名店出身のシェフが表参道に自身の店をオープン!
青山通りから脇道に入ると、ここは表参道なのだろうかと疑うほど雰囲気がガラリと変わる。飲食店もまばらで隠れ家というのにふさわしい店ばかりだ。本日の目指す場所は『Mimosa』。グルメ通で知らない人はいないであろう、あの『シェフス』で4年半もの間、シェフを任されていた南 俊郎氏がオープンした店だ。
上海料理の真髄を守りつつ新しい味を創り出す南シェフの料理とは?
南シェフは出来るだけ現地の味に近づけたいと、上海料理からかけ離れることはしない。『シェフス』がそうであるように、食材そのもののおいしさを120%引き出す料理を追求し、盛り付けも実にシンプルである。『Mimosa』 では伝統を守りつつ独自の“面白み”をプラスして新しい味を作り出す。
例えばこの「中国干し梅入り酢豚」。見た目は決して派手ではないが、まず梅の香りがパァ〜っと広がり食欲をそそる。口にするとものすごく肉がやわらかいのに表面がサクッとしていることに驚かされる。味はというと甘み、酸味、うまみが交錯し、噛むほどに広がる“変化”にどうにも箸が止まらない。特に甘みは今までに経験したことのない爽やかな甘さ。これは梅干しの仕業だろうか? すると、「中国の話梅(ワーメイ)という梅干しです。酢豚が持つ味の要素と同じなのでこの梅干し以外、余計なものを入れずに済むんです。酸も優しくメープルのような味がします」とシェフ。
では肉の食感はどうやって? 「秘密は下味ですね。2種類の粉を使っています。小麦粉はうまみを閉じこめ、片栗粉はサクッとさせる役割があります。もうひとつの秘密は、揚げるのと同じ油をまぶしておきます」とのこと。そうするとサクッと揚がるのだそう。そして高温で鍋を回し続けて揚げ油の中で肉を泳がせる。テクニックは古くから伝わるもの、味には斬新なアイディアを加え、実に見事な皿になる。奇をてらわずに新しさを出す、これこそが本当の意味での“革新”なのだと確信した。
とどまるところを知らず! 若きシェフの類稀な才能をみた
南流アレンジを効かせた絶品料理はまだまだ続く。「最近の上海料理のスープは白濁しているのが主流です」とシェフ。甘鯛を丸ごとだしにしてしまう何とも贅沢な「甘鯛の白濁スープと豆腐干」。たったこれだけ? とも思えるシンプル極まりない材料をじっくりコトコト煮て乳化させる。すると繊細でからだにしみじみ染みわたる優しいスープができあがる。
つるっとした干し豆腐を入れるところがシェフの遊び心。オーダーが入ってから甘鯛を焼いて作り始めるので魚の生臭さがまったく無い。さっぱりしているのにコクがある。コショウを入れると味の変化を楽しめる。このひと皿だけで10品くらい食べた気になる口福のスープである。
この上なくシンプル極まりない「大海老の素揚げ炒め」こそ、火入れと味が問われる料理であろう。南シェフのそれは海老の甘みを生かした最高の火入れであった。殻は食感を残すやわらかさ。頭に詰まったミソもたっぷり味わえる。そして生姜の香りが高く、まさに“海老を食い尽くす”逸品である。
上海から仕入れた金華ハムの塊をスライスしてみじん切り。すると、良い香りと塩気が立ってくる。大根とともにパイ生地に包み一旦冷蔵庫へ。生地が落ち着いてから高温で揚げればぶっくりフワサクの「金華ハムの包み揚げ」ができあがる。手で持ってガブリといけば軽くてサクサクのパイの中からあっつあつの大根と金華ハムがあふれ出す。見た目では想像できない食感と味わいだ。
味の輪郭を塩で決めるシェフが多いなか、南氏は極限まで素材の持ち味を引っ張り出してくる。それがどんなに難しいことか。シェフの人柄を表すかのようにどこまでも優しい味。いたずら心があるのも性格なのか? いろいろな顔がありそうで他の料理もいただきたくなった。
プライベート感あり! 中国の高級タワーマンションの一室がイメージ
洗練されたモカグレーを基調にした店内はスタイリッシュでありながらくつろげる空間。プライベートキッチンに招かれたような気分で食事ができる。店名の由来はミモザが好きだったから。南氏の祖母が花屋だったこともあり、小さい頃から花は身近な存在であった。「ミモザサラダ」を連想する黄色も好き、響きが軽快で覚えやすい、名前だけでは中華料理とわからないのも良いと、点が線につながったので即決。ロゴデザインも中国で縁起ものとされる菱形で、ミモザの花と四角いテーブルをイメージして作った。
中華の料理人の道を志したきっかけは、小学生のときに食べたエビチリ!?
南オーナーシェフは徳島県生まれ。大学卒業後、辻調理師専門学校で中華料理を学ぶ。大阪の予約困難な中華料理店『空心』で修業し、26歳で念願の『シェフス』に入店。現『Renge』の西岡英俊氏の元で研鑽を積む。以来、ずっと『シェフス』の味を支えてきた。メディアにも多数取りあげられたおかげでゆっくり成長できたと言う。徐々に自信がついてきた頃、30歳前半には独立したいと意思を固めていた。そして32歳のいま、若き才能あふれるシェフがいよいよ自らの城を築いたのである。
そもそもどうして中華の道に? 「徳島って夜は本当に早いんですよ。20時には店がしまるんじゃないかな。外食といえばホテルで中華しかなかった」と当時を振り返る。小学生だった南氏は「こんなエビチリ作ってみたいなぁ」と思っていたと言う。影響を受けたのは母親。家には料理本がたくさんあり、料理もおいしかったので自然に興味を持てた。大学までは違う道を進んでいたがやはり料理が好きだと卒業後、専門学校に入学。それからは中華一筋、素材の持ち味を存分に生かしたカラダが喜ぶ南シェフの料理は、クラシックでありながらハッと驚かされるものがある。だからこそファンも多く、この店のオープンを食通たちは首を長くして待っていたのだ!
かしこまらずに遊びにきてほしいと単品は1,000円から、コースでも8,500円。表参道でこの値段は本当に嬉しい。料理、雰囲気、コスパとすべてにおいて魅力的。名店出身ならではの超新星レストランである。
(メニュー)
金華ハムの包み揚げ(2個)/1,500円
大海老の素揚げ炒め(4尾)/4,200円
甘鯛の白濁スープと豆腐干/2,800円
中国干し梅入り酢豚/2,600円
ミモザコース(7品)/8,500円
グラスシャンパン/1,400円
紹興酒(グラス)/1,500円
ワイン(ボトル)/4,900円〜
Mimosa
- 電話番号
- 03-6804-6885
- 営業時間
- 18:00〜24:00(L.O.23:00)
- 定休日
- 定休日 日祝
- 公式サイト
- http://mimosa-aoyama.com
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。