ちょっと散歩してお腹をすかせてからの夕ご飯。
これが一番おいしくごはんを食べる秘訣だろう。
お店にすぐ行くんじゃなくて、お店の近くの隠れた名所を歩いてから食べましょう。
というのが私の提言だ。
知られざる色っぽい地形が沢山ある。
知られざる歴史が埋もれている。
知られざるお店のおいしいメニューがある。
いや、
知ってる人は知ってるだろうが、まあおススメを紹介させていただこう。
第一回目の場所は恵比寿だ。
代官山と言ってもいいし中目黒とも言える。
中目黒駅からでも代官山駅からでも恵比寿駅からでも行ける。
歩くのが異常に好きならば自宅から歩いてもいいだろうw
歩き散らすのが散歩だ。勝手気のまま好きなように歩けばよい。
さて、今回の知られざる名所は5箇所
1.猿楽塚古墳
2.目黒富士(目黒元富士、目黒元不二)
3.目黒新富士と別所坂
4.三田用水
5.目黒の崖
これは明治時代の地図を私が作り直したものだ。
まだ、代官山駅がないが、恵比寿駅はある。(ゑびす駅という名前で)
下は現在の地図だ。
1.猿楽塚古墳は地図の左上にある
この古墳、今でも残っている。
「ええええ、こんな都会に古墳が残っているなんて!信じられない」
とリアクションしていただければ嬉しい。「知られざる名所でしょ」って言えるw
行ってみると、笑う。
かなり小規模だ。でも、都会の片隅に残されてるそのかわいさに思わず「かわいい」と心動かされてしまう。
行ってみる価値はあると思う。古墳の頂上が小さい神社になってる。
「縄文時代の古墳が残ってるんだ。へーっ」ってくらいの反応でいいだろう。
散歩のちょっとした楽しみには十分だ。
2.目黒富士(目黒元富士、目黒元不二)は地図の左のその下(南)にあった
そう、今はマンションになってしまってその姿はない。
地形散歩の楽しみの一つは、今はなき昔の姿を頭の中で想像することにある。
熟練になると、その場所に昔の情景が見えてくるようになるのだ。
まあ自分は漫画家なのでその能力は高いが普通の人も訓練で昔の情景が浮かぶようになる。そうなれば、かなり地形散歩が楽しくなる。
今を散歩しているのに、はるか昔にタイムスリップすることが出来るのである。
それが難しい初心者のための絵がある。
(画像は国立国会図書館ウェブサイトより)
これが目黒富士(目黒元富士、目黒元不二)の絵だ。
安藤広重が幕末に描いた浮世絵「目黒元不二」だ。
この場所に立って西を見ると富士山が見えた。
白いのが本物の富士山で手前の緑の山が目黒元富士だ。
じつは、江戸時代、富士山の見えるところにミニチュアの富士山を作るのが流行った。その人工の富士山を「富士塚」と呼んだ。
今でも残っている富士塚は存在するが、殆どが壊されてしまった。
ここにあった富士塚も今はもうない。
が、どうやら、明治時代の地図には記載されているところをみると明治にはまだあったようだ。江戸時代は山岳信仰があったが、女子供は山に登っていけないという規則があったため、疑似富士山を作りそれに登る事でご利益(りやく)があるという民間信仰だったそうだ。富士山から実際に岩を採ってきて作り上げた富士塚も少なくなかった。
ああ、ここにあったんだなあ。と想像するのが楽しい。
中目黒駅と線路とトンネルが見えるので、鉄道ファンは楽しい場所かもしれない。
3.目黒新富士は、目黒元富士から南にあった
今はもうない。
(画像は国立国会図書館ウェブサイトより)
これが、目黒新富士の絵だ。(目黒新富士)
これも安藤広重の手による浮世絵だ。
さっきの目黒元富士よりデカい富士塚を作ってしまったのだ。
この目黒新富士のあった所には今はマンションが立っている。
マンションには入れないが、この場所は公園になっていてこの公園からの景色はなかなか良い。公園には、目黒新富士があったのだ。とか書いてある看板が立っている。
