全国各地で独自のブランド食材を作り育てようという試みが盛んに行なわれ、地元の食材を生かした新しいご当地鍋や、古くから伝わる鍋料理を復活させるなど、食を通じての町おこしの展開につなげようとする動きが活発化。北から南まで、日本各地でご当地鍋の味を競うイベントが開催される、鍋ブームが起きているようだ。
その地域で長年親しまれてきた歴史ある鍋料理や、地域ならではの食材をメインに、肉や魚、野菜、キノコなどと一緒に煮込む郷土色の強い鍋料理など、各地域の特色を活かした「ご当地鍋」に熱い視線が注がれる中、2015年11~12月に「ぐるなび」の検索ランキングで急上昇ワードにランクインした、特に注目の鍋料理を3つピックアップしてみよう。
江戸時代から伝わる庶民の味。トロから出る旨みとねぎの甘みが絶妙な『ねぎま鍋』
ぐるなびでの検索数が昨年12月に前月比で183%と急上昇した『ねぎま鍋』。背景には東京・浅草にある人気店の「江戸ねぎま鍋」が、11月から12月にかけてテレビ朝日系列「食彩の王国」(2015年12月19日放映)をはじめ、3番組以上で紹介されたことで、一気に注目度がアップしたことが挙げられる。
『ねぎま鍋』とは漢字で書くと「葱鮪鍋」。読んで字のごとく、「ネギ」と「マグロ」を醤油と酒、みりんなどで味付けしたシンプルな割り下ともに鍋に入れて煮たのが『ねぎま鍋』だ。江戸時代から庶民の味として広く普及しており、マグロのしっとりとした肉質と旨みがとけこんだスープとともに、旨みをたっぷり吸って柔らかく煮込まれたネギの甘みと香りが堪能できる。
赤身の方が好まれていた江戸時代、腐りやすく保存に向かないために捨てられていた脂身の多いトロを捨てずに、しかもさっぱりおいしく食べられないかと考案されたのがこの鍋の始まりだとか。江戸っ子の「もったいない」から生まれた鍋料理だ。
近年の訪日外国人の増加とともに日本の食文化にスポットが当たる中、江戸の日常食を堪能できる正真正銘の江戸っ子グルメとして、一大ブームを巻き起こしそうだ。
宮城の食文化に欠かせない、初々しい苦みを楽しむ仙台名物『せり鍋』
仙台の名物として話題になっている『せり鍋』。宮城県産のセリを使った鍋で、鶏肉や鴨肉とともに鍋に入れて、葉や茎だけでなく、根っこまですべて使用するのが特徴。セリのシャキシャキとした食感とさわやかな香り、独特の苦みが楽しめる。
セリといえば、春の七草の一つで知られている冬の野菜だが、宮城県は古くからセリの生産地として知られ、現在はセリの生産量、出荷量ともに全国1位を誇る。そのため宮城では、昔からお鍋にセリを入れて食べるのが定番だった。
2004年頃から仙台市内の居酒屋などを中心に、「仙台せり鍋」を提供する店が現われはじめ、具材に趣向を凝らしたり、締めにラーメンを入れたり、カレー味の雑炊にしたりお店ごとに個性を打ち出した『せり鍋』が次々と登場するように。さらに「仙台せり鍋愛好会」が結成されるなど近年は大きな盛り上がりを見せ、予約しないと食べられないほどの人気になっている。ぐるなびでの検索数も鍋シーズンが本格化する昨年12月には前月比で160%と急上昇した。
つい先日(2016年1月14日)も、日本テレビ系列のTV番組「秘密のケンミンSHOW」で取り上げられたことから、『せり鍋』への注目度はますますヒートアップ。知名度の高まりが期待される。
地元で長年愛されてきたソウルフード。岡山県津山市の食肉文化を代表する『そずり鍋』
岡山県津山市の郷土料理として親しまれている『そずり鍋』。「そずり」とは津山弁で、「削ぎ取る」という意味で、マグロの中落ちのように、牛の骨からそぎ落とした肉を使用することからこの名前がついた。牛肉を余すことなく使おうという発想が生み出した鍋だ。現在では、牛肉には地元のブランド牛である「作州牛」を使うのが定番となっている。
醤油ベースの甘辛な割り下に様々な部位から取ったそずり肉をいれ、ゴボウなどの野菜やキノコ、豆腐と一緒に煮込む。とろとろに煮込まれたそずり肉と肉の濃厚なうまみが溶け出したスープが後を引くおいしさ。最後はうどんや和そばで締めるのが津山スタイルだ。
昨年1月には北は岩手から南は沖縄まで全国50団体以上が出場する、日本最大規模のご当地鍋コンテスト「ニッポン全国鍋グランプリ」(埼玉県和光市で開催)に満を持して初登場し、9位と健闘。今年1月30、31日に開催される同イベントにも登場する期待感からか、昨年12月にぐるなびでの検索数が急上昇した。
データ集計対象期間:2015年11月と12月を比較