ビールの歴史は長いが、日本のビール文化は海外に比べればまだまだ浅い。昨今のクラフトビールブームにより、個性豊かな日本のクラフトビールが注目されてはいるが、ビールといえば「のどごしの良い、暑い日に飲みたくなる黄金色の飲み物」というイメージを思い浮かべる人が大半だろう。
ビールが苦手という人は、苦みや炭酸が強いことを理由として挙げるが、実はビールの炭酸というのは醸造時に発生するものに加え、醸造後にも加えられているということをご存知だろうか。炭酸が与えるシュワっとした清涼感も良いが、今日は、余計な炭酸を加えない「リアルエール」を紹介したい。
キーワードは「リアルエール」、トレンドを求めて高円寺へ
高円寺駅北口から徒歩5分。2016年2月にオープンした『Beer Engine ビアエンジン』では、イギリスで親しまれている「リアルエール」をメインに提供している。近所に住む常連の方も多いが、都内だけでなく他の関東圏のビールマニアも噂を聞きつけて足を運ぶ人気ぶりだ。
オーナーの五影壮一郎さんは、大阪のビール会社「箕面ビール」に約4年勤め、製造・販売のノウハウを学んでいた。今年2月、お客さんと対面してコミュニケーションを取り、ビールについての感想や意見を聞きたいとバーを開業。夢へのステップアップとして、学生時代に住んでいた高円寺を舞台に選んだ。
「ビールが好きで、特にリアルエールが好きだったので、せっかくなら特化したバーを開きたいと思いました」と五影さん。常時7~8種類の国産クラフトビールを扱い、うち5種類はリアルエールである。時には限定のビールが登場することも。ビールは鮮度が大事と、開栓から最長でも3日で提供しきるように調整している。
都内に多数新規オープンしている、クラフトビールをウリとするビアバーと決定的に違う点は、リアルエールをかなり良い状態で提供してくれる点と、その種類の多い点だ。自分のことを『DJのような役割」と称し、酒蔵が造るおいしいビールを発掘し、広めていきたいと話す。「トレンドのクラフトビールメーカーのものを出すことは、ちょっとクラフトビールを勉強すればできる。まだ世に知られていないけれど実はおいしいビールを広めていくことが、この店の使命だとおもう」(五影さん)
リアルエールは、繊細な味覚を持った日本人に合っているとも話す。醸造にも違いがあるのだが、気が付きやすい点としては、微炭酸で冷やし過ぎていないということ。その分、刺激で味がぼやけることがないのだ。使用する麦やホップ、醸造家のセンスによって発酵具合にも変化が出るため、その違いを如実に感じられる利点もある。
ハンドポンプで優しく、穏やかにグラスに注がれていく。一般的にサーバーのビールは圧力をかけて噴出するように注がれるため、余計な気泡が意図せずとも加わってしまう。一方、ハンドポンプは井戸水のようにくみ上げるため、注ぐ者の微妙な感覚によって、テクスチャーに違いが現れる。画一的で機械的なサーバーよりも、人のクセや好み、こだわりが現れやすいのだ。五影さんは、この両者の違いを「CDとレコードの違い」と表現する。
巷にある氷点下を売りにするビールももちろん魅力的ではあるが、五影さんが提供するリアルエールは、口に含んだ時に清涼と感じる程度の冷たさ。温度はサーブされて時間が経つごとに味が変化していく様を楽しめるように調整されている。
イギリスでパブ巡りをした際に感じたビールのおいしさと雰囲気を感じてもらいたいと、ビールはUKパイント(568ml)で提供。泡が出ないようにやさしく注ぎ、グラスの縁ギリギリまで注がれる。そう、これがブリティッシュスタイル。日本人は泡を入れろと怒るが、イギリス人は泡を入れるな!と怒るのだ。
右から、アメリカ産のカスケードホップをたっぷり使用した「木曽路ビール ペールエール(alc5%)」、2012年ワールド・ビア・アワード金賞受賞の「箕面ビール ダブルアイピーエー(alc9%)」、ローストバーレイ(非麦芽)を使用した「ビアへるん 縁結麦酒スタウト(alc5%)」だ。「ペールエール」は、フルーティな甘さで日本人の口に馴染みやすい。「縁結麦酒スタウト」は、乳糖を使用し、舌を包むようなまろやかさとコーヒーのようなアロマティックな香りが特徴。スタウトにしては飲み口がすっきりしていて飲みやすい。「W-IPA」は同店でも人気の高いエールで、飲み始めは柑橘系のピールのような苦味もありつつ、中盤はぐっと麦芽の甘みが前へ出る。他の2つと比べると苦みが強く、インディアンペールエールと位置づけられるが、麦芽をたくさん加えた分、モルト風の甘みと香りの余韻に包まれる。
ビールは喉が渇いていると一気に飲んでしまうこともあるが、リアルエールは「この料理にどのビールを合わせよう」と食中酒として、じっくり楽しむことができるのだ。時間による味の変化を感じながら、慈しむようにいただきたい。
料理研究家が監修したおつまみがリアルエールと相性抜群!
まずは、「イカとセロリのマリネ」で、これからたくさん飲むぞと胃を準備。ビネガーとセロリの爽やかで軽快な風味が、次は何を口に運ぼうかと期待させる。
「ツナとクリームチーズのディップ」は、チーズの酸味とツナの甘みがうまく絡み合い、舌触りもとてもなめらか。
「特製フライドチキンのポテト添え」は、特製の液に鶏肉を漬け込み、身がしっとりしていて、冷めてもそのジューシーさを失わない。ハーブとスパイスの香りがビールを進ませる。
最高のビールをより、至極のものにする料理の数々は、どれもリーズナブルでビールに合うものばかり。ビール専門店だし、料理は二の次と考える人も多いかもしれないが、同店は料理もぬかりない。
「楽しいひと時を提供したい」とは、五影さんの願うこと。ビールも料理もおいしいからこそ、次も足を運びたいと、きっとあなたの舌が催促するはずだ。
(取材・文/カメイアコ)
【メニュー】
木曽路ビール ペールエール(UKパイント1,200円/ハーフパイント700円)
ビアへるん縁結麦酒スタウト(同上)
箕面ビールW-IPA(UKパイント1,300円/ハーフパイント750円)
イカとセロリのマリネ風サラダ(420円)
ツナとクリームチーズのディップ(380円)
特製フライドチキン(500円/ポテト付+300円)
※価格すべて税別
Beer Engine
- 電話番号
- 050-5783-1585
- 営業時間
- 平日17:00~25:00、土祝15:00~25:00
- 定休日
- 定休日 日曜日
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