情報につられて料理だけを目がけて、その街に行ってしまうことの貧相な思考について

【連載】正しい店とのつきあい方。  店や街とのつきあい方がわからない人が増えている。初めてなのに常連と同じように扱われないと怒る人や金さえ払えば何でもしてくれると思う人。お客様は神様、などではない。客としてのあり方を街と店に深い考察を持つ江弘毅氏が語る。

2016年05月19日
カテゴリ
コラム
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情報につられて料理だけを目がけて、その街に行ってしまうことの貧相な思考について
Summary
1.店には地域性があるということについて
2.予約が取れない店の問題点とは?
3.街に残るその街らしい老舗

その街ならではの店を選びたい

これは当然のことであるが、店に行くことは、その街に行くことである。
目的の店で何かを食べたり飲んだりすることと、店自体が持つ「地域性」を切り離してしまうと「皿の上の料理うんぬん」ということになってしまう。

世の多くのグルメたちは、ミシュランの星やグルメ誌の評価、食べログのランキングなどを気にして店を選び、あらかじめメニューを決めたりしているが、グルメ情報ばかり追い求めていると、第一歩目の「店に行く」という楽しみのストライクゾーンが狭くなってしまう。

街に出ること、すなわち外食することやショッピング、映画やコンサートに行くことは独特の特別感がある。
繁華街にしてもスターバックスなどのチェーン店系のカフェやファストフードに行くよりは、その街ならではの店を選ぶ方がいい。

また歩いて楽しい街は、予定外、想定外の発見があったり、ガイドブックやグルメ誌に情報化されることのないいろいろな出来事や人と人の出会いがあったりするから楽しい。

街を微分したものとして通りがあり、その通りを形成しているというのが店である。
そういうふうにとらえると、店の存在そのものがその店が立っている場所の「地元性」であり、その店があるからその通り、その街が決定づけられているのだ、といえる。

とくに京都や大阪は旧い街が多いから、時間軸によって性格づけられた土地の記憶や地層が露出している。
旧い街には旧い店が健在だ。
その街の性格や成り立ちを凝縮したような旧い店に案内されて、そこから土地柄を感じ取ったりするのは、まち歩き以上の楽しさがある。

その街を代表する名店はその街らしさそのものだ。
新しい商業施設や再開発された駅ビルのキーテナントとして有名レストランが入るケースが多いが、残念ながら旧い街の居酒屋や鮨屋や蕎麦屋の「味」には及ばない。

私は客であってユーザーではない

辻調グループの総帥の辻芳樹さんが、平松洋子さんの連載でインタビューされ話していたが、予約の取れない店の料理人は技術的な進歩が困難になるとのことだ。
料理と客の距離が遠いのである。
対して毎週毎日常連客が来る料理屋は、うるさ型に限らず彼らを飽きさせない工夫がおのずと刷り込み済みなのだ。
なるほどなあ、と思う。
星の数やメディア露出を目的化したり、食べログの評価を気にしたりするのとは全然違う仕方で「うまいもの」を料理するのだ。

食べログのただし書きにはこうある。
「これらの口コミは、ユーザーがお食事された当時の内容に基づく主観的なご意見・ご感想です。あくまでも一つの参考としてご活用ください」

わたしは「店の客」ではあるが、「ユーザー」という言い方で称されるような立ち位置に立ったことはない。
街場の具体的な店で飲み食いすることは、使っている電化製品の機能がおかしいと「お客さま相談室」に電話したり、デジカメを買うために「価格.com」を調べて最安値で買ったりするのとは位相が違う。

その一つが、その店が「街的」かどうかというものだ。
街的な店はスペックもコスパという評価軸も前景化されていない。

そのかわりに風情や情緒など、身体で感じるエレメントがたくさん揮発している。それらと街は溶けあっている。

街の変遷を見続け約80年

大阪・阿倍野にある「文の里松ずし」は昭和14年創業。
戦火をかろうじて逃れた店構えもほとんどそのままだ。

大阪の伝統的な「鮓」である押し寿司は、戦後大阪を圧倒した「にぎり鮨」に押されて姿を消すか、「おもたせ用」の高級グルメアイテム化したが、この店は何から何までしっかり残っている。

※江弘毅さんのスペシャルな記事『いい店にめぐり逢うために知っておきたいこと』はこちら

松寿し 文の里店 (マツズシ フミノサトテン)

住所
〒545-0004 大阪府大阪市阿倍野区文の里4-1-5
電話番号
06-6621-1752
営業時間
10:00〜20:00
定休日
定休日 火曜
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/edpkuvbj0000/

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
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