NYで日本酒ペアリングを成功させたソムリエと料理人の店が麻布十番にオープン!
2014年から始まった獺祭フィーバーで、5〜6年前からジワジワきていた日本酒がとうとう脚光を浴びた。新政や菊水、大嶺などいくつもの酒造が出した、一見日本酒とは思えないほどおしゃれなボトルやラベルが若い女子のハートをガッツリつかみ、日本酒はいまやおやじの飲み物ではなくなった。女性がひとりで行ける日本酒バーも増え、フレンチやイタリアン、中華でも日本酒をペアリングするようになっている。にもかかわらず、日本酒のことってあまりよくわからない人が多いのではないだろうか。
フランスワインのようにA.O.C(原産地統制呼称)がなく、「あらばしり」だの「なかどり」だの搾る段階の名称や「しぼりたて」や「ひやおろし」とか呼称が違ったりするので正直さっぱり。「生酒」と言われても何が生なの?と。それなら料理に合わせてペアリングすればわかりやすいはず。そんな店はないかと探していたところで見つけたのが『赤星とくまがい』である。
その名のとおりソムリエの赤星慶太氏と、シェフの熊谷道広氏の店だ。ワインエキスパート、シニアソムリエ、利酒師の資格を持つ赤星氏は地酒インポーターとしてNYに渡った時に、日本人でありながら日本酒の知識があまりになく恥ずかしい思いを何度もした。このままではいけないと一念発起、酒蔵で働き、日本酒を飲み続けた。この経験がものをいい地酒プロモーションやコンサルティングの仕事をしながら2009年にミッドタウンで『Sake Bar KIRAKUYA』をプロデュース。
折しもNYはペアリング大ブーム、ブルックリンで日本食レストランの料理長だった熊谷氏と出会い、一緒に日本酒ペアリングを始め、店は大繁盛。3店舗成功させるに至った。赤星氏の日本酒セミナーは常に予約待ちになるほど大人気だったという。この事業を今度は日本でと思い熊谷氏とともに帰国、2015年に麻布十番にオープンさせた。
NY帰りとあってか店内はとてもスタイリッシュ。エントランスの正面には欧米人が興味をもちそうな日本酒の銘柄をデザインした大きなパネル。食器やテーブルセッティングも和を感じるモダンテイスト。ラストオーダーは午前2時。0次会から3次会まで対応でき、これはかなり重宝しそうな店だ。
“酸”を利き分けて最高のペアリングをうみだす
さて、こちらの日本酒と料理のペアリングはどんなものなのかを紹介していこう。まずは「桃と水牛とモッツァレラのサラダ」。定番のこのメニューは季節によってフルーツが変わる。
いまの時期は桃。桃の甘みにバルサミコの酸味、ミントやハーブ、すだちの香りが食欲をそそる。あわせたのは老舗でありながら斬新な酒を作る秋田の新政酒造の「亜麻猫(あまねこ)」。
甘みと酸味との相乗効果を狙ってお互いのうまみを引き出すあわせ方。フルーツを料理に使うと嫌がる男性客でもこれならイケるらしい。選んだ日本酒によって苦手な食材がおいしいと言ってもらえる、これぞペアリングの醍醐味と赤星氏。
次はソースが格別な魚料理。「スズキのポワレ とうもろこしのソース」は、ソースにしたとうもろこしと小玉ネギの甘さが、ふわりと焼いたスズキに絡まり、その優しい味に思わずニンマリしてしまう。
新潟の村祐酒造「花越路(はなこしじ)/大吟醸」は東京で手に入れづらい地元銘柄。味がほぼ似通っている「村祐」なら都内でも出回っているのでこちらは知っている人も多いはず。乳酸が高くヨーグルトのような風味をもつ。とうもろこしの甘みやクリーム感と同化させるペアリング。
焼いた香ばしさがクセになる「徳島産地鶏ささみと焼き九条ネギのサラダ」には福井・南部酒造場の「花垣/純米大吟醸」でスモークペアリング。
コクがあり、酸味、うまみ、辛み、深みとバランスが取れた酒だ。炭火で炙ったような香りが、焼いた九条ネギと地鶏にマッチする。それにしてもこのサラダ、九条ネギの甘みやトレビスのえぐみ、芥子菜の辛み、地鶏の香りなどいろいろな味が交錯している。
「九条ネギは油に漬け込んでから焼きます。そうすると炭火焼のようになるんです。地鶏はたくさんの生姜と香味野菜を入れた醤油に漬け込んでから焼いています」と熊谷シェフ。味の変化を楽しむ料理に寄り添うバランスのとれた酒、つなぎ役は香り。このペアリングもおもしろい。
口に入れた瞬間、おぉ!っと感嘆してしまったハツのタタキ。ほぼレアにもかかわらず臭みゼロ、ほんのり温かく、歯切れが良い。鶏じゃなさそうだし、これはいったい…?