目黒新富士の横にはとてつもなく急な坂がある。今でもその坂はある。
別所坂だ。
この急な別所坂(頂上付近は階段なのでクルマでは通過出来ない)の下から新富士があったであろう場所を見上げ、そこに新富士が存在した当時の風景を想像すると、たしかにちょっとした富士山があってなかなかの姿だったと感動できるような気がする。まあ、「こんなデカい人工の山があったとは」と驚くだけで十分だ。
4.三田用水
そしてこの絵の中で富士塚の横をながれるのは三田用水だ。
これは大正から昭和初期の地図をリメイクした地図だ。
この地図を見ると、きちんと目黒新富士が等高線で描かれていて横を三田用水が流れていることがわかる。昭和初期までは、この浮世絵に近い風景があったのだろう。
この地図のポイントは代官山駅があるというところだ。
この地図の左上から中央下に流れている人工の川が三田用水だ。
玉川上水の支流が三田用水でもともとは多摩川中流からの水をひいている。
江戸時代中期に作られたこの水道は高輪あたりまで水を供給していたが、昭和中期まで実際に使われていた。
今は使われていないが、この三田用水の流路を探りながら散歩するのも楽しい。
昔あった水道橋はどこにあったのだろう。とか。
妙に川幅の細長い土地があるここは、三田用水の名残なんじゃないかとか。
結講その残り香が楽しい。目黒元富士と目黒新富士の間の流路探索散歩は結構楽しい。
5.目黒の崖
そしてこの三田用水の流れていたすぐ西側は目黒の崖だ。
この崖は凄い崖だが、今はマンションが立っているし道がなだらかになっているためあまりわからなくなってしまっている。
別所坂を上り下りするとその崖の険しさが少しは実感できるだろう。
また、三田用水の流路を探りながら散歩すると三田用水の向こう側に目黒の崖を実感出来る場所を見つける事も可能だ。
中目黒駅から目黒元富士の下のトンネルあたりを見るとその崖を実感できるかもしれない。
私のおススメの場所以外も明治は大正昭和の地図を見ながら昔あった道や地形に思いを馳せながら歩くと、この近辺は非常に楽しい散歩エリアだとわかると思うので、是非、ヒマな時は散策してみてほしい。
まあ、そんなこんなしながらダラダラと散歩して、目黒新富士から恵比寿駅方向に降りていき、恵比寿駅の手前あたりにさしかかると今回紹介するお店『酒彩蕎麦 初代』がある。
恵比寿のそば屋『酒彩蕎麦 初代』
ここはそば屋である。
なのに今カレーうどんが話題になり若者に大人気だ。
そう「初代の白いカレーうどん」(1100円:税抜)だ。
白いふわふわしたものはジャガイモのムースでその下にうどんとカレーが隠れている。このカレーうどんを食べる為に若者たちが並んでいる。慥かにおいしい。自分もたまに食べる。
だが、実はうどんはこのカレーうどんより、冷たい「明太子うどん」(900円:税抜)のほうがうまいのだ。(江川の主観)
やっぱり。うどんはコシだ。
大阪のうどんより四国のうどんの方が好きだ。
「へな」っとなったうどんより、「びしっ」と歯ごたえのあるうどんの方がうどんを食べたという実感がある。しかも、冷たいうどんのほうが好きなのだ。
自分としてはカレーうどんよりこの明太子うどん(冷たい方)がおススメなのだ。
いや、もっとおススメがある。
この『酒彩蕎麦 初代』という店は「うどん屋」ではない。
「そば屋」なのである。
実は。と言うのもバカバカしいが、実は、うどんよりそばがうまいのである。
カレーうどんが有名になる遥か前から私はこのお店に
「そばを食べに夜中、毎日、来ていた」
この店の営業時間は、午後5時から朝4時までだ。
当時、夜型の私にとって、最高の営業時間だった。
そして、私は「そば好き」だ。
