12月9日「長崎・平戸名物クエ」
こんな山の中で、クエが食えるのかい?
ダジャレを言っている場合ではない。クエは平戸の名物なのである。
不安を抱きながら山道を走ること30分、店は忽然と現れた。
出迎えたご主人はいきなり、「クエ見ます?」。
いらっしゃいました水槽に、40キロ近いクエ様が、泰然自若としてこちらを睨んでいる。
なにしろあなたは、これで40万円もするのだからね。
刺し身は、意外にもあっさりとして、噛んで行くとほのかな旨みが滲み出る。
そして鍋は、攻めのコラーゲンである。
グニュ、ふわっ、コリッ。様々な歯ごたえで攻めてくる。
淡味ながら、その脂と筋の部分に、獣のような野生の香りが漂っては消える。
その対比が、コーフンを呼ぶのである。
だからつい箸は、皮の部分や骨周りを狙ってしまう。
抽出されたエキスはだしに溶け、丸くなって舌を包む。
そして、その汁を吸った米は雑炊となって、幸せを運んでくる。
「どう美味しかった?」
ご主人が笑顔で尋ねる。
「高いからね、俺らは食えないんだよ。お客さんの嬉しい顔見れば、それで十分なんだよ」。
高いって、一人6,000円。
これなら毎年平戸に来てしまう。
「親父さん今度来るときは目玉もね」。
「はいよ」。
囲炉裏料理 エビス亭
- 電話番号
- 0950-23-3244
- 営業時間
- 11:30~14:00、17:00~22:00
- 定休日
- 定休日 火曜
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
12月10日「ひたすら真っ当なコロッケ」
どうしてこんなに、優しくなれるのだろう。
どうしてこんなに、心がほぐれるのだろう。
カリリ。
衣が音が立てる。
芋が穏やかな、大地の甘さを滲ませる。
牛肉が、ひっそり滋味を忍ばせる。
そのとたん僕は、ぬるま湯に浸かって体が弛緩する。
遠く昔からの温もりが、ゆったりと戻ってくる。
余計な味が一切ない。
ジャガイモと牛肉を信頼しきった味がある。
パン粉は、国内小麦粉、粗糖、天然酵母、海塩、添加物なしで特製したもの。
ジャガイモは無農薬、牛肉は信頼おける肉屋で手挽きしたもの。
油は菜種油。
でもそんなことは、一切うたっていない。
コロッケ2個と切り干し大根の煮物、玉子焼きに果物、ご飯に味噌汁がついて、1,000円。
料理の値段のコストパフォーマンスがどうのこうの言っている輩に、食べてもらいたい。
真っ当とはなにか。
今の時代真っ当を貫くことは、いかに値がはることか。
「来年で10年になります。どうにかやってこれました。今は夜はお休みしているので、赤字ですが、頑張ってやっていきます」。
そう女主人は言って微笑まれた。
日本に、こんな食堂がたくさんあればと、切実に、思う。
ひまわり亭
- 電話番号
- 03-3780-0907
- 営業時間
- 11:30~14:00(L.O.) ※夜は休業中。要問合せ。
- 定休日
- 定休日 日・月・祝日(GW休、盆時期休、年末年始休)
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※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
12月14日「ライトン」
ここ数日の無理がたたったか、風邪気味である。
一応風邪薬は飲むが、信用していないのて、こういうときは、知り合いの中国料理店に飛び込む。
喉が痛い風熱タイプなので、「陳皮、大根、白菜、セロリを入れたライトンを作って下さい」と、頼む。
一口すすると、風邪がじわりと後退した。
大根や白菜の甘みが上湯に溶け込んで、粘膜をいたわるように喉を過ぎ、胃袋へと落ちていく。
滋養が体の隅々へと、染み渡っていく。
「ばあ~」。充足のため息ひとつ。
胃の辺りが春の陽だまりとなって、こりゃあたまらんと、風邪が抜けていく。
※編集部注:ライトン=例湯…日本語で「本日のスープ」のような意味だが、非常に長時間かけて弱火で素材の旨みを抽出している。
Turandot 臥龍居
- 電話番号
- 03-3568-7190
- 営業時間
- 月~金曜 8:00~22:00 L.O.、土・日・祝日 9:00~22:00 L.O.
- 定休日
- 定休日 無
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12月15日「ブレザオラ」 ※現在は店名が変更しております
奥野シェフは爽やかな青年だけど、じつはしたたかな色気を隠し持っているのかもしれない。
彼の作ったブレザオラを食べた時、そう思った。
その赤黒い肉は、ねっとりと舌に甘えながら、滋味を滲ませてくる。
熟成して濃密になった旨みだが、これ見よがしではない優しさがある。
それでいて、こちらの心をたぶらかす脂の、甘いエロさがある。
うん、これは相当したたかでないと作れないよ。
※編集部注:ブレザオラ=イタリア北部・ロンバルディア州、その最北部でアルプスの谷筋にある、ヴァルテッリーナ地方が原産で、塩漬けにした牛肉を2~3カ月程度熟成させた干し肉のような生ハムの一種。
ヴィア ブリアンツァ
- 電話番号
- 050-3494-5663
- 営業時間
- 月~土 ディナー:18:00~23:30(L.O.22:00) 火~土 ランチ:12:00~15:00(L.O.14:00)
- 定休日
- 毎週日曜日
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。