気温が高くなると売り上げがアップするといわれている料理のひとつに、カレーが挙げられる。辛い物を食べて汗をかくことで体温が下がり、たくさんのスパイスが食欲を増進させてくれるなど、夏バテ対策にもなる。じわじわと暑さが増してくる今日この頃だが、実は6月2日は「カレー記念日」。カレー需要期直前なこともあり、同日に今年のカレートレンドを発表するセミナーが開催された。主催のカレー総合研究所によると、2016年は「スリランカカレー」がトレンドになるという。
■そもそも、なぜ6月2日がカレー記念日?
日本のカレー文化は、一説には1859年神奈川県・横浜港の開港とともに、西洋から伝来してきたのが始まりだといわれている。その横浜港開港記念日が6月2日であるため、同日をカレー記念日にしている。制定したのは、元「横濱カレーミュージアム」責任者で、現在カレー総合研究所の代表・井上岳久さん。セミナーでは、ご本人からトレンドのスリランカカレーの特徴を解説していただいた。
■スリランカカレーヒットの背景には、日本の食文化との共通点
スリランカは、インドの南に位置する島国で、面積は北海道ほど。この国のカレーは、粘性が少ないサラサラしたカレーで、基本ライスで食べるという。スリランカでは、「タンバプハール」という脱穀する前に半茹でしたインディカ米を使用していて、粘性はなく、パラパラしている。
食べ方が特徴的で、ワンプレートの中央にライス、その周りに数種類のカレー、サラダ、付け合せを一緒に盛りつける。最初は1種類ずつ味わい、徐々に混ぜながらいただくというスタイルだ。スリランカはココナッツが栽培されているので、カレーにもココナッツオイルやココナッツの実などを使う。またインドでは、カレー粉や固形ルウを使わずに、複数のスパイスを調合させて作るのに対し、スリランカでは、スパイスとともに、カレー粉も使用するといった違いもある。他にも、甘酸っぱい味の「ゴラカ」や、甘い香りを持つハーブの「ランペ」など、スリランカ独自のスパイスも使用する。これらは魚のくさみをとったり、甘い香りをつけたりする役目がある。
井上さんは、「スリランカと日本の食文化には共通点がある」と話す。たとえば、インドではヒンドゥー教やイスラム教など、宗教により牛肉や豚肉を食べられない人が多いため、鶏肉や野菜を使うのが一般的だ。一方でスリランカは、8割が仏教徒だと言われている。そのため、宗教による制約が少なく、牛肉や豚肉なども食べられる。さらにモルジブフィッシュと呼ばれるツナの加工品(日本でいうかつお節のような食品)でだしをとったり、味付けに使われたりする文化もあるのだ。
食文化の共通点はそれだけではない。たとえば、日本には、懐石料理のようにいろいろな種類の料理を少しずつ、目で楽しみながら食べる文化がある。スリランカでも、カレーを少しずつ数種類、色彩を意識してサラダや付け合わせのメニューを構成する。日本人の料理感覚に似ているのだ。
セミナーでは、全国のスリランカカレー店を食べ歩いた井上さんが、“関東でナンバー1”と評する『紅茶屋さん』(埼玉県さいたま市)のスリランカカレーが提供された。スリランカにも視察に行った井上さんいわく、一番本場の味に近いという。
この日は、【牛肉のカレー】【ブリのカレー】【豆のカレー】【ジャガイモ】【ポルサンボーラ】【テルダーラ】【ゴーヤサラダ】【パパダン】が盛られたスリランカカレーが提供された。
スリランカでは、豆のカレーのことを「パリップ」といい、スリランカカレーの定番。必ず1種類は盛られるそうだ。ポルサンボーラとは、ココナッツを使ったふりかけのようなもので、テルダーラとは炒め物の意味を表す。パパダンは、豆の粉末を生地にしてから揚げた、スナックのようなもの。どのスリランカカレーにも中央に飾られるのが一般的で、食べる前に手で砕いてから振りかけるのがポイント。
※左上から時計回りにブリのカレー、パパダンとゴーヤサラダ、牛肉のカレー、テルダーラ
単品で食べると辛すぎたり、クセが強すぎたりする付け合わせもあるが、混ぜることで、カレーとサラダの水分などが絡み合い、マイルドになって食べやすくなる。ところどころ散りばめられたパパダンのパリパリっとした食感はアクセントに。また、混ぜながら食べるので、徐々に味が変化していき、食べ飽きることはない。ちなみに、本場のスリランカカレーは日本のものに比べてかなりスパイシーとのこと! 辛い物好きにはぜひ挑戦していただきたい。
■「スリランカカレースタイル」の盛り方も流行の兆し
スリランカカレーは2013年から大阪を中心に、西日本で人気が広がり、2015年からは、東京でも新店が続々オープンするようになった。野菜が多く摂れること、色鮮やかで写真映えすることなどから、女性の支持を得て、カフェなどの飲食店でもスリランカカレーをメニュー化する動きが見られている。スリランカのカレーにこだわらなくても、ワンプレートにお好みのカレーを数種類、ライス、サラダ、付け合わせを盛る「スリランカカレースタイル」がカフェやご家庭でもヒットするのではと予想されている。
「カレートレンドの歴史のなかで、最大級のビッグウェーブを感じている。本場スリランカカレーはスパイシー過ぎるが、辛みを調整すれば、日本の市場ではインドカレーより普及するのでは」と、井上さんは話した。
あと1ヵ月で、夏本番。今年の夏は、スリランカカレー熱で一層暑い夏となりそうだ。
(取材・文/名久井梨香)