暖かくなり始めると、つい手が伸びてしまうシャンパーニュは、白ブドウのシャルドネのみから造られたブラン・ド・ブラン。ブラン・ド・ブランといえば、誰しもコート・デ・ブランのグラン・クリュ、すなわちアヴィーズやクラマン、メニル・シュール・オジェのものこそ最高と信じて疑わない。それは決して間違いではないけれど、もうひとつ、見過ごせない産地がある。メニルから80キロ南に位置するモングーだ。
モングーはオーブ県に属する小さな村。アンドゥイエットが名物のトロワのすぐ近く。シャンパーニュのブドウ産地としては、ここだけポツンと孤立している。
コート・デ・ブランでもなければ、オーブの中心産地であるコート・デ・バールにも属さない。ただし、栽培されているブドウ品種はほぼ100パーセント、シャルドネである。というのも、ピノ・ノワールがおもに栽培されているコート・デ・バールはキンメリジャンの粘土石灰質土壌。それに対してモングーは、オーブ県ながらコート・デ・ブランと同じ白亜質土壌(チョーク質)だ。ただコート・デ・ブランと比較すると、モングーのほうが1万5000年ほど古いらしい。
モングーにどれだけの栽培農家がいて、そのうちの何軒がシャンパーニュ造りまでしているかは定かでないが、モングーのテロワールを知るのに最適の造り手が「ジャック・ラセーニュ」。現当主のエマニュエル・ラセーニュは99年に家業を継ぎ、独自の手法により素晴らしいシャンパーニュを醸造している。
ブドウ栽培はビオロジック。醸造では酸化防止剤をほとんど使わず、圧搾時に果汁の酸化を避けるため少量加える程度。アルコール発酵は自生酵母による自然発酵で、瓶詰め時のろ過もしない。
モングーのシャルドネは簡単に11〜12.5パーセントまで糖度が上がってしまう。それでも酸がぼけないのはチョーク質のテロワールのおかげ。ただし、ベースワインのアルコール度数が高めだから、瓶内二次発酵のために加える糖分と酵母は少なめにしている。その分、発生する炭酸ガスの量も控えめの5気圧程度。クリーミーな泡立ちが口中に心地よい。
デゴルジュマン(澱抜き)は一本一本手作業のア・ラ・ヴォレ。ドザージュはゼロながら、クリーミーな泡立ちと成熟感のある味わいのおかげで、ゼロドザージュものに時折見られるギスギスした刺激がないのも好ましい。
ジャック・ラセーニュの「ヴィーニュ・ド・モングー」が飲めるのは、ミシュラン二つ星の南青山「レフェルヴェソンス」。ミシェル・ブラス洞爺やファット・ダックで研鑽を積んだ生江史伸シェフの料理はまさにテロワールの再現。スペシャリテの蕪のローストは、ジャック・ラセーニュと見事な調和を見せてくれるだろう。
<価格>
ジャック・ラセーニュ・ヴィーニュ・ド・モングー 12,000円
※柳忠之さんのスペシャルな記事『キンメリジャンがワインに何を与えるのか?~ワインマニアのためのテロワール講座その1~』はこちら
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