夏に日本酒のぬる燗。
鰻の蒲焼きにぬる燗。
皮を香ばしく焼いた関西風の蒲焼きに、山椒をパラリと振りかけて箸で大きめにちぎってがぶり。そして猪口のぬる燗を一口。
その鰻の蒲焼きを細かく切ってきゅうりと三杯酢で和えた「うざく」も実に夏らしい酒肴だ。
大きく切った水茄子の浅漬けに醤油をつけ、かぶりついてぬる燗。
これもいい。
鮨もそうだが、冷酒はちょっと違うな、と思う。
このところ居酒屋や鮨屋などで「お酒、燗で」というと、店員が「はい熱燗1本」と言うのを耳にすることが多い。こういう癖はよくない。こちらは普通の燗が飲みたいのだ。
燗酒すなわち「熱燗」と思い込んでいるのか、口癖のように「熱燗で」と言う客も多い。
冬の寒い時期や風邪の時ならいざ知らず、年中それはないと思う。
ちなみに大阪梅田の名店『樽金盃』には、「ぬる燗」「燗」だけで「熱燗」というと「おまへん」と店主が答える。この白鶴金冠の樽酒オンリーの立ち呑み居酒屋には年中、熱燗はない。
そりゃ樽酒に熱燗はちょっと違うと思うのだが、この店でも呪文のように「熱燗」と注文する客が増えている。
また「銘醸酒や良い酒は必ず冷酒で」というのもどうか。
夏でも燗酒を飲むことについては、「おいしいから」「好きだから」としか言いようがない。
大阪での日本酒は鰻屋、鮨屋に限らず燗酒である。
その証左に「温酒場(おんしゅじょう)」というのがある。福島区野田に『上田温酒場』、西区九条に『白雪温酒場』が現存している。どちらも昭和一ケタあたりの創業でそろそろ百年だ。
20年通い続けなければわからないこともある、常連のためにあるもの
名居酒屋として知られる『白雪温酒場』の燗。
カウンターの端には江戸中期創業の大阪錫器の雄「錫半」(1996年に廃業)の錫のタンポ(チロリ)が20〜30個ごろんと無造作に置かれている。長年使われているぶ厚く重いタンポ。軟らかい錫製ゆえ、それぞれがそれぞれの形に変型している。
「お酒」と客が言えば「はいよ」と一升瓶からタンポに注がれる。
それを蓋付き七つ穴の湯煎燗鍋が待ち構える。熱伝導率が極めて高い錫製タンポなので数十秒で燗が出来上がる。
熱燗では絶対ない猪口一杯分がすうっと喉を流れる人肌の燗。そして味はとてもまるい。
こういう調子だから、鰻屋のみならず夏ももちろん燗酒を飲みに、おでん屋にも行く。
もちろんぬる燗が目当てだ。
神戸に住んで30年のわたしが多分、一番行ってるおでん屋は三宮の地下街にある『まめだ』。ルーツは三宮神社境内の屋台でここもそろそろ百年になる。
四角いおでん鍋は磨き込まれた銅製で、その横に超弩級の燗銅壺が組み込まれている。もうあまり見ることの少ない伝統的な燗器だ。2合サイズのタンポやぐい呑みはここも錫半のものでごつい。
この店の流石だといえるところは、おでん以外の酒肴が抜群なところだ。
鯖のきずしやハモ皮、このわた、目刺しやタラコが壁の品書きに墨で書かれている。
おでんの品書きはテーブルの小さなメニューに記入されていて値段も表記されているが、壁に墨書きされている酒肴には値段が書かれていない。
そのあたり「にやり」とさせられると同時に、そうかこれは冬だけじゃなくて、年中カウンター席に陣取る常連のためのものなのだと合点。
気づくまで20年以上かかった。
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白雪温酒場
- 電話番号
- 06-6583-0736
- 営業時間
- 17:00~23:00
- 定休日
- 定休日 日・祝
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
まめだ
- 電話番号
- 078-331-7815
- 営業時間
- 12:00〜14:00、16:00〜22:00
- 定休日
- 定休日 第1・3日曜
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
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