パリのカフェ文化を作ったオーヴェルニュ
オーヴェルニュはフランスの中南部にあり、ミネラルウォーターの採水地として知られる地域。「田舎」を指すフランス語で、周囲を山に囲まれていることもあり、19世紀まで外部の人間が足を踏み入れることがなかったといわれるほどだが、良質な地下水が多く湧き出る名水地だ。
日本ではあまり知られていないが、パリのカフェの大多数がオーヴェルニュ出身者による経営であるのだが、それは人一倍働く人が多いからだという。詳細は割愛するが、フランスの中でも特に貧しい田舎であり、かつ県民性として愚直な人々が多いオーヴェルニュ。火山群と火山によってできた独特の痩せた土壌で、雨量が少なく、暑い夏と寒い冬と気温の差が激しい内陸性気候の影響をまともに受ける気候により食物の栽培もままならず、人々を鍛え上げたのだろう。
さて、そんなオーヴェルニュのワインが今回、恵比寿『Winestand Waltz』の店主・大山恭弘さんが選んだ1本だ。
ドメーヌ・ラ・ボエム。
ボヘミアンのように、「因習にとらわれない自由な生き方」という意味を込めたワイナリーだ。
このワイナリーを開いたのが、Patrick Bouju:パトリック・ブージュ。ただのワイン好きだったパトリックは、ある日当時付き合っていた彼女の紹介で、同じオーヴェルニュの鬼才Pierre Beauger:ピエール・ボージェ(近いうちにこの造り手を紹介することになると思われる)に出会った。それをきっかけに、IBMでバイオ研究システムのプログラマーの仕事をしつつ、ピエールの指導の下、週末や休日に20アールの土地を使ってのブドウ栽培を開始した。そして6年間ワイン造りに傾倒していった彼は、2003年にワイン生産者として独り立ちすべく、午前中だけ働くという契約社員への格下げを願い、2004年からドメーヌ・ラ・ボエムをスタートさせた。
VdF Rouge La Boheme / Domaine La Boheme<Patrick Bouju>(ヴァン・ド・フランス・ルージュ・ラ・ボエム/ドメーヌ・ラ・ボエム<パトリック・ブージュ>)
そんなワイナリーの名前を冠したワインがこの「ラ・ボエム」だ。
この2011年ヴィンテージの1本は、樹齢107~120年というガメイ・ド・オーヴェルニュの古木で、雹による被害もあったため、例年の半分程度の12hl/haという超低収量。これは1haあたり1,600本しか作れないことになる。
一般的なボルドーの村名ワインが45 hl/ha程度、超低収量と言われるロマネ・コンティでさえ28 hl/ha程度と言われるから、気が遠くなるほどの収量の少なさだということがわかる(ちなみに師匠のピエール・ボージェは彼は平均9hl/ha程度というとんでもなさ)。さて、そんなワインを選んだ大山さんの意図はどんなところにあるのだろうか?
<大山さん>
一番の理由は好きだというしかないですね。
オーヴェルニュの造り手のワインは全般的に好きで、特にガメイ・ド・オーヴェルニュの個性、キャラクターはいいと思っています。
ボージョレなどで栽培されるガメイに比べ実が小さく、果皮が分厚い。だから果皮の比率が高くなり、ガメイよりタンニン分が強くなります。そして、この地ならではの火山地帯由来のミネラル感。それらのバランスがいいんですよね。
また、パトリック・ブージュさん自身、造り手として脂が乗ってきていて、いま一番イケてる気がします。
もともとはペティアンしか造っていなかったドメーヌ・ラ・ボエムですが、このラ・ボエムやルル(lulu)などの赤はとても美味しい。それに、熟成に耐えられる酒質なので、それも楽しみです。
実は、以前はそんなに際立ったキャラクターを持った造り手という印象はなかったのですが、ある程度熟成させるととてもいい。
オーヴェルニュのワインはほとんどすべてが熟成に向くタイプではありますが、中でも育てがいのあるワインだと思っています。たぶん、ピークはこれから10年後くらいなんじゃないかなと思います。
でも、今飲んでもとても美味しいワインです。
ミネラルが豊かで塩を噛んでいるような感覚さえある。
薄いようでいて旨みがしっかりある。
まるで、関西のうどんのだしのようなワインですね。