半年ちょっと続いたこのコラムもいよいよ最終回。
次回からまた新しい連載をスタートすることになった。
トリを務めるシャンパーニュはやはりこれしかあるまい。クリュッグのキュヴェ・ナンバーワン、グランド・キュヴェである。
私はほぼ毎年、ランスのメゾンを訪ねている。何のためかといえば、クリュッグの秘技ともいわれる巧妙なアッサンブラージュ(=ブレンド)を体験するためだ。当然ながら、2日程度の滞在日数で、クリュッグの醸造チームのように100以上ものベースワインを組み合わせることは不可能だから、せいぜい20前後のワインをあれこれ混ぜるに過ぎないのだが、一応、プロを自認するメンバーの集まりなのでいつも真剣。醸造責任者のエリックさんは「ゲームだから気楽に」というけれど、ついつい「今年も一番のキュヴェを造ってやるぜ」と意気込んでしまう。
6年連続で参加して、アッサンブラージュのコツというか、瓶内二次発酵と瓶内熟成を施す前のワインをどのようなスタイルにすべきかは飲み込めた…ような気がする。初めての年は完成したグランド・キュヴェしかイメージにないものだから、やたら重いワインに仕上げてしまった。女性醸造家のジュリーさんからは、「この後、最低6年寝かせるのよ、わかってる?」と言われ、シャンパーニュの専門家として世界的に著名なスウェーデンのリカルド・ユリン(リチャード・ジュリン)からは、「僕は寿司が大好きだけど、君の造ったこのワインは最低」と嘲笑された。
翌年は前の年の反省に立ち、出来る限りフレッシュさを残すよう心がけた。ブージーのような重いピノ・ノワールの比率は控えめに、古いリザーヴワインはほんの一滴の量でも激変するので使用には要注意。そう自分には言い聞かせるのだが、困ったことにチームを組む相方(アメリカ人)がそれをわかってくれず、「よし、98年のメニルのリザーヴを50ml」とか言ってくる。そこで私がいうわけだ。映画ブレードランナーの屋台の親父のように、「10mlで十分ですよ〜」と。しかしなおも「じゃあ30ml」と押してくるので、「わかってくださいよ〜」と心の中で叫ぶこともしばしばだった。
2年目に造ったワインはフレッシュさは申し分ないものの、複雑さの点で見劣りした。使用するベースワインの数が少なすぎて、レイヤーの厚みを生み出せなかった。ようやく満足できるワインに仕上がったのは4年目。しかし、5年目はまたしても納得いかない。セッションの最後には必ず、「お手本」としてクリュグの醸造チームが仕上げたその年のキュヴェを見せてくれるのだが、どんな年でもブレがなく、フレッシュで複雑味があり力強い。出るのは溜息ばかりだった。
そして6年目となる今年はいつにも増して気合を入れて臨み、参加して3年目となるソムリエの大越基裕さんと会心作を生み出すことができた。我々のワインを試飲した他のチームはグーの音も出ず、英国の女性ジャーナリストが「ねぇ、誰かさぁ、ネガティヴコメントないのぉ?」と笑い出すほど。エリックさんも「ただ一言だけ。ブラヴォー」。
このイベントに6年連続参加して理解したのは、クリュッグのアッサンブラージュはやはりひとつのアートであること。そしてグランド・キュヴェの完全無比な均整美である。これは余談になるけれど、イベント中には過去のグランド・キュヴェを味わう機会にも恵まれた。その中にはベースが96年のものや01年のものもあった。それらは多少のニュアンスの違いこそあれ、グランド・キュヴェの本質は変わらず、さらにデゴルジュマン後もしっかり熟成することを証明してみせた。それを知って以来我が家では、グランド・キュヴェをセラーに寝かせて楽しんでいる。
さて、そんなグランド・キュヴェが飲める店だが、広尾の「ア・ニュ ルトゥルヴェ・ヴー」。シェフの下野昌平さんは、「ル・ブルギニオン」のオープン時からスーシェフを務め、「トロワグロ」や「タイユヴァン」で研鑽を積み、帰国後、代官山の「ル・ジュー・ドゥ・ラシエット」のシェフに就任。取材で初めてお会いしたのはその時だったと思う。そして09年に「ア・ニュ」をオーナーシェフとしてオープンした。
ソムリエの皆月さんが、グランド・キュヴェにおすすめのひと皿は、「鮎のフリット、西瓜のソース」。「サクッと揚げた鮎の食感と、アクセントの肝のソースが、クリュッグの重厚さとミネラル感に合うと思います」とのこと。
クリュッグ・グランド・キュヴェはボトル売りのみ25,000円(税サ別)。
※柳忠之さんのスペシャルな記事『キンメリジャンがワインに何を与えるのか?~ワインマニアのためのテロワール講座その1~』はこちら
ア・ニュ ルトゥルヴェ・ヴー
- 電話番号
- 03-5422-8851
- 営業時間
- 月・水~日 ランチ 11:30~15:00 (L.O.13:30)、ディナー 18:00~23:00 (L.O.21:00)
- 定休日
- 定休日 火曜
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
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