私が新卒で入社したのは商社であった。「商社」といえば、避けては通れないのが「接待」。そこで、「接待マナー」を身につけることとなった。女性社員と男性社員では、接待のための研修の内容が異なる。なぜなのか、皆さんの想像にお任せしたい。
ただ、アプローチは違えど「接待」の目的は同じ。相手にいい印象をもってもらう、相手と継続的な関係づくりをしたいなどが主たるものだろう。また、今でもなお「接待」の場で、ビジネス上の大事な決定がくだされることもあり、のんきに食事をしていられない。「おいしい食事を堪能したい」「お酒を楽しみたい」とは言っていられないのだ。
なぜなら、「接待」は、ビジネスの場であるから。このことを一流のビジネスマンは、決して忘れない。
さて、一流のビジネスマンは、接待の時にどんなことに気をつけているのだろうか。ここでは、一流のビジネスマンの「接待マナー」に迫ってみたい。
1.一流のビジネスマンは「香り」を身にまとうのか?
今日は、大事な取引先との接待がある日。
浮き足立ちながらも緊張した面持ちで、午後の仕事を片付けにいそしむA部長。終業時間になり、おもむろに机の引き出しから取り出したのは「香水」。これは、海外出張にいった部下からもらったものであり、世界中のセレブが愛用しているという噂の香水である。先方は、世界のファッションブランドを牽引するアパレル業界の幹部。「負けてはいられないぞ」といつもよりお洒落に気をつかい、念入りに「香り」を身にまとう。
さて、接待に行くにあたり、A部長のとった行動はふさわしいものなのか。
不思議なことに、「香水」は、人を特別な気分にさせてくれる。そのため、手っ取り早く気分を変えたいときに、とても役にたつ。ところが、接待の場には、「香水」はそぐわない。一流のビジネスマンは、香水をプンプンさせながら接待の場に登場するということは、決してない。なぜなら、香水の香りが、一品一品丁寧につくられた料理の香りを邪魔してしまうからだ。せっかくの料理が台無しになってしまう。そこには、「食」に対する敬意、さらには「料理人」に対する敬意がある。
一流のビジネスマンは、「仕事」だけでなく、「食」に対しても鼻が利く。鼻が利くからこそ、人工的な香りである香水を、食事の場に持ち込まないのだ。そこには、料理を引き立たたせようという配慮がある。一流のビジネスマンは、真心のこもった料理から香り立つ「香気」のほうが、香水よりも価値あるものだと知っているのだ。
2.一流ビジネスマンが選ぶ「ワンランク上の靴」
ファッションの基礎は、「足下から」と言われるように、おしゃれな人は、決して靴に手を抜くことはない。靴は、全体の印象を左右する大切なアイテム。接待の時に、どんな靴をはいていくのがいいのかと悩む人もいるだろう。「いつもの靴」よりも「ワンランク上の靴」をはいていきたい心境になるのは、人間であれば誰もそうであろう。
「ワンランク上の靴」とは、いったいどんなものなのか?
