再発見の2015年
この数年、東京には新しい「肉の名店」が次々に登場した。もちろん、評判の新店はたいていうまい。だがすでに知られた店も歩みを止めているわけではない。看板に灯りをともした回数だけ、味の土台は強くなる。
創業48年。「最寄り駅なし」「時の総理も並んだ」あの店。予約のできない、問答無用の行列ができる焼肉店だ。
「スタミナ苑」の肉のうまさについては、僕などが口にするまでもない。肉の到着を待つ時間の期待感、肉が卓に置かれた瞬間の高揚感、そして焼いた肉を口にしたときのくらくらするような多幸感。「スタミナ苑」の肉は有無を言わさず、人を耽溺させてしまう。
「スタミナ苑」で食べるべきもの
この店では注文すべきメニューは数えきれないほどある。ほぼすべての客が注文するミックスホルモンをはじめ、タンにハラミに生野菜。レバーだって外せないし、モツ自身から引き出した水分で煮込むという、驚異のモツ煮込みもある。スープにしても鶏ガラをベースにした人気のテグタンに加えて、牛テールでスープをとったコムタンだって捨てがたい。
そう。いつだって、「スタミナ苑」は頼みきれない。「最寄り駅なし」に加えて、長蛇の行列店だから、行く機会は限られる。そうしょっちゅう来られないから、つい「上」ばかりを頼みたくなってしまう。
だがラミネートされたメニューを何周か踏破すると、違う景色が見えてくる。実はこの店の凄味は、「並」にある。1300円の「並切り落とし」――「上」などに使う部位のはしっこの部分や、手間のかかる部位にもていねいに包丁を入れてある。行くたびにさまざまな味が楽しめる。今年の秋口に訪れたときの「並」もまた抜群だった。カタ周辺の肉だろう。スジが入っていて、いかにも処理が面倒そうな部位だったが、焼くと濃醇な旨みが口内にあふれだした。肉質とカットがピタリと合って、バカみたいにウマかった。
思えば今年はスタミナ苑のような凄腕の店の「ふつう」にヤラれた年だった。ふつうに店を訪れて、品書きにあるものをふつうに注文する。出されたものを口に入れて、ひと噛みすると、脳内にファンファーレが鳴り響く。そういう品が、店が大好きだ。特別扱いなど必要ない。そう思わせてくれる店に、来年もまた通いたい。
<メニュー>
並切り落とし1,300円。中切り落とし1,800円、上カルビ2,400円。ハラミは特上1,900円、上1,700円、並1,500円。上タン2,000円。ミックスホルモン1,700円。モツ煮込み1,000円など。生野菜650円も誰もが頼む大定番。ビール500円~。
※松浦達也さんのスペシャルな記事『高田馬場のとっておき酒場は、あのサイトにも載っていない「もつ煮込み」の聖域だった』はこちら
スタミナ苑
- 電話番号
- 03-3897-0416
- 営業時間
- 17:00~22:30(閉店23:00)、土・日曜、祝日は16:30~
- 定休日
- 定休日 火曜、第3水曜(盆時期休、年末年始休)予約不可(行列に並んでも、全員そろうまで入店不可)
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。