渋谷駅。京王井の頭線西口からなら、ゆっくり歩いても1分とかからない駅近。飲食店が軒を連ねる路地のビル3階に『日本酒ギャラリー 壺の中』がオープンした。急な階段を上り扉を開けると、立ち飲み用のハイテーブルが置かれた店内に、シャープなライトを照らしたシンプルな空間が広がる。
入口で「飲み比べ放題コース」の代金3,000円(税別)を前払いして入店。お猪口を選んだら、好きなテーブルへ。新規で来店した際には、お店のシステムを説明してくれて、ほどなく、「和らぎ水」が運ばれる。まずはその和らぎ水で喉を潤して……。
今宵の1杯は、どのお酒から始めましょうか?
「どんなお酒がお好みですか?」と、オーナーの石堂孝蔵さんが声をかける。「今宵はこの日本酒はいかがですか?」と、お店のおススメを提案しながら、まずは1杯試飲して感想を訊く。その際、好みや反応を探りながら、「今度はこの日本酒はどうですか?」と石堂さん。ガイダンスを繰り返すうちに、ゆっくりと好みの1本に導かれていく。「混雑時はご対応できない場合もありますが、素敵な日本酒との出逢いをサジェストしています」。
この店は石堂さんが厳選した72種類の日本酒だけを提供するお店。料理は置かずに日本酒の厳選に全力投球する。今、日本酒は外食の一大トレンドとなっているが、「飲み比べ放題」というスタイルと、シンプルでスマートな空間が、そのムーブメントを象徴するかのようでもある。
セレクトの基準は、高価な希少酒ではないが、“ギャラリー”という店名が示すように、47都道府県から蔵元を厳選して72本という豊富な揃えを誇る。「料理がメインのお店は、その料理に合わせて絞り込んでいく傾向がありますが、『日本酒ギャラリー 壺の中』は、おつまみ・料理は置いてないため、どんな好みの方が来店しても、必ず“これが好き“という1本に出逢えるようにしています」と、石堂さんは頼もしい笑顔を見せる。
では、今宵の72本から、バランスよく飲み比べてみよう。
写真左から順に、
①菊鷹 山廃純米(愛知)
絶妙な酸味を持ちつつ、分厚い酒質。ぬる燗にして発酵食品と合わせてみたい。
②風の森 無濾過無加水 生酒(奈良)
フレッシュな香りが立ち、活き活きとした酸がしっとりと広がる。口開けは炭酸ガスが弾ける風味が楽しめる。
③悦 凱陣 オオセト純米酒(香川)
「よろこび がいじん」と読む。滑らかなうまみと濃厚な酸が特徴。甘めの煮物や中華料理にぴったり。
④みむろ杉 純米吟醸(奈良)
「ろまんシリーズ」より。香りがさわやかで、瑞々しくも柔らかな口当たり。甘みとうまみがバランスよくジューシー。
⑤文佳人 純米吟醸酒(高知)
高知産の酒米「吟の夢」で仕込んだ一品。フルーティな吟醸香、軽やかな味わいが印象的。
なお、おつまみ・料理は、持ち込み自由。周辺の東急百貨店や渋谷ヒカリエの地下に立ち寄れば、おいしいおつまみ・料理がゲットできる。手ぶらで来店しても、近隣の居酒屋から出前が取れるので安心だ。お箸とお皿も完備している。また乾杯用のビールやソフトドリンク類などを持ち込んでも大丈夫。
日本酒にも旬がある。深秋までは「ひやおろし」の飲み比べを
「ひやおろし」とは、冬に造ったお酒を、ひと夏低温で熟成させて、秋にお披露目となるお酒のこと。2度目の火入れをしていないのでお酒本来の香味が生きている。季節限定ゆえ、持参する料理・おつまみも秋の味覚を選ぶのも名案だ。その一部を味わってみた。『日本酒ギャラリー 壺の中』では、現在13種類のひやおろしがラインアップされている。
左から
①吉(ゆい) 純米吟醸ひやおろし(茨城県)
香り高い吟醸香が特徴の、甘みが際立つ1本。
②水芭蕉 純米吟醸ひやおろし(群馬県)
水の透明感が伝わる銘柄で酸味と甘みのバランスがよい。
③龍力 純米吟醸ひやおろし(兵庫県)
ほどよく華やかな香りと丸みのある米のうまみ。
④雁木 純米無濾過原酒ひやおろし(山口県)
独特の甘みが広がる。香りだけでなく味に厚みがある。
グラスは3種。65ml入るので、3杯飲んで1合のイメージだ。
海香る天然の塩7種と日本酒のマリアージュを楽しむ
「塩さえあれば、つまみはいらない」と言われるが、本当だろうか。『日本酒ギャラリー 壺の中』では、一般社団法人 日本ソルトマイスター協会が厳選した、日本酒に合う「日本の塩」を用意している。つぎ台に並んだ日本の塩は、自由に試してOKだ。
全7種を紹介しよう。素材の味を感じたいときの決め手となる「復活塩」(石川県珠洲市)、ほのかな甘みを感じる「奥能登海水塩」(石川県金沢市)、まろやかなうまみが素材の魅力を引き出す「伊達の旨塩」(宮城県石巻市)、まろやかな味わいの「海人の藻塩」(広島県呉市)、甘い!そのままでつまみになる「土佐の天日塩」(高知県)、通詞島の釜炊き塩(熊本県天草市)、小笠原の塩(東京都小笠原村)。同じ産地の日本酒と塩を合わせるのも面白い。
日本酒の魅力を知りたい人は壺の中へ!
常連客から「パパ」と呼ばれるオーナーの石堂さんは、1級フードアナリストの資格を持つ。大学卒業と同時に渡米し、アメリカの食環境に触発されて、食の世界に興味を持ったという。「日本の食をもっと世界に紹介したいと思うのですが、その前に、私たち日本人は好んで日本酒を飲んでいるでしょうか? もちろん日本酒好きの方もいますが、ヨーロッパでは、子どもの頃からワインに触れて、生涯においてワインを愛し、ワインを誇りに思っています。日本においても、国酒を大切にする文化を育みたいのです」。石堂さんの心意気に思わず共感してしまう。
ただただ、日本酒の魅力をもっと知りたい、もっと飲みたい!と、願わずにはいられない。思い立ったら吉日。日本酒と仲良くなりに、壺の中へ!
<メニュー>
飲み比べ放題コース 3,000円(閉店まで時間無制限飲み比べ放題)
駆け込み飲みおさめコース 2,000円(21:30以降入店の方に限る)
※いずれも、おつまみ・料理、乾杯用のビールやソフトドリンク類なども持ち込み自由
※価格はすべて税別
日本酒ギャラリー 壺の中
- 電話番号
- 03-6455-3185
- 営業時間
- 平日18:00〜23:00(22:30L.O.)、土・日・祝14:00〜23:00(22:30L.O.)
- 定休日
- 定休日:無
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。