接待の時、「靴」が一時的に誰か他の人の手にわたることがある。たとえば、料亭に行きお座敷にあがる場合、女将や仲居さんが「靴」を揃えてくれ、下駄箱にしまってくれることがある。そんな時、ハッとするという経験をしたことはないだろうか。「あ、しまった。今日の靴は・・・」と、嘆いても後の祭り。
「ワンランク上の靴」というと、高級なブランド靴をイメージするかもしれないが、決して高級な靴であればいいというわけではない。それよりも大切なことは、「手入れの行き届いた上質な靴」であるということ。「靴で差がつく」と言われ、私も一時期高級な靴を買うことに熱心になっていたこともあったが、ある時、ふと気づいた。高級な靴をはいても、手入れが行き届いていないと何の意味もない、その人の醸し出す雰囲気にあった靴でないと美しくない、と。
そもそも「高級な靴」は、「特別な時」に足を通すものとしてつくられている。靴職人のことを考えると、「高級な靴」を毎日の仕事場ではくなんて、申し訳ない。「高級な靴」には高級な靴なりの役割があり、手入れの行き届いた美しい状態で、特別な日に履くのがあるべき姿だ。
秘書の私にとって最適な靴は、なんと黒色の3センチヒールのパンプスであった。それ以来、上質な黒色の3センチヒールのパンプス3足を、常時手元に置くようにしたのだ。それが、私にとって「ワンランク上の靴」。1足古くなったら、新しい1足を出迎える喜び。私の定番の黒色の3センチヒールは、周りの人に対してきちんとした印象をあたえ、どうやら安心感をもってもらえていたようだ。
それぞれの職業に見合う靴がある。私が補佐してきたエグゼクティブたちもみな、お気に入りの「ワンランク上の靴」が存在していた。彼ら・彼女らは「上質、かつ自分にあったもの。背伸びはしなくていい」と言う。あなたの「ワンランク上の靴」は、どんなものか。想像を巡らしてみるのと楽しいだろう。
3.一流のビジネスマンは「お酒のたしなみ方・かわし方」を知っている
「お酒を飲んでも、お酒に飲まれてはいけない」。これは接待時の鉄則とも言ってもいいだろう。人には「お酒につよい人」と「お酒によわい人」が存在する。「お酒につよい人」は、接待を比較的楽しめるようだが、「お酒によわい人」は、お酒とのつきあい方に悩むようだ。
「重要顧客からお酒をすすめられた時どうすればいいのか」「お酒が飲めないことが後の仕事に支障をきたさないか」などといった不安が駆け巡る人もいる。かくいう私も、大学生の頃まで「お酒のよわい人」であった。いや、「お酒が飲めない人」と言ったほうが正しい。なので、その気持ちがよくわかる。ところが、幸か不幸か新卒で入社した会社は「商社」であったため、その当時の女性社員は「接待」に顔を出すことも多かった。「接待」は「ビジネスの場」であるがゆえ、たとえ女性社員であっても「酔っぱらう」ことは許されない。上司や先輩から「接待する側」に粗相が合ってはならない、と口酸っぱく言われ閉口したものだ。接待用の研修を受けた私は、接待での身のこなし方への不安はまったくなかったが、自身のお酒を飲める許容量について、心配でしかたがなかった。
お酒のよわい私はどうしたのか?
接待の前に必ず、食べ物を口にしていた。たとえどんなに時間がなくてもである。そのため、机のある引き出しにはすぐに口にすることができるものが豊富に入っていた。時間がある時には、会社近くのおそば屋さんに顔を出すことも。そして、接待が始まり、お酒がテーブルに並ぶと、いよいよお酒を飲み交わす時間がやってくる。もちろん、重要顧客の取引先の幹部からお酒をすすめられることもある。そんな時、こう言うのだ。「おいしくいただきます。でも残念ながら私はお酒音痴ですから、皆さんにお酒を楽しんでいただきたいので、少量で結構です。ありがとうございます」。その後、無理して飲むようなことを言われたことはない。「物は言いよう」と言われるように、うまく伝えることで、相手の気分を損ねることなく、皆さんにおいしくお酒を飲んでもらうことができる。お酒のよわい一流のビジネスマンに聞いてみると、やはり「決め台詞」があると言う。
また、接待が始まる前にあらかじめ上司や同僚に助け舟をだすのもよい。事前に「お酒をつよくすすめられた場合は、よろしくお願いします」と上司や同僚に伝えておくのだ。そして、接待時に、お酒をつよくすすめる人がいたら、上司に合いの手をうってもらう。「じつは、○○は、明日の午前中、社内で大事な試験がありまして・・・」といった具合に。人は「じつは」と切り出されると、弱いものだ。なにか自分にだけ特別なことを教えてもらった気分になるからだろう。「お酒に飲まれない」ようにするために、日頃から会話術を磨いておくことも忘れないでおこう。