「北海道北見の蝦夷鹿で生でも良いくらいですが少し炙ってます」と熊谷シェフが教えてくれた。赤ワインとバルサミコのソース、大根おろしにミョウガ、ミツバ、ニンニク、ポン酢を和えてトッピング。おいしさに笑顔がほころぶ。あわせたのは新潟・高の井酒造の「伊乎乃(いおの)/純米吟醸」。舌の上でちょっぴりピリっとする酸の強さが蝦夷鹿の味を覆い包み込んでいく斬新なあわせ方だ。
ペアリングの決め手は“酸”なのだと言う赤星氏。ソムリエスクール時代から乳酸、酢酸、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸の利き分けを徹底的に叩き込まれた。料理にも酒にも必ず酸があり、同じものをあわせたり、逆のものをあわせたりすることで最高のペアリングができるそうだ。
ここに紹介するのが赤星氏がいま、おすすめする4本。
左から順に説明していこう。和歌山・名手酒造店の「雄町・黒牛」は雄町米を100%使用したバランスが良い酒。“瓶燗急冷”とは瓶詰した無濾過の原酒を1度火入れして急冷したもので「黒牛」の中でもなめらかで余韻が続く。島根・王録酒造の「超 王禄」。辛口でありながら濃厚、さすがの貫禄といえる人気の酒だ。淡路島・都美人酒造の「都美人 ラファール」。「ラファール」はフランス語で「突風」という意味のこちらは夏酒らしさをパッと出しており、日本酒好きにはたまらないだろう。そして福井・伊藤酒造の「越の鷹」はこの店にしか置いていない純米大吟醸。12本のみの超貴重な生酒である。
まだ何の料理にあわせるか考えていないそうだ。どうだろう、店で料理を選んでみては。“酸”を利き分けペアリングを制す!
知っているようで意外に知らない!? 奥深き日本酒の世界
こうやってペアリングをしてみると日本酒について知らないことだらけだと痛烈に思う。まずは日本酒の素晴らしさである。材料も厳選していて山田錦にいたってはコシヒカリより何倍も高価だ。杜氏をはじめ熟練した職人たちが手間ひまかけて造りあげる。ヴィンテージワインは何十万もするのに、日本酒は何千円の世界。もっと日本酒の価値があがっても良さそうなものだ。
ところで日本酒の保存方法はご存知だろうか。冷蔵庫に入れておけば大丈夫くらいに思っていたのだが、ワインと同じように光や振動に弱いそうだ。0〜5℃で保存するのが望ましいが、冷蔵庫の開閉時の振動や温度変化を考えたら常温で動かさなくてすむ場所の方が良い、と赤星氏。また、何年も寝かせると面白いものができたりするのだが、これがまたワインと違い情報がなさすぎてまだ一か八かの賭けみたいなものなのだそう。
そういえば昔は特急、一級、二級って分けていたはずだが、いつのまにか大吟醸、純米吟醸、純米酒などに変わっている。山田錦と書いてあっても本当にその米だけを使っているのは「全量」と明記されているものだけとか。
この店にいると聞くに聞けなかったことや知らなかったことが解明され、日本酒の奥深さに驚くばかり。さらにここには常に250銘柄以上おいてあるので、自分の五感で理解できるのが楽しいではないか。おまけに日本酒だけでなくワイン、焼酎も充実しているので、飽きることなく通える店である。
(メニュー)
桃と水牛のモッツァレラのサラダ/1,300円
本日の鮮魚のポワレ とうもろこしのソース/2,500円
徳島産 地鶏ササミと焼き九条ネギのサラダ/1,200円
北見蝦夷鹿ハツのタタキ 山わさびのソースで/1,780円
熊谷のおまかせコース(7品)/7,500円
超王禄 純米 無濾過本生 2015/グラス 1,300円
亜麻猫/グラス 1,000円
赤星の日本酒ペアリング(6種)/3,500円
※価格すべて税別
赤星とくまがい
- 電話番号
- 050-5785-2997
- 営業時間
- 18:00~翌2:00(L.O.2:00、ドリンクL.O.2:00)
- 定休日
- 定休日 日・祝
- 公式サイト
- http://akakuma-sake.com
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。