イタリアンやフレンチ、割烹や鮨といったミシュランガイド系ジャンル、あるいは焼肉やラーメン、カレーなどグルメ誌特集系アイテムの店情報は当然入手しやすい。
けれども普段遣いの店、すなわち普通のごはん屋や「仕事帰りに一杯」といった場合のうまい店情報は案外少ない。
いや正確には「薄い」のだ。
「何か特別なもの」を食べに行きたいときには「予約すること」が必須なので、ネットを検索したりガイドブックを見たりするのが当然のことだ。
けれども「特別な食事」よりも「普段の食べ飲み」の方が断然回数が多い。
月あるいは年に何回かの「特別」と、「ほとんどの日」の落差について、それは人それぞれだが、普段の食事がチェーン店系のファミレスや居酒屋ばかりだと、ちょっと楽しくない。
もちろん食べたり飲んだりにかけるおカネのことを言ってるのではない。
普段食べるものを一旦「どうでもいいや」と思ってしまうと、結構ツラいことになる。
というよりそれでは「食の世間」が狭くなるのだと思う。
日に2〜3回の「食べること」。それも「外で食べること」を大切にすることは、単に「うまいものを食べる」のみならず、自分を取り囲む社会生活の調子全体みたいなものをアップしてくれる。
普段遣いの店は「近所の店」に限る。その「近所」は住んでいるところでも、会社の近所でも、最寄り駅の近所でもいい。
店のジャンルは居酒屋でも焼鳥屋でも、おでん屋でもいい。
要は酒場の要素があるところだ。
食べものと酒、店の空気感が自分に合って「ここだ」と思ったら、定期的に通ってその店のコミュニティーの一員になる。2日に1回行ける立ち飲み店なんかでもいい。
コミュニティーなんて言うと大層だが、「店の輪」あるいは「店の仲間」みたいなものかと。
そうなると「ほかの店」のリアルな情報が自然と入ってくるようになる。
「情報」というより、他店についての「世間話」や「店事情」とかであり、具体的な「先週の休みに行った店の話」とか「その店の仲間うちの同業者のやり方」とかだ。
それらはグルメ誌のバックナンバーをめくったり、ネット検索したりして「求めるもの」ではないし、コストパフォーマンスや損得ではない。
たとえば休日の昼、行きつけの親しい居酒屋に行って、座ったカウンターの隣の席ではスポーツ新聞片手の60代のおじさんがイカウニだけで熱燗をシブく飲んでいたり、仲よく20代のカップルがあれこれツマミをつつき合っている。
かと思えばテーブル席では小学生連れのご夫婦一家が、フライものにほうれん草おひたし、アナゴや締めサバの箱寿司で居酒屋というより食堂での昼ご飯…。
そんな幸福な光景からは、幸福なうまいもの情報が話題に上ることが多い。
神戸・新開地、福原の入口にある「丸萬」は、わたしの中では居酒屋に求めるすべての要素に満たされる関西一の居酒屋だと思う。
とくに日曜や休日の昼下がり、老若男女いろんな人々が食べ飲みしているのを見るとそれがよく分かる。
※江弘毅さんのスペシャルな記事『店づきあいの倫理学』はこちら
丸萬(マルマン)
- 電話番号
- 078-575-4184
- 営業時間
- 12:30~21:00
- 定休日
- 定休日 火
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。