33年前、名古屋から東京に来て、あまりに東京の「そば」がうまいのに感動した。
それ以来、そば好きだ。
渋谷区に引っ越して来たのは、16年前だが、その前16年くらい住んでいた吉祥寺にいた頃は、家の近所のそば屋に毎日通ってそばを食べていた。
渋谷区に引っ越して来て、ここのそばを発見した時は嬉しかった。
ということで、毎日そばを食べに来ていた。
今は、カレーうどんのお客さんが並んでいるのと、夜型じゃなくなって来たので、あまり来ないが、やはり並んでも食べたくなるうまいそばだ。
しかし、若者が並んでいるのはカレーうどん。オレは、そば。なにか変な気がする。お店の人に別にカレーうどん屋をやればいいのに。とは、提案しているw
これが『酒彩蕎麦 初代』の「そば切り」(750円:税別)だ。
凄くうまい。これでたったの(750円:税別)。安い。安すぎる。
毎回、2枚は食べてしまう。
ここのそばは、そば自体がうまい。
最初は、何もつけないでそばの味だけを楽しむ。
ひとりでお店に来ると、まず、そば切りを注文する。
他の食べものを食べると、口に他の食べ物の強い味が残ってそばの味を楽しめないからだ。他の食べ物は後から注文して食べる。
天ぷらそばなどというものは邪道である。
天ぷらのような強い味のものを食べてしまったらそばの味は味わえない。
天ぷらはそばを食べた後に注文して食べるのが正しい道だと思ってはいるが誰かと来た時は、相手にあわす程度の柔らかいこだわりでしかない。
散歩した後、お店に入り、水を飲みながら、そば切りを待つ。
そば切りが来る前に山葵(わさび)が来る。
山葵をすりながらそば切りを待つ。
私は山葵が大好きだ。日本人に生まれてよかったなあ。と思う時は山葵を食べている時だ。そう、私は山葵だけ食べる時もある。山葵は何かにつけるものではなく、それだけでおいしい刺激的な食べ物だと思う。(哀しい事に山葵も当たり外れがある)
山葵をぐるぐる回しながら摺ってると、そば切りが来る。
まずは何もつけずに食べる。水を飲む。まあ、水でそばを食べる感じか。
そばの味が空腹の口に広がる。そばのコシが口の中で踊る。
「うまい」
その次は山葵だけをつけてそばを食べる。
山葵とそばの味が解け合ってなんともいえない世界を作りあげるのだ。
つ~んと鼻に刺激が抜ける。これだ。これが日本の伝統的な快感なのだ。
と山葵を実感する。
水を飲み、山葵の味を消したところで、塩で食べる。
塩をほんの少しつけて食べる。これまた、違う美味しさだ。
塩味がそばの味をひきたてて、何とも言えないまろやかさだ。
塩はこんなに種類がある。
種類があるが、オレは今に至っても、どの塩がどういいのか、よくわからない。
やはり、そんなに塩では食べてないからだろう。
主に、何もつけないか、水で食べるか、山葵で食べるからだろう。
私は酒を飲まない。飲んでも日本酒くらいだ。
日本酒につけてそばを食べるというのもたまにする。
これもまたうまい。
このお店には、「初代」(730円:税別)という日本酒がおいてある。
竹の筒に入って出てくる。
日本酒好きな人は日本酒でそばを食べるのもおススメだ。
散々、そばをいろんなカタチで味わった後は、普通にツユをつけて食べる。
しかし、ツユもあまり沢山つけるもんんじゃない。
下の方にちょっとつけて、ツルツルっと食べる。
最初そばだけの味がだんだんツユの味に口の中で変化していく。
この変化が楽しいのだ。この変化のどこか一点に最も自分にピッタリの味がある。
その味を記憶するのである。その時の体調やそれまでの口の状態で、ベストな味の一点は変わっていく。しかし、変化するから、どこかにはそのベストがある。
ああ、細かい。たった700円のそばでこんなに細かいこと言うのもなんではあるが、本当にそばは、細かく楽しめる。
