うどん発祥の地として有力とされる土地のひとつに「博多」が挙げられる。
1241(仁治2)年、臨済宗の僧・聖一国師が宋から博多へ持ち帰った製粉技術により生まれたとされるうどん。地元民にとってのソウルフード、「博多うどん」を特徴づける柔らかさには、忙しい商人の街であったゆえ、店が茹で置きして時短を図ったという背景がある。老舗の一つ『みやけうどん』(博多区呉服町)ではわずか20秒ほどで提供されるなど、ファストフードとしての顔も色濃く残る博多うどん界に今、新たな動きが見られる。
8月2日(火)、恵比寿(東京都渋谷区)に開店した『博多うどん酒場 イチカバチカ』(以下、イチカバチカ)。
同店を手がけるのは、『一風堂』で知られる株式会社力の源ホールディングス傘下で飲食店のプランニングや各種コンサルティングを行う、株式会社力の源パートナーズと老舗精肉店にルーツを持ち、『焼とりの八兵衛』などを運営する有限会社肉のやしまだ。
福岡市に拠点を置く両社のコラボにより、酢モツやおきゅうと、豚バラといった博多の定番つまみに〆の博多うどんと、博多っ子のリアルな食文化を供する“うどん居酒屋”が実現した。
かけつゆに光る『一風堂』らしさ
博多でしか使われない言葉のひとつに「スメ」がある。つゆを指すこの言葉は、一説では江戸時代に中国・福建省から来日したある僧が伝えた精進料理における澄汁をスメと発音することに由来するという。
『イチカバチカ』では、そのスメの作り方が実にユニーク。みりんや淡口醤油からなる元ダレにホタテ貝柱やサバ節、焼きスルメ、そして博多うどんに欠かせないアゴ(トビウオ)から引いた黄金色のだしを注ぐ“ラーメン式”で提供する。酒との好相性を見込んだ力強い味わいに、魚介の輪郭がくっきりと立つ。
丼の中で悠々と浮かぶは、スメを吸い、ふんわりと膨らんだ茹で置き麺。福岡県産小麦「ニシホナミ」の粘性の高さを活かし、噛めば柔い(やおい)が中心にもっちりとした粘りを感じる仕上がりだ。うどん類は博多で定番のゴボウ天うどんや丸天うどんのほか、冷やしうろん(冷し中華のうどん版)など計10種類。
うどん屋からうどん居酒屋へ
実は、こうしたうどん居酒屋という業態はすでに福岡市内では定着しており、たとえば『唄う稲穂』や『ゆうのや』、『麦衛門』、『うどん大學』など、酒肴とともに酒を嗜み、本格的なうどんで〆るスタイルの店が続々登場している。
また、今回の『イチカバチカ』に続き、今年11月には福岡におけるうどん居酒屋の先駆け的存在『二〇加屋長介(にわかやちょうすけ)』が中目黒、来年2月に大手町への出店を控えている。うどん屋からうどん居酒屋へ――、本場の食文化で勝負を仕掛ける福岡勢。江戸時代、スピード重視だった屋台蕎麦のように、蕎麦前ならぬ“うどん前“文化の黎明期となるか。麺にコシはなくとも、腰の据わった営業に期待だ。
(取材・文/井上こん)
<メニュー>
・ゴボウ天うどん 700円
・丸天うどん 750円
・国産豚バラ串 200円
・ポテサラ焼コンビーフのせ 420円
・おきゅうとポン酢 360円
・プレミアムモルツ(生) 550円
・いつものレモンサワー 450円
※価格はすべて税込
博多うどん酒場 イチカバチカ
- 電話番号
- 03-5724-3130
- 営業時間
- 月~土11:00~16:00、17:00~26:00 日祝11:00~16:00、17:00~22:00
- 定休日
- 定休日 年末年始を除き無休
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。