-14-11
電話番号
03-3471-2322
営業時間
17:00~24:00、土・日・祝17:00~23:00
定休日
不定休(Facebook上で定休日更新中)
ぐるなび
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公式サイト
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