そばの締めは、そば湯だ。
ツユをあまり使わず温存しているので、そば湯を堪能しまくれるのである。
ツユとそば湯を混ぜて飲む。
うう。なんという芳醇な飲み物なのだろう。
外国のスープにこれ以上のスープがあるだろうかw
そば切りだけでは、お腹が一杯にならない胃袋もこのそば湯で満たせば、満足するのである。
700円でここまで、堪能できる食べ物が他にあるだろうか。
最高だ。
毎晩こんな調子でそばを楽しんでいたら、お店の人が寄って来て、話をふってきた。
「どうです、今日のそばは」
そば通に見られてしまったのだ。
話を聞くと相当なこだわりを持ってそばを打っているようだ。
日々いろんな工夫をしているそうである。
作り手のこだわりがお客に受ける時は幸せだ。
それは、漫画の世界でも言える。
私の経験では、漫画の世界では、私のこだわりは受けたところもあるが、受けなかったことが大半だった。やはり、どの世界でも、努力やこだわりが受けることもあれば、受けない事もある。
カレーうどんを食べに来るお客さんの前で、こだわりのそばを打ち続ける姿に自分も感情移入してしまう。
「今度は、カレーうどんじゃなくて、そば、食えよ」と私は心の中でカレーうどんを食べている若者に叫んでしまうのだ。
見ろ。この山葵を。
この山葵はカレーうどんのためになんか置いてないんだぞおおおおお。
まあ、『酒彩蕎麦 初代』のカレーうどんはうまいけどね。
うまいのはそばやうどんだけじゃなく、おつまみもうまい。
1人で行く時は、そばを食べてから注文する。
酒も飲まず、そば湯か水を飲みながらおつまみを食べる。
私の一番のおススメはこの、「あぶり海苔とアボガド刺し」(650円:税別)だ。
海苔が入ってる木の箱の下の部分の中に小さい青い炎が見える。
常に海苔が炙られてぱりぱりで美味しい状態になっているのだ。
そして、その炙り海苔の上に冷えたアボガドを乗せて山葵をたっぷりつけて(たっぷりじゃなくてもいいが)自分で手巻きして、醤油で食べる。
海苔のぱりぱり感。
山葵のピリっと感。
アボガドのぬっとり感。
醤油のさっぱり感。
それぞれの素材が一番いい状態で、一つになって口の中でひろがる。
シンプルだが、なかなかうまい。
二位は、「焼きなすのジュレ」(580円:税別)
三位は、「ズワイ蟹の冷製湯葉包み」(750円:税別)
四位は、「白魚揚」(480円:税別)
五位は、「砂肝の唐揚さっぱり仕立て」(650円:税別)
まあ、他の料理も全部食べたけど、みんな美味しかった。
ということで、いい散歩にいい晩ご飯を食べて、腹ごなしにまた散歩して昔の地図と今の地図を比較しながら、昔からあった道、なかった道の違いを楽しみながら、昔、川だったところを見つけながら、(谷の一番低いところを川は流れてました。雨の日は特に水が集まる所が昔の川なのでよくわかる)家に帰る。
という週末もいいのではないでしょうか。
<メニュー>
・初代の白いカレーうどん 1,100円
・明太子うどん 900円
・そば切り 750円
・初代(日本酒) 730円
・あぶり海苔とアボガド刺し 650円
・焼きなすのジュレ 580円
・ズワイ蟹の冷製湯葉包み 750円
・白魚揚 480円
・砂肝の唐揚さっぱり仕立て 650円
※価格はすべて税抜
酒彩蕎麦 初代
- 電話番号
- 03-3714-7733
- 営業時間
- 月~土 17:00~翌4:00(L.O.3:00) 日・祝日 17:00~翌1:00(L.O.24:00)(※3連休の場合は、最終日が翌1:00までになります。)
- 定休日
- 定休日 無
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