続・コナもん考。うどんを「コナもん」と呼ぶリアリティのなさ。

【連載】正しい店とのつきあい方。  店や街とのつきあい方がわからない人が増えている。初めてなのに常連と同じように扱われないと怒る人や金さえ払えば何でもしてくれると思う人。お客様は神様、などではない。客としてのあり方を街と店に深い考察を持つ江弘毅氏が語る。

2015年11月19日
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コラム
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続・コナもん考。うどんを「コナもん」と呼ぶリアリティのなさ。
Summary
・うどんは「コナもん」にあらず
・ダシが旨いうどん屋は丼も小皿も秀逸
・北新地で舌の肥えた客をうならせる名店

そもそも「コナもん」とはなにか?

もう5年ぐらい前のことであるが、東京のあるグルメ誌から関西餃子考として、「餃子はコナもんか?」という原稿の依頼があった。
わたしは正直、困惑した。というのもそもそも「コナもん」というのが何を指すのかがはっきりしないからだ。

餃子がそうやったらクレープはどやねん、チープな粉な感じなら鯛焼きはコナもんちゃうんかとか、ドーナツはどやねん、いやアレは「揚げもんや」とか、皆で盛り上がった。
その意味ではキャッチーなカテゴライズ名だと思う。

お好み焼きやたこ焼き、大阪の下町特有のいか焼きは確かに小麦粉を溶いて焼く食べ物だから「コナもん的」かも知れないが、お好み焼き屋で食べる焼きそばや明石焼きはそうとは思えないし、うどんまで一緒くたにカテゴライズする情報誌などの誌面を見るたびに、それは違うんじゃないか、と思ったりしていた。

(11月6日掲載「コナもん」と言う言葉遣いのなさけなさについて。

街の暮らしとメディア用語の乖離からくる違和感

そういうことをマクラに、2千字くらいの関西餃子考を書いたのだが、ちょうど地元大阪の雑誌出版社の後輩から、『京阪神のこなもん』というタイトルの別冊特集を出したのだがハズしてしまった、という声を聞いた。

その出版社では『めんライフ』そして『肉本』の別冊も刊行しているが、お好み焼きやたこ焼きなど、最も京阪神の地元的なアイテムを集大成した『こなもん』が一番売れなかったという。
長く地元誌をやっているわたしと何冊も別冊を編集してきた後輩は即座に得心した。
「コナもん」というのは、街場の言葉ではないからだ。

「それら」を総称しての「コナもん」という言い方は「イタメシ」とかと同様に、ここ15年くらいの用語で、情報誌やバラエティ番組の「メディア語」であるからだ。
「広告コピー的表現」と言い換えてもいい。

わたしはずっと大阪の街場で育ち、今も街と差し向かいの仕事をしているのであるが、まわりで「コナもん、食べに行こか」といった言い方を聞いたことがない。

実際に話される実生活レベルの「街場の言葉」と、「消費にアクセスするため」だけの「情報カタログ」である情報誌や、「エンタメ情報」のバラエティ番組の、一見分かりやすくてどこか多幸的な「消費の言葉」は、どんどん乖離してきている。

消費経済軸の「コナもん」という言葉の「消費期限」は過ぎゆくが、街場のお好み焼きやたこ焼きは消費されてしまうことに抗う。ずっと同じものをつくって出している商売だから、飽きられてしまうと店が潰れてしまうからだ。
街場の店の当然の原理である。

うどんは、ダシで勝負する。

うどんをコナもんに入れてしまうのはやはり無理だ。
こちら上方では、うどんはコナを食べるものではなく、麺をすすりダシを食べるものだからだ。

また、食べ物としての「うどん」よりも、うどん「屋」として、つまり「うどんを商う店」として見てみると、結構面白いのに気がつく。

うどんのダシがうまいから、当然丼類もうまい。(編集部注:この話は先日のFPM田中さんの連載「最後のひと皿~LAST DISH~」でも語られている)
うどんもそばも丼もやってる「めし屋」というのは上方ではポピュラーだ。
ダシのうまさを前に出すようにダシで勝負のおでんもやってる店。
稲荷や巻き寿司、かやくご飯を出す食堂系の店。

北新地にある[黒門さかえ]は、その名の通り大阪中の料理の玄人が集まる黒門市場にオープンした。
昭和30年開店。「90秒で茹で上がる」市場仕様の細うどんに活海老の天ぷらを乗せた「天ぷらうどん一本」の屋台の店だった。

大卒国家公務員の初任給が1万円ほどの時代に、1杯600円のとびきりの天ぷらうどんで一世を風靡。1日に200杯は出ていたという。
客は芸人、芸能関係者から現職の大臣まで。北新地から黒塗りの車を横付けしてくるような客も多く、初代はダシが入った1升瓶とうどんをカバンに入れて、その頃就航していた日航機の深夜便「ムーンライト」を利用して、銀座にも出前していたという話もあるほどだ。

昭和50年に北新地に移転したのは、客からの要望だった。

ここのダシは決定的にうまい。
細うどんゆえ含まれるダシは微少になる。だから口に入れた瞬間に「あっ、うまい」と思える味と濃さを徹底的に研究した。
澄み切ったダシは、鰹、鯖、ウルメ、マイワシなどの削り節の妙味だ。

面白いのは、いつのまにかうどんよりも半紙に毎日書かれるその日の小鉢や天ぷらといった酒肴目当てで、居酒屋遣いする客がほとんどになってきていることだ。
うどん屋で飲んで、うどんを締めで食べるという感覚だが、うどんを食べなくて帰る客もいる。

コナもんの世界とはまったく違う。
ダシは店の性格を決定づける要素である。

写真はむかごのゴマ和え、四方竹の煮付け、川エビと大豆煮。そして刻みうどん。

予算は飲んで食べて4〜5千円というところ。

※江弘毅さんのスペシャルな記事『いい店にめぐり逢うために知っておきたいこと』はこちら

黒門さかえ

住所
〒530-0003 大阪市北区堂島1-4-8広ビル1F
電話番号
06-6344-0029
営業時間
11:30〜14:00 18:00〜23:30
定休日
定休日 土・日曜・祝日
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/76xesx650000/

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
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