神戸中華街のルーツとは?
今回は神戸の中国料理について。
慶応4(1868)年の神戸開港によって外国人居留地が開かれ、貿易などに従事する外国人が集まった。中国(その頃は清国)人も例外ではない。とくに、明治4(1871)年の日清修好条規が結ばれてからは、神戸に来る中国人の数が急速に増加した。ミナト神戸の発展性を見込んで長崎から移ってきた華僑も多い。
その神戸に移り住んできた華僑たち、とりわけ広東系の貿易商たちは、食事を賄うために専属の料理人をおいていた。かれらを支えるための食料品店が店を構えたエリアが、神戸の中華街として知られる「南京町」である。昭和29(1954)年創業の『神戸元町別舘牡丹園』はそのルーツを受け継ぐ広東料理店である。
店のシンボル・マークにもなっている初代の王熾炳さんは、作家・陳舜臣さんほかに絶賛された料理人であるが、昭和初期10代の半ばに来神し、華僑系貿易商に所属するコックとしてスタート。神戸の広東系華僑社会のグルメたちの中で腕を磨いてきた。
したがってこの老舗広東料理店の料理の特徴は、神戸牛や瀬戸内〜明石海峡の魚介類といった地元素材をふんだんに使って、「食在広東」の伝統料理をモデファイしてきたことだ。
中国料理がフレンチやイタリアンのそれとは事情が違うわけ
神戸の華僑社会のネットワークは、香港や台北、シンガポール、バンコク、サンフランシスコなど、同様のチャイナタウンと密接に関係があった。革命後、国際社会に長く閉ざされた中国を横目に、貿易商や商社マンたちは現地の広東料理のトレンドをキャッチして神戸に伝えた。
広東料理のモードは世界を股にかける華僑商人とともにあるので、その国その地の食文化をフュージョンさせながら現在進行形で変容している。
フレンチ・イタリアンのそれとは少々事情が違うのだ。
例えばオイスターソース。
この店は広島の水産業者と契約、極上のものが獲れる時期のみの牡蠣から搾った自家製だ。
コースの締めに出されるネギと生姜のオイスターソースの和えそばは、この店ならではの味で抜群にうまい。また、蟹肉入りふかひれスープ、牛肉の広東風ステーキなどは、関西風味の神戸らしい広東料理としてぜひ味わいたい。
神戸の中国料理店は、店名の横に広東料理、北京料理(『神仙閣』を紹介した記事「わがままを通すことが「食通」だと思うカン違いとネットにすべてを委ねる思考停止について」はこちら)、上海、台湾…と中国料理においての系統が表記され、どういう地域的特徴、スタイルで料理が出されるかが示されている。
それはその店のオーナーやシェフの出身地やルーツがその地にあることを物語るものだが、なによりも親子孫3代の神戸流チャイニーズ・コミュニティがこの『神戸元町別舘牡丹園』をはじめとする神戸の中国料理のイノベーションを担ってきたことを念頭に置いて、それぞれの店の味を楽しんでほしい。
神戸元町別館牡丹園
- 電話番号
- 078-331-5790
- 営業時間
- 11:00~14:30(閉店15:00)、17:00~20:00(閉店21:00)
- 定休日
- 水曜、祝日の場合は翌日休(12月31日~翌1月1日休)
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。