1.「仕込みに一番時間がかかる」
舌の上で、胡麻豆腐は、自然へと帰っていった。
ほのかに甘い香りを漂わせながら、溶けていく。
そのまま喉へと落ちていくのではなく、口の中の細胞に染み入っていくような滋養があった。
もう一度胡麻豆腐を舌に乗せる。
すると豆腐は、ふるると腰を振り、「出逢えてよかった」と呟く。
胡麻をすり鉢で一時間以上かけてする。
「うちの料理で一番仕込みに時間かかっている料理です」。
そう秋山能久さんは言って、静かに微笑む。
秋山さんは「月心居」の棚橋俊夫さんに師事された方である。
月心寺の村瀬明道尼さんにも学び、寺の集りの際には3時間胡麻を摺り続けていたこともあるという。
「ある時点からいつ終わるのだろうとか疲れたと思うのではなく、無になっていきました」。
客のことを思い、ひたすら摺る。
胡麻という命を成仏させる。
秋山さんの野菜料理は、華やかで精緻である。
手間を丹念にかけて、華やかさと精緻を生む。
「君がため」を想い、料理という命を預かる仕事の重みを肝に銘じながら作られて、しみじみと心に届く。
六雁(ムツカリ)
- 電話番号
- 03-5568-6266
- 営業時間
- 17:30~23:00
- 定休日
- 定休日 日曜、祝日
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
2.「焼酎が止まらない」
博多「タンテール富士」のテールはいけません。
外はカリッとしていながら、中はほろほり。
コラーゲンの甘みを広げながら、「どうね?」と優しくほどけていく。
カリッ。ほろほろり。
慌てて芋焼酎飲めば、甘みと甘みが出逢って、ほろほろ酔い。
「もうたまらんばい!テールおかわり!」と、口走るのであります。
タンテール富士
- 電話番号
- 092-752-0073
- 営業時間
- 18:00~
- 定休日
- 定休日 月曜
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3.「すべて、いちいち旨い」
焼き魚も煮魚も惣菜も、味噌汁も御飯も冷や奴に至るまで、いちいち旨くてやんなっちゃう。
日本一の定食屋、博多天神「味の正福」で大人買い。
四人で片っ端から頼んだら、一枚の勘定書に書ききれんようになった。
アオナの煮つけ、甘鯛の塩焼き 平味の塩焼き、鯛の兜煮、銀ダラ味醂焼き、鶏の南蛮、塩鯖茹でポン酢、ほうれん草、玉子焼き、冷や奴、おろし煮、貝汁、アラ汁、あおさ汁、なす味噌焼き。そしてサービスのハマチのポン酢柚子胡椒。
ふう。ビール4本、冷酒3杯。
これで一人四千円は行きません。
〆は御飯に煮汁かけることも忘れてません。
塩鯖茹でポン酢を一口食べて「うまいっ」て叫んだら、
「ありがとう。塩鯖がうまいだけよ」ってご主人が渋い声で答えたと。
味の正福 天神コア店(アジノマサフク)
- 電話番号
- 092-712-7010
- 営業時間
- 11:00~22:30(LO.22:00)
- 定休日
- 定休日 不定休(アクロスに準ずる)
- 公式サイト
- http://www.masafuku.com/
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4.「マッキーに行く」
だいぶ食べたのに、逆に麺が増えた気がする。
鯖節がばしっと効いたつゆを、やわ麺が吸い込んでさらにやわやわになっとる。
咀嚼という行為を、一切求めようとしないうどんは、ふにゃんと喉に落ちていく。
これはうどん界の、おじやである。
地元の人は、「牧のうどん」を「マッキー」と呼んで愛しているという。
「昼はマッキーに行かない? マッキー」と誘われたい。
釜揚げ 牧のうどん 空港店
- 電話番号
- 092-621-0071
- 営業時間
- 10:00~23:00(閉店)
- 定休日
- 定休日 第3水曜(1月1日休)
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5.「行列の天ぷら」
店を出てきた人が、列に並ぶ人を前に、勝ち誇ったような顔に見えたのは、気のせいだろうか?
20分は待った。
だからまたやってしまった。
折角並んで待ったのだからと、大人注文をしてしまったのである。
天ぷら定食(キス、イカ、白身、ピーマン、南瓜、茄子)に、穴子とエビ、鶏モモ肉、玉葱、インゲン、蓮根を追加して、ほぼオールスターを前に、悠然とビールを飲んで、2千円近くも使ってしまったのである。ハハハ。
しかしここは、58席あるカウンターが常に埋まって、行列が絶えない。
すべての天ぷら屋の羨望と嫉妬の上に君臨する店なのである。
博多の人たちは、こげん天ぷらが好きだったのねと、腰を抜かす店なのである。
結論から申しますと、これだけの注文を次々とこなし、待たせることなく、一糸の乱れもない接客が驚きである。
そして天ぷらでは、ピーマンとインゲンが図抜けている。
穴子一匹210円は安い。
鯖の天ぷらは、意見が分かれるところだろう。
味付け塩も三種類用意されているが、ここは揚げたてを天つゆにどぶっとつけて、御飯の上に一回バウンドさせてから御飯をかき込む。
それが正しい。
博多「ひらお」にて。
天ぷらひらお 本店
- 電話番号
- 092-611-1666
- 営業時間
- 10:30~L.O.21:00
- 定休日
- 定休日 不定休、年末年始(12/31~1/2)
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6.「焼肉、ご飯、以上。」
潔い。実に潔い。
品書きは、「焼肉」の1人前から3人前までのトリプルしかない。あとはご飯以上。
あ、一応ラーメンが書かれているが、30数年通う常連も、食べている人を見たことがないという。
注文は、焼肉とご飯の量を申告するだけで、待つこと10分で現れる。
ジュッジュワー。壮絶な音と湯気を立て、そいつは現れる。
キャベツと豚のハラミを炒めた「焼肉」である。
だがその前に、テーブルに用意された小さな棒を縦に置く。
鉄板皿が運ばれると、皿の片方を棒に乗せるようにして傾ける。
傾けられた鉄板の下部にたまった炒め油に特製辛子ダレを入れて溶くようにし、全体にまぶしていく。
韓国唐辛子の甘い香りがする辛子ダレには、味噌とニンニクと唐辛子が入っているのはわかるが、他は企業秘密らしい。
店内で調合しているのだが、膜を張って見えないようにしている。
このレシピを譲り受けるには、一千万円が必要だという。
このタレがクセになる。荒っぽい味だが、食欲をキックするたくましさがあって、キャベツと豚肉と絡むと、皆猛然と白ご飯を掻き込み出す。
単純だが深い。そこに強みがある。オーナーはそのことを熟知しているのだろう。常習者が増えていく。
ご飯の上にかけて丼にしても、これまた危険である。
どこにでもありそうでない、南福岡雑餉隈「びっくり亭 本家」の焼肉を、今日も男、男、男たちが食べている。
びっくり亭 本家
- 電話番号
- 092-571-0692
- 営業時間
- 11:30~0:00(LO.23:25)
- 定休日
- 定休日 木曜
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