丸い“ピッツァ”なんて知らなかったあの頃
私のピザ歴は長いのです。子供の頃、幼稚園だったか小学校低学年だったかそんな頃ですが、父親が夜に出かけて深夜に帰って来る事がよくありました。どこに行っていたのかと云えば横浜の本牧の辺りでした。その昔は横浜で深夜に遊べるところはあまりなくて、伊勢佐木町とか本牧界隈くらいしかなかったようです。中華街だって夜の8時や9時になったら真っ暗でしたし、横浜駅近辺もそんな感じでした。
本牧の米軍住宅などに出入りしていた父親(詳しい事はまだちゃんと話してもらっていない)ですから、本牧で遊んでいたのも当然の事です。自動車を運転して行って深夜に帰ってくるのですが、昔の車ですからかなり威勢の良いエンジン音がします。当然子供の私はそのエンジン音を聞いて起きちゃうわけです。私が起きているのを知ってか知らずか、父親はよくお土産を買ってきてくれました。
一番良く覚えているのは細切りのココナッツを黒砂糖のようなもので固めてあった焼き菓子。香ばしくて甘くて大好きでした。こんなのを子供が夜中に食べていたら虫歯になるのは必然で、後年までずっと虫歯に悩まされたその根本的原因としてもこのお菓子の事は記憶しています。そして他にも甘くて物凄い色合いのジェリービーンズとかやたらと甘いクッキーとか、とにかく甘い甘いお土産が自動車のエンジン音と共に思い出されます。
そして、甘くなかったのがアルミホイルに包まれた薄いピザ。そのピザは丸いのではありませんで、長方形なんです。横浜本牧のピザは四角いのが特徴。オーブントースターで焼けるように四角くしたのだとかその形状の由来には諸説あります。
子供の私にはちょっと塩っぱくて衝撃的でしたが、そのアメリカンな味わいは私の味覚嗜好形成に大きく影響を与えたと思います。ピザの本場がイタリアで丸い形状のピザの方が一般的だと知ったのは多分中学とか高校の頃。四角いピザが本牧のほんの一部のお店でしか出されていないと知ったのはもっと後。
横浜西口にあった(今もある)シェーキーズの厚みがあってふかふかした台のピザを食べて子供の頃の四角いピザとの違いに思いを馳せる事もありました。それにしてもよく行ってたなぁ、シェーキーズ。また行ってみようかなぁ。
ノスタルジー、だけじゃない
本牧の四角いピザは今なお健在です。知り合って25年以上の八木さんがマスターを務める『IG』で、その四角いピザを久しぶりに戴いてきました。
トッピングはミックス。オニオンとピーマンとマッシュルームとハムとサラミのオールスターズ。
なくてはならないのがピーマンとマッシュルーム。
ピーマンなんて子供の頃は嫌いな食べ物のベスト3に入るくらいでしたが、父親がお土産に買ってきてくれたピザのあの印象的な味わいはピーマンに大きく支配されていたのだと気がついたのはずっと後。ピーマンの風味がないとまるで物足りない。
野菜嫌いだった父親が同じく野菜嫌いに育った私に、偶然にも野菜好きになるきっかけを実は与えてくれていたのだと思うと感慨深いと云うか何と云うか。本場イタリアの人からしたらピーマンなんぞ言語道断と思われるかも知れませんが、もうそれで育っちゃったんだもの仕方がありません。
この四角くて薄くてパリッとして、暫くするとふにゃっとするのが私のピザ。
これぞまさしく私のソウルフード。ウマウマウー。
でもノスタルジックなだけじゃない。八木さんはこの四角いピザで本牧の町おこしを考えておられるそうな。
多くの人がこの四角いピザをもっとあちこちで楽しんでもらえるよう企画して行くそうです。微力ながら私も何かお手伝い出来たら良いなと思っています。是非皆さんも本牧の四角いピザに逢いに来てください。美味しかったです! 御馳走様でした!
IG (アイジー)
- 電話番号
- 045-623-6901
- 営業時間
- 19:00~翌2:00(閉店翌3:00)
- 定休日
- 定休日 日曜、第3月曜(1月1日休)
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。