キンメリジャンとはなにか?
これまでの通常連載からこちらへ鞍替えしたのを機会に、内容も一般ウケするシャンパーニュからもっとハードなマニア向けにと編集長から仰せつかり、“禁断の”テロワールネタに挑戦。逆に文体は「だ、である」から「です、ます」調に改め、ソフト路線狙います(苦笑)。
リニューアル第一弾は、ワインについて齧り始めたら、比較的早いうちに耳にするであろう「キンメリジャン」。地質年代ではジュラ紀後期、1億5730年(±100万年)〜1億5210年(±90万年)の地層に当たります。
この地層のワイン産地としては、シャブリが有名ですね。
キンメリジャンの名前はイングランド南部ドーセット州の村、キンメリッジに由来しています。英仏海峡を挟みフランスと対峙するこの海岸線は、ジュラシック・コートとも呼ばれ、三畳紀、ジュラ紀、白亜紀の地層が露出しており、たくさんの化石が見つかっています。2001年にはユネスコの世界遺産にも登録されました。
シャブリの畑で見られるいわゆるキンメリジャン土壌は、粘土の中にキンメリッジの石灰岩が混ざった土壌です。石灰岩の多くはウミユリやサンゴなどの海洋生物の殻が堆積して出来たもの。つまり大昔は海底だったことを意味します。シャブリのキンメリジャン土壌の場合、この石灰岩にエグゾジラ・ヴィルギュラ(Exogyra Virgula)と呼ばれる小さな牡蠣の仲間の化石が含まれているのが特長です。
昔からよく試される「生牡蠣にシャブリ」というテッパンのマリアージュも、この土壌なら説明がつく…と言いたいところですが、土壌の成分が直接ブドウに取り込まれ、ワインの風味に影響を及ぼすことはないと言われているので、生牡蠣にシャブリはあくまで歴史上のロマンスでしかないのかもしれません。
失われたシャブリの掟?
ところでシャブリには畑の優劣により、7つのグラン・クリュ(特級畑)と40のプルミエ・クリュ(一級畑)があります。今年遅霜の大被害を受けたシャブリは、ブルゴーニュ地方でも寒冷な土地柄。日当たりの良さは大きなポイントで、グラン・クリュは概ね真南を向いた急斜面に位置します。
今から5年ほど前の冬、雪の降り積もるシャブリを取材した時のことです。前日の大雪から一転して晴れ渡ったある日の午後、真っ先に雪が溶け、ブドウ畑の表面が露わになっていたのはグラン・クリュの丘でした。
真南を向くグラン・クリュに対してプルミエ・クリュは南東や南西向き、それ以外の方角を向いた斜面が「並みシャブリ」の畑になります。
シャブリにはもうひとつ、プティ・シャブリというAOCがありますが、プティ・シャブリの畑はキンメリジャンよりも一世代新しいチトニアン(昔はポートランディアンと言ってました)。じつはシャブリでも北部マリニー村のあたりはチトニアン土壌で、戦後二度にわたってシャブリの範囲が広げられた際に、シャブリ=キンメリジャンの掟が破られてしまったのです。
話を斜面の向きに戻すと、グラン・クリュのある真南の斜面が必ずしも最良ではないと主張する造り手がいます。
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