「若者の街」の象徴とされる東京・渋谷。確かに若者向けの店も多数存在するトレンドスポットではあるのだが、看板のない店や、一見客が入れない、オトナのためも店も多数存在する。
そんな渋谷に、看板も電話番号もない隠れ家日本酒バー『Umebachee (ウメバチ)』はある。こだわりの鶏料理と、日本酒をメインに日本ワイン、クラフトビールなど日本の酒を提供する。
一年ほど前、三軒茶屋で人気店だった『Umebachee (ウメバチ)』は、明治通りから1本入った渋谷川近くの場所へ移転した。
一番力を入れているという日本酒は、常時50~60種類のストックがあり、うち10種類をフレッシュローテーションで振る舞う。店主・梅澤豪さんの経験と遊び心で、「そろそろ、飲み時かな」というタイミングで提供しているという。
「我が子のように大事に大事に、育てるように管理しています。秘蔵っ子もまだまだスタンバイしてますよ」と梅澤さん。
梅澤さんはもともと、日本の伝統や文化を伝えるプロジェクト「富士虎」の一員として、全国各地の酒蔵や工芸作家を訪ね歩いていた。そこで出逢った素晴らしい食材や料理や酒、器を『Umebachee』を通しても発信している。その土地で愛され、大切にされているものをもっと多くの人に知ってほしいという願いから、現地の酒屋から仕入れるようにしているのだという。
現地の酒屋から卸しているお酒を取り揃え、中でも珠玉の6本をご紹介いただいた。右から、「会津娘 純米酒 つるし(福島・高橋庄作酒造店)」、「菊鷹~菊一文字 山廃純米無濾過生酒(愛知・藤市酒造)」、「不老泉 山廃仕込 純米吟醸 滋賀渡船(滋賀・上原酒造)」、「秋鹿 純米生原酒(大阪・秋鹿酒造)」、「旦 山廃純米吟醸 無濾過生原酒(山梨・笹一酒造)」、「花巴 山廃純米吟醸(奈良・美吉野酒造)」。
特に印象に残ったのが、「秋鹿」。りんごのような酸が軽やかですっきり。甘みのあるフルーティな酸味が食前酒としても良い。「花巴」は、にごり酒で微炭酸。こちらもヨーグルトのようなフルーティな香りと甘みが特徴だ。「旦」はシルクのような舌触りで、白ワインのような酸味とまろやかさを感じた。
日本酒がメインのお店ではあるが、手に入りにくい人気の日本ワインも扱う。
右から、北海道北斗市でぶどうを自家栽培し、醸造を行っているワイナリー農楽蔵(のらくら)のnorapon ffervescent2015や、四恩醸造の瑞雲やローズ、クレマチス(山梨)、ドメーヌ・オヤマダの洗馬など、普段なかなかお目にかかれない日本ワインも勢ぞろい。
もちろん、クラフトビールもお忘れなく。取り扱い銘柄は、梅澤さんがお気に入りだから、という理由で志賀高原ビールを取り揃える。この日は限定版の「Baby Blonde Miyama」、収穫したばかりの生ホップを使った「志賀高原IPA」「India Black Ale」が入っていた。
昨今の日本酒ブームについては、とても好意的だと話す。「日本酒ブームはもちろん、日本発のビールやワインのブームはとても良いことだと思います。これまで敬遠していた人や、知らなかったけど食べたら好きだという潜在層にもアピールできる機会です。私たちの店を通して、もっと多くの人に日本の職人が作る食、酒、そして器のおもしろさを知っていただきたい」と語った。
全国を飛び回る梅澤さんが、各地で見つけたうまいものだけを紹介
同店では、朝締めの鶏を仕入れ、刺身や鍋などで提供。中でも人気が、ささみ昆布〆だ。
身の弾力とみずみずしさ、噛む度にとりのうまみと、昆布のかおりが交差する。まずは何も付けずに、そしてお好みで岩塩を。わさびを付けると、風味がより引き立つ。
ぜひ合わせたい酒は、兵庫県産山田錦【特A】を使った「【17BY】義侠 純米吟醸原酒 (愛知・山忠本家酒造)」だ。お味は、渓流のごとき清らかで力強く、鶏肉の濃厚なうまみに良く合う。
ツウは、締めた昆布を刻んでもらい、わさびにつけてつまみに。鶏のエキスをたっぷりすった昆布。シンプルだけど至極の肴となる。
秋らしい舞茸とナメコのそうめんは、同店イチオシ! 〆にもぴったり
この時期しか味わえない、舞茸と原木ナメコのそうめんに合わせたのは「天明 槽しぼり 純米本生(福島県・曙酒造)」。キノコのうまみがたっぷり染み出たそうめんを邪魔しない、さっぱりとした味わい。美酒で酔いしれた後の、〆にもおすすめ。おつゆを一口いただくと、塩味を欲していた体がみるみると潤っていく。
キノコや山菜は、市場での買い付けだけでなく農家からも直接取り寄せを行っている。料理長の岩崎崇史さんも「こんなの見たことがない」という地の珍しいものも届くのだとか。その食材をどう調理し、何の酒と合わせるか。梅澤さんと岩崎さんは何度も試作を重ね、形にしている。
味への探求心が人一倍強い梅澤さん。最近は、同一作家、同一釉薬で形だけが違う酒器で味の飲み比べが出来るように酒器のプロデュースを始めたそうだ。
おいしいものを食べなれてきた時ほど、「この飲み方、食べ方が正解だ」と、いつのまにか凝り固まった概念を持って店に向かっている。思い当たる人は概念なんか振り払って、『Umebachee』に行ってみてほしい。ここは、おいしいものを食べ飲ませる、終わりなきアイディアがたくさん詰まっている場所なのだから。
(取材・文/カメイアコ)
【メニュー】
ささみ昆布〆 800円
舞茸となめこ出汁のそうめん700円
日本酒各種(100ml)600円~
ワイン ボトル3,800円~
志賀高原ビール900円
※価格全て税込
※予約はメールで受付:umebachee@gmail.com
Umebachee(ウメバチ)
- 営業時間
- 18:00~0:00
- 定休日
- 定休日 土曜日、日曜日
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。