京都の街が愛される理由は「街も店も思い通りになるようではつまらない」という真理にある

【連載】正しい店とのつきあい方。 店や街とのつきあい方がわからない人が増えている。初めてなのに常連と同じように扱われないと怒る人や金さえ払えば何でもしてくれると思う人。お客様は神様、などではない。客としてのあり方を街と店に深い考察を持つ江弘毅氏が語る。

2016年07月19日
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京都の街が愛される理由は「街も店も思い通りになるようではつまらない」という真理にある
Summary
1.納涼床の愉しみ方とは?
2.日常の「床」はビア・ガーデンやテラス付きのカフェのような気安さ
3.京都ならではの「規制」が生む京都らしさ

梅雨があけて、京都鴨川べりの「床(ゆか)」の本格的な季節になってきた。

今なおお茶屋や料理屋が並び、舞妓や芸妓の姿を目にする花街の先斗町。その東側、鴨川に面する飲食店が、毎年5〜9月に鴨川に張り出すように出される「納涼床」がそれである。

鴨川の床の歴史は古く、上方文化が花開いた元禄年間(1700年頃)にはすでに出され、賑わいを見せていたという記録がある。

鴨川の「床」と並び、北山の渓流・貴船川の「川床(かわどこ)」もある。「床」そして「川床」との呼び方の区別が京都ならではで面白い。

わたしは中京に住む友人が何人もいて、鴨川の床にはよく行っている。

予約をして鮎や鱧料理のコースを楽しむのが観光客だが、彼らにとってはうだるように暑い京都の夏、その気軽なナイトライフの楽しみとして「Tシャツに着替えて先斗町に出る」ような使い方をしている。

なるほど床は二条大橋から五条大橋の間に約100軒あって、大層な料理店ばかりではなく、洋食や焼肉、串カツ店にカウンターバーまである。

もちろん地元民である彼らも他所からのお客さんを呼んだりする場合は、予約を入れて大いに京の風物詩を振るまうが、普段はそのような店をチョイスしない。
ビア・ガーデンやテラス付きのカフェのような感覚である。

といってもそこはさすが先斗町、床ではBGMや音楽ライブ、カラオケは禁止。
照明もネオンサインや看板、広告類は一切NG。町家の裏、鴨川の上に設置した床は、丸提灯と控え目な照明だけの下、料理と酒を楽しみながら東山と鴨川が織り成す昔ながらの京都を涼むのである。

店もそれぞれで客もそれぞれだが対岸の東山側から見ると、ぼーと床が浮かび上がるシーンは、まさしく京都の風景そのものだ。
それもこれも音や照明、デザインなどの「規制」があるからだ。

また普段の店内は床の季節になるとガラガラ。むしろ床よりも空調が行き届いていて涼しいぐらいなのだが、これは急に雨が降ってきた場合に床に出ていた客が室内に逃げてくるので空けているとのこと。

このあたりも各店舗、形態やジャンルが違えどもルール化されていて、京のおもてなしの奥行きを感じさせられる。

京都鴨川の納涼床。
「百練先斗町店」は地元客で人気の床だが、「居酒屋・食堂」という位置づけで席料もなし。
「店とは何か」をいろいろと考えさせられる良質極まりない店である。

※江弘毅さんのスペシャルな記事『店づきあいの倫理学』はこちら

先斗町 百練(ポントチョウ ヒャクレン)

住所
〒604-8003 京都市中京区先斗町通三条下ル橋下町133-1 エメラルド会館 1F
電話番号
075-255-4755
営業時間
17:00〜23:00
定休日
無休
公式サイト
http://pontocho-hyakuren.com/

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。