8年前から、徐々にパリのカフェシーンが変わりはじめた。
パリのたくさんのレストラン、ラグジュアリーホテルのcafé(=エスプレッソ)が変わった。
パリのエスプレッソを変えてくれたのは、Hippolyte COURTY(イポリット・クルティ)。
超一流が信頼するCaféとは?
2008年に共同経営者らとともにL’Arbre à Café(ラルブル・ア・カフェ)を立ち上げ、瞬く間に素材の質にこだわるパリのレストランにその質の高さが知れ渡った。
彼のコーヒーの質とその情熱が認知され、今や400を超える顧客をかかえる。パリだけでなく、地方も含め、名だたる三つ星レストランやラグジュアリーホテルまでが彼のコーヒー豆を求めている。
実は彼はかつて、大学で歴史を教えていた。2008年まで、美味しいコーヒーに出逢わなかったため、コーヒーが大嫌いだったという。
それが今や、ピエール・エルメ氏をもって、『彼が私に味覚に対する新しい世界への道を開いてくれた。それはまさに衝撃だった。覚醒ともいうべきものだった。結局、私は、この日まで<カフェ>というものを飲んでいなかったのだ…。』(注)と言わしめるまでになったのだ。
(注)イポリットの著書、「Café」によせたピエール・エルメ氏による序文より引用。日本語未訳のため訳は筆者・石黒陽子による
彼が最初に思いついたことは、『より良い食材を求める行為を、コーヒーについても行わせてあげようじゃないか』。
『食事の最後に、最高のコーヒーが味わえたら、それは最高な事でしょう?』とイポリット。
その為に、コーヒー豆を買ってくれる人たちとの間で、とても大事にしている約束事がある。それは、焙煎から3週間以内の消費。3週間を経過したものは飲み手である最終消費者に提供しないこと。コーヒー豆のパッケージには必ず焙煎日が記入されている。
彼の焙煎する豆は、全てグラン・クリュだ。『ワインの「グラン・クリュ」と同じだと考えるとわかりやすいよ』と、イポリットは言う。単一生産者、単一区画、単一の製法で、一つのワインキュヴェが決まるように、コーヒー豆の種類が定まる。ブレンドはしない。
彼の知的好奇心と情熱は、とどまるところを知らない。彼の野心は『Extension du domaine du café』という言葉に表現されている。コーヒー領域の拡大という意味だ。コーヒー豆の生産者に会い、生産の現場を知り、コーヒー豆の乾燥、焙煎、流通、コーヒー豆が廃棄・リサイクルされるまでの全てに関わる。
こだわりの強いイポリット。彼から豆を購入している人は、コーヒーの淹れ方、各カフェ提供者の目的に合ったエスプレッソマシーンの選択、客に実際にサービスされる様子(もちろんカップの温めまで気を払う)までを想定して、みっちりと研修を受けることとなる。
こういった努力のおかげで、私たち消費者は美味しいカフェで食事を終えられるようになったのだ。
昨年は、ワインを味わう時に、みなワイングラスにこだわるのに、コーヒーを味わう時には器に拘るのが当然、と器まで作ってしまった。
数十の試作を経て最終的に採用された器は、「香りと味わいを最大限に感じられるものになっている。」とのこと。
彼の飲み手視点のこだわりと情熱は、こんなところにもあらわれている。
実は、日本でも、、、
14区にある彼と彼を支えるチームのアトリエ(焙煎所兼バリスタ研修所)は、ソムリエやシェフが試飲に訪れ、バリスタが彼のもとで研修する場となっている。国際資格であるので研修を行っているのだ。
そしてここは、パテシエやシェフたちにとってのクリエイションの場でもある。
Yann Couvreur, Pierre Hermé, Alex Croquet (Fou de Pain) といったそうそうたる面々が、イポリットが仕入れて焙煎した香り高いコーヒーにインスパイアをされてお菓子を作っている。(東京のピエール・エルメでお菓子作りに使用しているのも、実は彼のコーヒー豆なのだ。)
現在取り組んでいるのは、フランスのリヨンからさらに南に車で1時間ほど走るとある、ヴァランスという町にある3つ星レストラン、『PIC』 の女性シェフ、Anne-Sophie PICとのカフェメニューやカフェコースの考案と、これに合わせたカフェのマリアージュによる、ワインペアリングならぬ、カフェペアリングだ。
他にも、すでに3年以上取り組み続けているプロジェクトがある。ジャスミンのような香りのするコーヒーの花。このお花でお茶が作れないだろうかというアイデアだ。探究心は様々な方向へと向かい、その探求先は広がり続けている。
挑戦し続け、人々の先入観を打ち破るコーヒー文化の革新を狙うイポリット。次はどんな発見を我々にもたらしてくれるのだろうか。
お店の最寄りのMétro駅:Réaumur Sébastopol または Sentier
ブティックではコーヒー豆を250g単位から買う事ができる。また、ここでイポリットの原案による器に入ったエスプレッソも飲むことができる。
L’Arbre à Café (ラルブル・ア・カフェ)
- 電話番号
- 01 84 17 24 17
- 営業時間
- 火~金 12:30-19:30、土 10:00-19:00
- 定休日
- 定休日 日、月
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。