アミューズから早くもノックアウト寸前の絶品料理たち
アイボリーを基調に気品ある落ち着いた空間、席につくと自然に背筋がピンと伸びる。心地よいのだがフレンチレストランに来たという高揚感がそうさせるのかもしれない。
「食前酒はいかがですか?」という支配人の優しく丁寧な声にまずはグラスでシャンパンをいただく。ディナーのコースは2つ、10皿から成る「喜び」と12皿の「感謝」。今回は「喜び」をオーダーすることに。ナプキンを取るとウッドのサービスプレートに刻印された“一皿一皿に喜びと感謝を込めて…”の言葉。これから提供される料理の真髄なのだろうか。料理はアペリティフアミューズ、アミューズブーシュ、前菜2品、スープ、魚、肉、デザート2品、小菓子の10皿だが、ポーションが少なめなのでちょうどお腹がいっぱいになるくらいである。
この当日はブータンノワールとりんごのミニミニバーガーからスタート。ひと口サイズなのにしっかりと味のバランスを考えて作られている。続くトウモロコシを丸ごと使って3層にしたカクテルとタルトは、素材の持つ自然の甘さがこれでもかと感じる逸品。アミューズでおいしさの先制パンチをいただき、かなりフラフラである。
食材と向き合って最高の料理法を見つける、そういう料理人でありたい
前菜の「アオリイカと佐土原ナスのショーフロワ 赤紫蘇の香り」、炙った佐土原ナスがなんと香ばしいことか。その香りの余韻とともにベーコンや昆布で煮込んだソースのふくよかな味が広がる。しっとりとやわらかいアオリイカ、とろんとしたナス、ハーブ、野菜、エディブルフラワーで可愛らしく華やかな皿となり気分はすでにMAX状態。
もうひとつの前菜は鮎をすべて使い、半身のピラフ、肝のクロケットなど4つの料理にした。頭やヒレはカリカリに揚げたりと、それぞれがこれ以上ないのではと思わせる手法をこらす。
そして「スープ ド ポワソン “ラ クレリエール”」が登場。柴田秀之オーナーシェフ自らスープを注いでくれる。これは素晴らしい! 何だろう、この懐かしいというかホッとするというか、あまりのおいしさにシェフを引き止めてしまった。なんと、宮崎の冷汁をイメージして、味噌を入れているという。
「フレンチの基本は踏襲していますが“最後のひとさじ”を考えて味を決めているので僕のオリジナルになっていると思います。味噌は日本人の心に訴えかけるので非常に馴染みやすいのでは?」と。こんな味の秘密を書いたら他のお店にも真似されませんか、と言うと「料理人は真似されてなんぼです、真似されたらまたよりおいしいものを作ればいいだけです」と柴田シェフ。きっと今までコツコツと積み上げてきた経験と実績が自信につながっているのだろう。
料理人には2通りのタイプがいると言う。“アーティストタイプ”は自分の目指す料理のために食材を集め、一方の“料理人タイプ”は目の前にある食材を料理する。柴田シェフは後者でありたいと食材にとことん向きあっている。食材の良さを引き出し、使ってもらえて良かったと生産者が思ってくれる料理人でありたいのだと。
その心意気がメインの「高知県産 夏鹿のパイ包み ポワブラード」に表現されていた。
高知の夏鹿とは初めての出逢いだが、ベストの料理法はパイ包みだと言い切る。食べてみたところ蝦夷鹿と同じように扱ったらこの鹿の良さはまったく伝わらないと感じ、その繊細な味を引き出せる火入れに変えたという。「目をつぶって食べたら仔牛ですよ、だから仔牛と思って料理すれば答えは出ます」とシェフ。
ひと品目のデザート「ヌガーグラッセ ショコラフォンデュ」がまた楽しませてくれた。キャラメリゼしたクルミ、プルーン、イチジクなど7-8種類のドライフルーツをヌガーアイスにして、パッションフルーツのピューレと一緒に溶かしたWeissのショコラをフォンデュする。この組み合わせがなかったわけではないが、これが最高の料理法だと思わせてくれた。
オーナーシェフのフィロソフィーとは?
柴田シェフは料理人としてのアイデンティティーが確立している。自身が何が得意で何が不得意か客観的に鋭く分析できていて、どういう料理人でいたいかがハッキリ見えている。だからオーナーシェフになったいま、迷う事なく目指す料理道を突き進んでいるのだ。
食材に対して一方でしかアプローチできない料理人ではいたくないとキッパリ。
出逢ったことのなかった食材と向き合うのも楽しさのひとつであるという。食べた瞬間にひらめくこともあるが、見つからない時は何度も試食が続く。「それはもうハンパないですよ」とシェフ。それでも挑戦することは料理人の感性を磨くことだと面白がる。この気持ちがなくなったら料理人を辞めますと言うシェフの目の輝きに引き込まれた。
すべては縁とタイミング。初めての修業先は恵比寿『レストラン モナリザ』、そして最後もまた同じ場所だった。辞めるまでに1年かかったが、店は2日で決まった。『モナリザ』の先輩から譲り受けたのだ。
『ラ クレリエール』の料理は『モナリザ』らしくないとよく言われるそうだ。シェフは意外だという。なぜなら常に、彼の料理の師匠・河野透氏がいつも見ていると思いながら料理しているからである。今の柴田シェフを支えているのは2つ。1つは師匠である河野氏に恥ずかしいことはしたくないと、どんな些細なことも決して手を抜かないこと。2つめは19歳の自分がいまの自分をみて憧れるかどうかを考えて料理をしていることである。日仏の修業先で確かなフレンチを身につけ、いままた新たに独自の世界を切り開いた柴田シェフ。彼の料理からしばらく目が離せない。
(メニュー)
ランチコース/大地(全8皿) 3,800円、 光(全10皿) 5,500円、木々(全12皿)8,000円
ディナーコース/喜び(全10皿)6,800円、感謝(全12皿)10,000円
※税・サービス料別
ラ クレリエール
- 電話番号
- 050-5487-3921
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
- 営業時間
- 月~水・金~日
ランチ 12:00~15:00
(L.O.13:00)
ディナー 18:30~23:00
(L.O.20:00)
- 定休日
- 木曜日
2018年8月23日より木曜定休日。
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。